俺はしばらく観察することにした。


時は三十分ほど戻りまして。

さすがの俺も吉村さんに食パンぶつけた時は絶対殴られると思った(あの時は動揺して逆に冷静だったのだ)。でも吉村さんこめかみひくつかせながら俺の荷物担いでエスコートしてくれんだもん。
そのとき俺はズッキュンと胸を撃ち抜かれたよ、ちょうど道端に捨てられてた犬に。前を歩く吉村さんを背中で見送りつつ子犬を撫でる。柴犬の血が入ってそうなチビはクルンクルンでそれはもう可愛かった。指を出せばそれにチューチューと吸い付かれた時にゃ、おらぁこいつぜってぇ飼うだぁ〜と訳のわからんキャラになるほど子犬に骨抜きにされてた。
そんなとき、俺がいないことに気がついたのか吉村さんが顔を真っ赤にして息を切らしながら俺の横にしゃがみこんだ。チラリと横目で見ると、おっかない顔で子犬を睨んでるではありませんか。俺はしばらく観察することにした。

数分後、吉村さんはゆっくりと子犬に手を伸ばした。
子犬はビクッとしながらも吉村さんを上目遣いで見上げて恐る恐るチロリとその指を舐めた。はぅっ……!思わず鼻を抑える。なんて可愛いんだコイツ……!!悶えながら吉村さんを見ると、吉村さんも可愛いと思ったのか頬が緩んでいる。お主も犬派か……!と嬉しくなって、子犬を抱き上げて吉村さんに差し出した。
戸惑いつつも受け取った吉村さんは、目を垂れ下げながら子犬を抱きしめていた。子犬は吉村さんの胸元のバターを必死で舐め回していた。

最初は微笑ましく見てた俺も、あまりの子犬の必死さに笑いが込み上げてきて、『バっ、バター犬……!!』と吉村さんの背中を叩きつつ爆笑した。そんな俺に真っ赤になった吉村さんは子犬を落っことし、子犬は無事着地したもののビビったのか、吉村さんの足元にションベンを漏らし、俺はさらに爆笑し……吉村さんはというと俺が爆笑していたその約三十分間ずっと顔を赤くしてプルプル震えながら突っ立ってた。
ちなみに俺の家から学校までは片道十分もかからない。

俺の話を聞いたクラスメイトたちは顔面蒼白で、ハハハと乾いた笑いを漏らしながら徐々に俺から距離を離した。休み時間に話しかけても誰からも返事はない。高原なんか掃除用具入れに向き合ってブツブツ言ってるし。
ふう……高校生の友情ってこんなもんなんだろうか。たかが不良一匹で、こんな余所余所しくなるなんて……。

やるせない現実になんどもため息をつく。後ろの席の山田は机を蹴らなかった。これみよがしに山田を見つめながら大きくため息をつくと震えた手で飴を差し出されたので、それを受け取って仕方なくため息を我慢した。


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