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想いを秘めて染まれ

高校生活も軌道に乗り、2人は無事、バレー部に入部した。1年生ながら圧倒的な実力を見せつける牛島は早くも頭角を現しており、名前の方はというと、こちらも要領よくテキパキとマネージャー業をこなしていた。正に、順風満帆である。
一方、学園での生活においても、特に大きな問題はなかった。が、牛島には驚いたことがある。それは名前の頭の良さだ。
白鳥沢学園は県内でも有数の進学校として名高く、それゆえに頭が良い人間がゴロゴロ存在する。そんな中でも名前は、トップクラスの頭脳を持ち合わせていた。なぜそんなことが分かるのか。それは、ことあるごとに貼り出される学年順位の結果を見れば一目瞭然である。
個人情報云々が厳しい昨今において珍しいかもしれないが、白鳥沢学園ではテストが終わると成績優秀者上位30名のみが表彰されるシステムになっている。その上位10位以内に名前を連ねているのが名前だった。
牛島も馬鹿ではない。むしろ平均より上の成績ではあったが、名前ほどではないことは確かである。入学時、きっと頭が良いだろうと予想していた牛島ではあったが、まさかこれほどとは思わず、純粋に驚いていたのだ。


「名字はすごいな」
「ん?何が?」
「成績優秀者の中に名前があった」
「ああ…たまたまだよ。この前のテストの時は調子良かったのかな」


頭が良いことをひけらかすこともせずそう言う名前の姿は、第一印象と同様、牛島にとって好印象に映った。そして同時に、もっと名前のことを知りたいと思うようになった。理由は分からない。しかし、異性のことを知りたいと思ったのは、確実に初めてのことだった。牛島がバレー以外のことに興味を示すのは、それぐらい珍しいことだったのである。


「名字は勉強が好きなのか」
「まさかぁ…好きではないよ。やらなきゃいけないからやってるだけ。勉強を疎かにしたらバレー部のマネージャーできなくなるから」
「そうか。家が厳しいのか?」
「どうかな。私はもう慣れちゃったけど、少し普通の家とは違うかもね」


名前はそう言いながら苦笑した。なんでも名前の家は、昔から代々続く呉服屋を営んでいるらしい。そのため、幼い頃から華道や茶道、着物の着付けなどを徹底的に叩き込まれたという。
勉強に関してはそこまでキツく言われなかったものの、常識と良識を備えておけと常日頃から言われていたこともあり、自然と自ら勉強するようになったと話す名前は、それが苦痛だったとは言わなかった。牛島もまた、名前ほどではないにしろ、家柄のことでは少し形式ばったところがあるため、少なからず共感する部分があった。
特に意識しているわけではない。しかし牛島は、名前のその雰囲気と僅かな共通点を擦り合わせることによって、一緒に過ごす時間を少しずつ心地いいと感じるようになっていた。


「牛島君が色々きいてくるの、なんか珍しいね」
「そうか?」
「バレー以外のことに興味なさそうだなと思ってたから…ちょっと意外だった」


そう言っていつかと同じように綺麗に笑う名前に、牛島もまた、いつかのように見惚れた。本当に綺麗に笑う女だ。牛島はぼんやりとそんなことを思う。
そんな時だった。教室内が騒がしくなり、騒がしさの中心となっている人物を確認すると、そこにはひょっこりと顔を覗かせる天童がいた。どうやら牛島達のクラスに遊びに来たようである。
天童は2人と同じバレー部であり、少し変わった…というか独特な性格をしていた。常にゴーイングマイウェイ。人によっては不快に感じるのではないかとヒヤヒヤするようなことも平気で言ってのけるし、周りからの視線をあまり気にしていない様子が見受けられる。
そんな天童だったが、2人は上手く付き合っていた。2人だけではなくバレー部の面々は皆上手く付き合っていたのだが、天童は特に牛島と名前がお気に入りらしく、よく遊びに来るようになっていたのである。


「やっほー若利君、名前ちゃん」
「天童君、どうしたの?」
「遊びに来たんだヨー。あ、もしかしてお邪魔だった?」
「まさか。そんなことないよ。ね、牛島君」
「あ?ああ…」


同じ学年の天童は、良くも悪くも裏表のない性格だ。覚、という名前なだけあって(名前は関係ないのかもしれないが)、色々と細かいところまで気付く。だから牛島の微妙な返答にも、目敏く引っかかりを感じたのである。もしかして、ぐらいではあるものの、その予感を察知した天童はニヤリと笑う。何か悪戯を思い付いた子どものように。


「ねぇねぇ、何の話してたの?」
「ん?うちのお家事情とか?」
「何ソレ!もっと高校生らしい話しよーよー!」
「例えば?」
「恋バナとか!」


天童は牛島を観察しながら言う。大きな表情の変化は見られないが、微かに眉がピクリと動いたのを、天童は見逃さなかった。
牛島は感情の変化が読み取りにくいタイプではあるが、全く変化しないというわけではない。人間である以上、どんなに分かり辛くてもどこかに変化は表れるのである。


「名前ちゃんの好きなタイプ教えて!」
「天童君、そんなの知りたい?」
「そりゃあ知りたいよ。ね、若利君?」
「俺は…「ほら、知りたいって!」
「んー、そうだなぁ…真っ直ぐな人、かな」
「へーぇ?ふぅーん?」


牛島の返答を遮ってまで引き摺り出した名前からの答えを聞いた天童は意味深に笑う。それに対して名前は、何食わぬ顔で笑い返した。
牛島はというと、静かに考えていた。名前の言う「真っ直ぐな人」とはどういう人間のことを言うのだろうか、と。曖昧な表現を汲み取ることが苦手な牛島にとって、名前の発言は難題だったのである。
牛島は名前と出会ってからというもの、考えても答えを導き出せない疑問を生み出すことが多かった。今回もまた、答えには辿り着けない。しかし、1つだけ、はっきりしたことがある。それは、牛島が確実に名前に惹かれつつある、ということだ。
自覚できているかどうかは、微妙なところ。なんせ牛島は今まで、女の子に特別な感情を抱いたことがないのだ。自分の胸に灯った想いに気付いたとしても、その感情が何なのかは分からないのである。


「若利君は?タイプとか考えたことある?」
「ない」
「えー。じゃあ今考えてみて」
「強いて言うなら、好きだと思った人間がタイプだ」
「牛島君らしいね」


思ったことを素直に言ってのけた牛島に、名前がクスクス笑いをこぼす。名前の笑顔を見るたびになんとなく鼓動が速くなるのは気のせいか。牛島はまだ未完成の感情が、じわじわと自分の中で形成されていくのを静かに感じていた。
天童はそんな牛島の様子を見て、ニタァと笑うのである。



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