/セカンド・デイ

/セカンド・デイ
 the dawn

 意識の向こうで、なにか気配が動いている気がする。俺は未だ、眠りの最中にある・・ようで、目覚めの瀬戸際にいるようで。
 半分夢見心地のような不安定ななか、意識の淵、その気配を感じていた。
「・・ん?どうしたの?」
 小声、小さく潜められた、細い声だ。寝起きらしく掠れてもいる。
「・・・おしっこ。」
「ああ、そっか。ちょっと待ってね・・」
 布団がもぞもぞして、バタつかせた黄瀬の脚が何度か俺に当たる。ああ、布団なかでズボンはいてんのか。脱いだまま、そんまま寝ちまったから。
 するり、と腰に回していた俺の腕が解かれる。
「ん、行こっか。」
 ぺたりぺたりとフロリーングを歩く音。聞き慣れたあいつのと、体重の軽い高めの。それが遠ざかっていく。
「えらいねぇ、ちゃんと呼びに来れたスね。」
「うん。お家では、時々ひとりでも行くんだよ。」
 小さな声も、次第に聞き取り辛くなる。
「そっか、もうおにぃさん――――」
「うん、ぼくもう――――」
 まるで子守唄のようだ。トイレから遠く水音がかすかに聞こえる。それと、なにかを話しているのであろうふたりの声。身体に力は入らず、俺はまどろみ続けている。
 抱き枕よはやく戻って来い、の意思を込めて隙間のあいたシーツの上でわさわさと腕を蠢かしていると、指先になにかが触れる。半ば無意識にそれを引き寄せて、布団の中でその布らしきものを確かめる。と、ベッドがキシリ、と微かに鳴く。布団をまくり上げて滑り込んでくる黄瀬に、俺は小さく笑いながら手のものを眼前に差し出した。
「ん?起こしちゃったスか、てか何これ・・あ、」
「ふっ、ノーパンか、今。」
「もぅ・・・しかたないじゃん。」
 目は瞑ったままなので見えないが、きっと照れくさそうな顔をして、黄瀬は再び布団のなかでもぞもぞし出した。チビに起こされ、布団の中が実は半裸だなんて事に気付かれないよう、慌ててズボンを穿いたのだろう。ベッドに下着の忘れもの。なんて間抜けで、なんて可愛いんだろう。
 ズボンをまた脱いで、そして下着だけを身につける。ボトリと床になにかが落ちる音がした、きっとめんどくさがった黄瀬がズボンの着用を諦めたのだろう。
「・・何時?」
「まだ夜明け前。もっかい寝よ」
「ん、」
 戻ってきた抱き枕をぎゅっと引き寄せて、お互いに収まりのいいポジションを見付けたら、すぐに眠りはやってきた。
 俺はほぼ無意識のなかで、その完全な眠りが訪れるまで、腕を廻した黄瀬の腿を撫で続けた。


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