/サード・デイ

/サード・デイ
 the before dark

 よく分からぬテンションで騒ぎなら爆走(黄瀬が調子のってエンジンふかしまくった)したリバーサイドを離れ、再び街中へと戻る。日は既に暮れる寸前である。わずかに空の端が白んでいる程度だ。
 これからテツとさつきの泊るホテルへと向かい、ふたりと合流する。近場でてきとうに飯でも食ったなら、もうチビともお別れである。たったの2泊、どころかベッドを共にしたのは一夜だけだったが、それでも今晩のベッドにはこいつが居ないのだな、と思うと少し据わりの悪い気分がした。
 ネオンが目立ち出した街中を滑るように滑走する。開けたままのルーフは乱立する摩天楼の様相もよく見せた。輝くオフィスビル群の室内灯、バーやクラブの派手派手しい電飾、巨大な液晶スクリーンに、デジタル広告板。ここはニューヨーク、マンハッタン。世界中のあらゆるものが詰め込まれたこの様子は、ここにしかない光景だ。
 ホテルに到着する。正面玄関前に静かに停車させると、既にテツらは表に出て待っていた。
「よ」
 助手席から適当に手を挙げて言うと、ふたりとも呆れたような驚いたような・・・なんとも言い難い表情でこんばんわ、とか二日ぶり、とか言った。うん、確かにポルシェでクラシックでコンバーチブルで運転手は金髪サングラスのモデルで助手席にはNBA選手って、なかなかアレだよな。分かってる。それでもホテルのドアマンは顔色ひとつ変えず。さすがプロだ。それに、NYでは俺たちみたいな奴も別に少なくはないだろう。
「んな顔すんなよテツ。おらチビ、とーちゃんとかーちゃんだぞ」
 ドアを開けてやると、飛び跳ねるようにチビが駆け出す。さつきが嬉しそうにそれを抱きとめて、いい子にしてた?と万遍の笑顔で言う。ああ、いい子にしてたぞと、俺は心の中で呟いた。
「黒子っち!桃っち!後ろ乗って〜ごはん行くんでしょ?」
 黄瀬が、ほんとはチビのように飛びつきたいのを我慢して大人しくシートベルトにおさまったまま大きく手招く。
 それにチビが率先するように両親の手を引き車に乗り込んできて、しっかり着席したことを確認して発進。
 チビがこの三日間のことを一生懸命テツとさつきに報告しているのを聞きながら、ゆっくりと街のなかを走らせた。
 興奮して、話の尽きないチビはそれは楽しそうに喋り続けていて、その様子を俺もミラー越しに眺めては聞いていた。ちゃんと一言一言を大事に聞いているテツとさつきの顔も、やはりチビと一緒でどこか楽しそうだった。あんな顔をさせられたんだから、きっと俺たちの三日間は大成功だったと言って良いだろう。腕を伸ばして黄瀬の肩を運転の邪魔にならない程度で抱くと、俺の思っている事が分かるのか、黄瀬もそうだね、とでも言うように微笑んで頷いた。
 ミラー越しのチビの横顔と、テツとさつきの横顔が。なにがとははっきり分からないが、それでも似ている事に俺は気付く。ああ、これが親子ってもんか、となんとなく理解することが出来た。
 そしてふいに、ミラーを見遣ったテツと視線が絡む。子供に見せていたままの優しい顔で、テツは言った。
「ありがとうございます。」
 真剣で真っ直ぐなその表情と声に、少しばかり恥ずかしくなった俺は誤摩化すように軽く、ミラーから目線を外すとお座なりに手を振って「おー」とだけ返した。


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