/ファースト・デイ

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 the afternoon

 黄瀬のポルシェを見て一瞬黙ったテツは見ない事にして、車で走り出した俺たちは取り敢えずマンハッタン島に渡ると車でエンパイアステートビルやらそれらしいところをドライブし、遅めの昼を取る事にした。リトルイタリーまで足を伸ばし、俺と黄瀬も何度か行った事のあるレストランに入る。レストランと言っても、随分気軽いところだ。店主の親父の話が面白い。イタリア訛りがひどすぎて時折聞き取れないところがミソ。
 その後は、テツとさつきの荷物を置きにホテルへ。チビは今晩から俺らん家に泊るから持たせたまま。ここでテツとは別れた。日本から来ている担当者と合流するとか言ってたな。
 そこからは、まだ時間もはやいが早速家に向かう。遠回りだが、リバティアイランドの自由の女神像が見れる道を通って帰宅。さつきとチビをうちへご招待、だ。

 自宅へ帰り着き、黄瀬がするりと滑り込んだ駐車スペースの横には、車がもう一台並んでいる。黄瀬のポルシェよりも二周り三周りは大きいか、というような、デカクてゴツい車体。俺のハマーH2だ。ハマーは軍用ハンヴィーを元々のモデルにした車で、その見た目はそれはもうイカツイ。そして見た目のみならず、無駄に頑強。日常生活でその耐久性が必要なのか、ってくらい強靭。オフロードレースや警察車両なんかにも採用されているくらいだ。日本じゃそうそうお目にかかれないサイズ感で、女子供にとっては威圧感のある代物かもしれない。
 その通り、さつきとチビは黒光りするその車を見上げて小さな声でうわあ、と呟いた。チビなんか、車体の半分ほどしか身長がないんじゃないか?
 そんなチビを黄瀬が抱き寄せて、玄関へ向かう。
 それなりに広い家ではあるが、しかし大それた程でもない。黄瀬も俺も、その気になりゃもっと高級住宅地の、高級物件に引っ越す事は出来たが、広すぎる家、というのは俺たちには似合わなかった。今で十分、満足している。
「ただいまぁー」
 黄瀬がそう声をあげて、扉を開けた。染み付いた習慣で、俺もただいま、と続ける。例え家に誰も居なくても、思わず言ってしまうのはもう拭えない癖のようなものだ。それを後ろから見ていたさつきが、なんだか面映そうな顔をしておじゃまします、と小声で。そしてチビもそれに倣った。
「いらっしゃい、我が家へ!」


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