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最高で最低な目覚ましを

もぞり。身体を捩った名前は、身体にのしかかる重みに気付いてうっすらと目を開けた。腕。……人の腕がある。しかも男の人の腕だ。え、誰の?
ぎょっとしながらも寝ぼけた頭で昨晩のことを必死に思い出した名前は、頭上で健やかな寝息を立てている人物の顔を確認して、改めて現状を理解した。自分は今、牛島に抱き締められた状態で寝ている。昨日の夜、牛島が寝たら部屋に戻ろうと思っていたのに、うっかり自分も寝てしまったからだ。
やってしまった、と思ったものの、室内には牛島と自分以外の人の気配がなく、物音も聞こえない。ということは、この部屋のメンバーは夜通しトランプをし続けて寝落ちてしまったのだろうか。だとしたら寝坊しないか心配である。というか、今何時だろう。もしかして今の時点で寝坊かもしれない。
目覚ましはセットしたようなしていないような、そこらへんの記憶は曖昧でよく覚えていないから、余計に焦る。もぞもぞと動いて時計を見れば、良かった、まだ5時半だ。起床時刻まであと30分もある。
牛島は早起きが得意そう…というより得意だ。それは名前もよく知っている。しかしその牛島が、今日はどういうわけか起きる気配がない。あと30分は寝ていても問題ないし、起こさないように抜け出すことはできないだろうか。
名前はどうにか牛島の腕を持ち上げてゆっくり布団から這い出ようとしたが、無意識に抱き寄せる牛島の力が強すぎて布団の中に逆戻りしてしまった。困った。これでは動けない。
名前は潔く抜け出すのを諦め、こんな時でなければ拝むことができない牛島の寝顔をじっくりと眺めることにした。いつもよりあどけなく見える寝顔。名前は自分の顔がだらしなく緩むのを感じた。
いつものキリッとした牛島ももちろん好きだが、今見ている表情も好きだなあとしみじみ思う。好き、というより、愛おしい、という表現の方がしっくりくるかもしれない。
そっと頬に触れてみる。すると、もともと寝付きが浅かったのか、牛島がうっすらと目を開けた。名前は慌てて手を引っ込めて、自分をじっと見つめてくる牛島に微笑みかける。
牛島はぼーっとしたまま名前を見つめ続ける。そのまま1秒、2秒、3秒。5秒が経過したところで、牛島は、ぐい、と名前の後頭部を引き寄せて唇を重ねるというまさかの行動に出た。これには名前も目を見開いて驚き咄嗟に牛島の身体を押し除けたが、名前がどれだけ全力で胸板を押しても牛島はびくともしない。そうなると名前はもうお手上げで、牛島が唇を離してくれるまで受け入れることしかできなかった。


「若利君!起きて!もう朝!朝だよ!」
「……ああ、夢かと思った。おはよう」


唇を離した瞬間、かなり焦った様子の名前の声で目が覚めた牛島は、呑気に朝の挨拶をした。誰も見ていなかったから良かったが(名前としてはちっとも良くないが)、今は合宿中。いつ誰がこの部屋に入ってきてもおかしくない。
そう思っていた矢先、バァン!と勢いよく部屋の扉が開く音が聞こえたかと思ったら、ぞろぞろと人が入ってくる足音が聞こえてきた。今はキスしているわけではないが、2人で身体を寄せ合って布団の中に入っているという状況。まずい。早くベッドから出なければ。
ひとつも焦った素振りを見せない牛島は、まだ覚醒しきっていないのか、それともこの状況を見られてもどうってことないと思っているのか。もしかしたらその両方か。とにかく、名前から離れようとする様子はない。
一方名前はというと、少しでも牛島と距離を取らなければと思ったものの、離れるつもりがない牛島の腕の力には敵わず、結局部屋に入ってきた人物達に仲良くベッドの中からおはようを言うことになってしまい絶望していた。
入ってきたのは、天童、瀬見、大平といういつもの面々。もともと牛島は天童と同室だったため、天童が部屋に戻ってくることに何ら問題はない。しかし、この状況を見られたのが天童というのは、名前にとって最悪の事態だった。


「おっはよ〜!2人で熱い夜を過ごした感想はどう?」
「ちょっ、ちが、普通に寝てただけだから!ね?若利君!」


牛島の腕の力が緩んだ隙に、名前はベッドから転がり落ちるようにして距離を取った。完全に勘違いされている。このまま変な噂を流されたら堪ったものではない。
名前は牛島にも「何もなかった」と主張してもらうため、自分の発言に同調させる目的で言葉を投げかけた。しかしそこはどこまでいっても牛島若利。良くも悪くも空気が読めない、もしくは空気を読もうとしない男である。


「名前を抱いて寝たお陰でスッキリした」
「ひゅーひゅー!」
「その言い方は絶対誤解されちゃうってば……」
「まじか。そこ2人が……マジか」
「まあ2人は付き合ってるわけだしなあ」


天童はこれでもかと大騒ぎ。その傍らでは瀬見が同級生のイチャイチャを見て小さくショックをうけていて、大平が妙に納得したような顔で頷いていた。だめだ。この状態で否定の言葉を並べても無意味である。
名前はもういっそのこと、と半分投げやりな気持ちで天童達の横を通り過ぎると、自分の部屋へと戻った。朝食の時に茶化されるのは覚悟の上で。
取り残された牛島にニヤニヤと詰め寄る天童。昨日どうだった?2人っきりで楽しかった?ていうかナニしてたの?矢継ぎ早に問いかけられても、牛島は動じない。


「ただ2人で寝ていただけだ」
「へぇ〜?ふぅ〜ん?」
「支度をしないと遅れるぞ」
「まだ全然余裕だよ」
「話なら後でいくらでもできるだろう」


何も隠さなければならないことはない、と言わんばかりに言ってのけた牛島には、名前の前で見せた寝ぼけ面の面影はなかった。


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