/セカンド・デイ

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 the morning

 朝だ。
 空模様を見なくとも、時計を確認しなくとも。朝独特の空気の流れを感じる。俺の腹んなかの時計も今が朝だと告げている。起きるのに、頃よいころだと。
 俺は階下から僅かに聞こえる包丁がまな板をとん、とん、とする音で目覚めた。そして薫るコーヒー。アメリカに来てすっかり、コーヒー文化に感化されてしまった。
 リビングに顔を出すと、黄瀬はきゅうりを刻んでいた。脇の水切りボウルにはレタスがこんもり。スモークサーモンと、千切られたモッツァレラ、パプリカが水に晒されている。黄瀬の作る料理は、彩りも見た目も美しかった。それが黄瀬のこだわりなのかもしれない。
「おはよー。はい」
「はよ。さんきゅ」
 お決まりのように揃いで買ったマグカップのコーヒーを受け取る。俺は砂糖を3/4匙。黄瀬は当然それを覚えているし、俺も黄瀬の砂糖ひと匙半を覚えている。それと、疲れた黄瀬は砂糖を入れずブラックで飲みたがると言うのも。
「ね、俺朝ご飯やんなきゃだからさ、青峰っち、起こしてきてくれる?」
 コンソメスープをかき混ぜていたお玉で二階を指し示し、首を傾げられる。今日はその額を変な髪ゴムで晒すことはしていない。残念ではあるが、昨晩よくよくそこは味わったし、まあいいとしよう。
「ん、」
 半分ほど残ったカップを置いて、頷くとともに黄瀬に顔を寄せて頬へキス。おはようのちゅー、というやつ。俺の右頬にも、お返事が返ってくる。

 客室を覗くと、大きなベッドには未だこんもりとしたなだらかな小山が出来ていた。
 正直を告白すると、俺は子供が得意ではない。俺が得意でないというより、子供のほうが俺を得意でないというか・・・見た目の所為か、大抵の場合敬遠されてしまう。
 バスケ好きの、選手としての俺を好いてくれているガキどもはいいんだ。そんな俺を怖がらないガキ相手には特に戸惑いなく俺も接せられることから、本来子供が苦手、という訳ではないんだと思う。しかし俺に引き気味の相手となると、とたんどうしていいものか、よく分からなくなる。
 こいつの事はそれこそ、産まれたばかりのときから、産婦人科のベッドでさつきに抱えられてるときから知ってる。以後も年一回か一年おきくらいには会っている。しかし、懐いてくれた、とは言い難い。黄瀬にはもう完璧に懐いているだろう。きーちゃんきーちゃん、と昨日も一日にこにこしていた。
 びみょーーな距離を保っている俺たち。俺が最初このお泊り話を聞いた時に素直に喜ばなかったのは、こうした懸念材料があったからだ。一日はもう過ぎた。ではあともう二日間、うまいこといけばいいんだが。


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