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ハプニングは子守唄へ

県内、否、全国屈指の強豪校である白鳥沢学園の男子バレー部は、県内県外問わず遠征や強化合宿を行うことが多い。ゴールデンウィーク、夏休み、冬休みなどの長期休暇中は、ほぼ確実に予定が入る。
そんなわけで、2年生に進級した名前達は、例年と同様に様々な場所におもむき、ハードな練習に明け暮れていた。1年生達も徐々にではあるが練習に慣れてきた様子で、それなりに良好な上下関係を築いている。
目まぐるしい日々は、春から夏、夏から秋へと、瞬く間に過ぎていった。そして夏休みを終えたばかりの9月後半。連休を使って他県の強豪校との合同合宿をすることになった名前達は、バスに揺られて合宿先となるホテルに到着した。


「うわあ…すごい」
「今回のホテルはグレード高いねぇ〜!」


バスから飛び降りるなり、天童が浮かれ気分で言った。天童の言う通り、ホテルの外観は非常に煌びやかで、学生が泊まるとなるとちょっと躊躇うレベルだ。
なんでも、練習場所となるスポーツセンターに1番近いのがこのホテルだったらしい。なんという贅沢だろう。名前は、マネージャーとしてこのホテルに泊まらせてもらう分、しっかり働かねばと密かに決意した。
ホテルに荷物を置き、すぐにスポーツセンターに向かう。着替えを済ませたところでちょうど合同合宿相手の高校も到着し、挨拶を交わしてからは自然な流れで練習が開始となった。


◇ ◇ ◇



「つっかれた〜!」
「腹減ったな」
「夕飯はバイキングらしい」


ウォーミングアップ、スパイク及びサーブレシーブ練習、その後はほぼ練習試合のような形でひたすら1セットマッチを繰り返すという午後を終え、白鳥沢の面々はホテルに戻って来ていた。分かりやすくヘロヘロになっていた天童は、大平の口から飛び出した「バイキング」の単語に反応し、急に元気を取り戻している。その姿を後ろから眺めつつ、牛島と名前はまったりと後を追った。
大平からの情報通り夕飯はバイキングだったので、ホテルの大広間のようなところで、皆お腹いっぱいになるまで食料をお腹の中に詰め込む作業に没頭する。その後はお風呂に入り就寝…なんて健全な流れにはならないのが高校生というもの。
部屋は大体が3人もしくは2人1室で割り振られていて、当然男女は別々だ。しかし、お風呂を済ませてから就寝までは自由時間。となれば、男女の部屋を行き来するのは容易なことだった。
泊まりがけの合宿のたびに修学旅行気分で騒ぐわけではない。が、今回はいつもと違う雰囲気のホテルということもあり、皆のテンションは高め。そうなると、悪ふざけをする者も出てくるのが世の常というものである。


「若利クンは行かないんだよね?」
「ああ。日課の筋トレをする」
「相変わらずだな、若利は」
「ほどほどにな」


天童、大平、瀬見は、筋トレをするという牛島を残して他の部屋に遊びに行ってしまった。マイペースな牛島は三人が出て行ったのを見送って、日課の筋トレを始める。
それから1時間弱が経った頃。コンコンというノックの音が聞こえ、筋トレを終えた牛島は来訪者を招き入れるために扉の方に向かった。そして扉の向こうに立っていた人物を見て目を丸くさせる。


「急にごめんね。寝るところだった?」
「いや、まだ寝るつもりはなかったが」
「そっか」
「どうした」
「あの、えっと、それが…」


名前は非常に言いにくそうに言葉を濁す。しかし数秒後、顔を上げてきちんと牛島の顔を見ながら口を開いた。


「部屋に帰れなくなっちゃって、少しこっちにお邪魔しちゃ駄目かなって…」
「鍵を忘れたのか?」
「ううん。鍵はあるんだけど、私の部屋でみんながトランプ大会やってて寝られそうにないから」
「名前は参加しなくていいのか」
「私は……できたら若利君といたいなって、思ってるんだけど、」
「そうか」


牛島の返事は淡々としていた。表情も雰囲気も、彼女が自分を求めてきているというのに嬉しそうな素振りをひとつも見せない。
しかし、牛島は内心かなり喜んでいた。なんせ愛してやまない彼女と合宿中2人きりになれる機会が訪れたのだ。願ってもないことである。だが牛島は、その感情を表現する方法が分からなかった。


「とりあえず中に入るといい」
「あ、うん、ありがとう」


トランプ大会がどれぐらいかかるのか分からない以上、いつまでも立ち話をするわけにはいかない。牛島は名前を招き入れると扉を閉めた。その光景を天童達がニヤニヤしながら覗き見ていたことになど気付かぬまま。
今更2人きりという状況に緊張することはないが、並んだベッドを目の前にすると普段の2人きりとはまた違う雰囲気があるのはなぜだろう。牛島も名前も、お互い同じように妙な緊張感を感じていた。


「どれぐらいで終わるかな。明日も朝早いのにみんな元気だよね」
「そうだな」
「若利君は?寝なくて大丈夫?」
「それは名前も同じだろう」
「私はマネージャーだし、若利君達ほどハードなわけじゃないもん。適当に帰るから眠たかったら寝ても良いよ」


名前は牛島のことを気遣って言っただけだったが、牛島は名前の発言に眉根を寄せる。


「名前を1人残して寝るわけにはいかない」
「それは気にしなくても、」
「大丈夫だ。もう少し起きておく」


ベッドに並んで座り、テレビを見たり雑談をしたりして過ごすこと小1時間。1度部屋に戻ってみた名前だが、トランプ大会はいまだに続いていて、やんわり寝ないかと提案してみたが誰も耳を貸してくれなかった。
時刻は間もなく夜の11時を過ぎようとしている。翌日の起床時刻は6時。普段から早寝早起きが定着している牛島にとって起きておくには限界だった。


「若利君、ほんとに寝ても良いよ?」
「……いや、」
「すごく眠そうだし」
「名前は眠たくないのか」
「眠たいけど…」
「それなら一緒に寝れば良い」
「えっ」
「大丈夫だ。何もしない」


そう宣言され、名前は逆に身構えてしまう。とはいえ、牛島がここで何かをしてくるとは思えないのも事実。明日の朝寝坊したら大変だし…と考えた名前は、牛島の提案に応じることにした。
同じベッドじゃなければ問題ないか、と牛島が横になろうとしているベッドの隣のベッドに移動しようとした名前だったが、牛島はその行動に首を傾げる。そして手首を掴んで自分から離れていく名前を引き止めた。


「どこに行く」
「隣のベッドを借りようかなと思っただけなんだけど」
「一緒に寝れば良いと言ったはずだが」
「え!?」
「名前が近くにいる方が安心して眠れる」
「…う、うん……」


まるでそれが当然であるかのように牛島が言うものだから、名前は自然と頷いていた。
布団に2人で包まる。牛島の腕枕に胸を高鳴らせながら、こんな状態で眠れるわけがないと思っていた名前だったが、心地良さの方が上回ったのだろう。気付いたら夢の中に誘われていた。
牛島もまた、近くに感じる名前の温度に心拍を速めていたが、不思議と落ち着く感じもあり、名前と時を同じくして眠りに落ちた。



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