/セカンド・デイ

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 the forenoon

 朝食後はしばしソファでくつろぎ、午前中は近くに散歩に出る事にした。この辺りはちょうど湾にも近くそこからはリバティアイランドの自由の女神像を見通すことが出来たし、それなりの規模の公園も複数個あった。
 近場を案内しつつ、歩道を三人並んで行く。なんとなくの気持ちで持ち出してきたバスケットボールをつきながら歩いていた。ドムドムと心地よい音がする。俺や黄瀬にとってこの音がすでに日常の一部なように、チビにとってもこの音は産まれたときから共にあるものだった。ああでも、俺が面白がってこいつがまだ腹んなかにいる時からさつきに胎教だといってNBAのDVDを大量に渡していたから、産まれてから、というより産まれる前から、と言ったほうが正しいかも。
 公園に着き、芝生が眼前へと現れると、チビは喜んだように飛び跳ねた。黄瀬の手をとって駆け出す。俺はその場に座り、手元のボールを弄びながらその光景を眺めた。

 ひとりでじっとしていると、声をかけられる率は高くなる。それに今日はご丁寧に分かり易くバスケッドボールまで持っているときた。俺がここらに住んでいることは地元の者なら大抵承知なので、囲まれてしまったりと煩わしいほどのことには発展し難い。地元のファンは、結構そこらへんを弁えている。
「プレイオフいい試合だった、おつかれ」
「ダイキ、来季もチームを頼むぞ!」
「これからも頑張れよ!」
「すみません、握手をいいですか?」
 何人かに声をかけられた後、ジョギングを中断して近寄ってきたらしい男に手を差し出された。汗を吸ったそのジャージの胸には、俺が所属するチームのエンブレムがあった。グッズショップで売っているやつだ。俺は座ったまま手を伸ばし、男が握り返してきたのに合わせてぐん、と力を込めて立ち上がった。
「あぁ、会えるなんて。光栄だ。君がチームに移籍してきたときから、ずっとファンなんだ。」
「そりゃどうも。」
「君のあの・・予測出来ない動き!最高だよ。この前のデンバー戦のあのクラッチなんか、俺スタンドから転げ落ちそうなくらい興奮して叫んだんだよ!」
「あーアレな、あれ実はトリプル狙ってたんだけどよ、さすがにきつかったわ。」
「はは!ダイキなら本当に出来てしまいそうでこわいなぁ・・っと、オフなのにこんな、悪かったね」
「いや、ちょうど暇してたし別に――」
「あおみねーっち!」
 身振り手振りで興奮して話す男が、はっとしたように握った手を離した時、後ろから黄瀬の声が聞こえてきた。チビを抱えてこちらへ走ってきている。ふたりとも芝生を転がりでもしたのか、所々に青々と草を引っ付けていた。
「おお。」
「そろそろ帰ろー、あれ?青峰っち知り合いっスか?」
「んにゃ、ファンだと。」
「ああ!いつも応援ありがとうございますー」
 黄瀬が納得したように頷いて、にこにこと日本語から英語に切り替えて小さく頭を下げる。
 男は少々戸惑った様子だったが、俺のファンなのであればこの目の前に居る金髪が誰なのか、知らないということはないだろう。はっと気付いたような顔をして、男も慌てて手を差し出す・・が、それに黄瀬は困ったような顔をして、肩をすくめた。
「ごめんなさい、今手を離せなくって。」
 その両腕はチビを抱える事で塞がってしまっている。男も、ああ!と言って手を慌てて引っ込めた。
「あっジャージまでチームのだよ〜青峰っちちゃんとお礼言ったー?」
「おー。いつも応援アリガトな。」
「とんでもない!こっちこそいつも楽しませてもらってて・・・ところで、その、」
 それまでハキハキとしていた男が、急に口籠らせてちらちらとこちらを窺ってきた。そして意を決したように、「その子」、と黄瀬の腕の中を指し示す。
「その子は、ダイキの子供かい?いつのまに・・・・、」
「え?」
「は?」
 妙な沈黙が、四人の間を吹き抜けた。


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