そうして明日がくるように、曉は昇り、私は続いてゆく




――あと少し、あと少しでも、駄目なんですか?
  せめてあと半年だけでも。いいえあとたったひと月だけでも、夏だけでも!
――黄瀬くん、君はこれ以上バスケを続けると、すぐに歩くのも困難になるよ。プレイの精度も、これからどんどん欠いていくだろう・・・・そうなりきる前に、バスケは辞めるべきだと、私は思う。このまま無理を続けていくと、自分の意志通りに動かなくなっていく身体にじわじわと失望していきながら、そしてとうとう本当に脚を壊すことになる。
――でも、せんせい、
――残りのバスケ人生を出し切って出し切って出し切って・・・そうしてある時、パンと弾けるように脚がダメになる、なんて都合のいいようにはならないんだ。君の脚はじわじわと、その機能を低下させていく。最後には一歩踏み出すだけでも膝を震わせる、そんな無様で後味の悪すぎる終わりになるだろう。だからそうなる前に、出来るだけはやく。見切りをつけるべきだと考える。・・君は、モデルでもあるんだろう。
――は、い
――うん。これ以上バスケを続けると、ます近いうちに、美しい歩きが出来なくなる。
  そして踏ん切りが効かなくなり、曲げ伸ばしがぎこちなくなり、走れなくなる。そしてとうとう少しの負担で震え出すようになるだろう。最後に待つのは車椅子。そしてそこからの長い長いリハビリ生活。それでも、もう元のようには歩けない。
  君が優秀なバスケットボールプレイヤーであることは承知している。しかし君は同時に、モデルでもあることを、私は知っている。君の未来の為に、美しく歩けるうちに、バスケは諦めるべきだと、私は思う。








 県予選を終えた次の週、アパートの近くの大きな大学病院へと精密検査を受けに行った。そこで下された診断は、まったく色よいものではなかった。
 幾度か通って、最後にはこう、告げられた。
 "諦める"、その言葉の響きが、いつまでも脳裏から剥がれなかった。
 でも、もうそれしか自分には出来ないのだとも、遠くの方で知ってはいた。
 理解が追いつかなかろうと、俺は、知っていた。
 いっそ、完膚なきまでに壊れて欲しかった。
 もうこれ以上なにがあっても無理です、君の脚は粉々です――いっそ、そのくらい酷い言葉を言って欲しかった。
 こんな生温い言葉を突き付けられるくらいなら、いっそ、いっそ、一縷の希望も残さないくらい、絶望したかった・・・・でも、それさえも、出来なくて。単純に悲嘆に暮れるだけのことも許されなかった。
 すべてが曖昧のなか。曖昧のなかことは進み、そうして俺は、その夏バスケをやめた。


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