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愛変わらずのふたり

無事に名前の両親に挨拶を終えてむかえた月曜日。部員達は当たり前のように近況報告をせがんできた。勿論、特攻隊長は天童だ。


「若利君!ご挨拶どうだった?」
「問題ない」
「問題ないっていうのは…?」
「認められたってことか?」


大平と瀬見も気になっていたのか、牛島に真意を問う。牛島はそこで首を傾げた。自分が認められたかどうか、単純に分からなかったのだ。
そんな牛島を見兼ねた天童は、少し後ろを歩く名前を呼び寄せて同じ質問を投げかける。驚きのあまり目を丸くしていた名前だったが、牛島を見遣ってくすくすと笑い出した。


「若利君にきいたんじゃないの?」
「問題ないって。認めてもらえたってことでいいんだよね?」
「ふふ…どうかな。でも、好印象ではあると思うよ」
「良かったな若利!」


その場にいた全員に温かく祝福され、気恥ずかしいやら嬉しいやらで苦笑する名前と、なぜ部員達が大騒ぎしているのか分からない牛島は、皆に見守られながら順調に交際を続けた。
そうしてあっという間に1年が過ぎ、気付くと季節は再び春を迎えていた。この1年ですっかり恋人として定着した2人だったが、根本的には何も変わらないので、相も変わらずバレー部で忙しい毎日を送っている。今日は後輩が初めてバレー部に来る日とあって、部員達を始め、マネージャー陣もどこかそわそわしていた。変わらないのは牛島ぐらいである。
どんな後輩が来るのだろう。そんな期待に胸を膨らませる中、新1年生が姿を現した。中学時代から活躍していた者、そうでない者、揃いも揃ってクセの強そうな面々が体育館に入ってくる。
マネージャーである名前は、体育館や部室の案内や練習内容の説明を任されていたため、新1年生達の元に向かう。ちわーっす、という、なんとも体育会系な挨拶に笑顔で応えながら、名前が全ての説明を終えた時だった。強豪校のバレー部とは言え、天童のようなお調子者はどの学年にも存在するらしく、監督が不在であるのをいいことに、新1年生の中から名前に思いがけない質問をしてきた者がいた。


「名字先輩には彼氏いますかー?」


思わず固まる名前。健全な高校生男子達は、その質問の答えに興味津々のようだ。これは素直に答えても良いものだろうか。今後の部活動に影響はないだろうか。名前がそんなことを思案していると、背後に物々しい雰囲気を感じ取った。目の前の新1年生達は、先ほどの和やかなムードから一変、緊張した面持ちになっている。
名前が恐る恐る振り返ると、そこにいたのはやはり牛島で、立っているだけで異様な存在感を放っているものだから、新1年生達が萎縮してしまうのも無理はない。入部して早々、怯えさせるわけにはいかないと思った名前は、牛島にやんわりと、練習戻らないの?と声をかけた。が、ここで思わぬ出来事が巻き起こる。
新1年生達の視線が集まる中、牛島は何の前触れもなく名前の身体を抱き寄せて、その顔を自分の胸に押し付けたのだ。これには新1年生も固まるしかない。


「彼氏は俺だが」
「若利君、苦しい…、」
「ああ、すまない。つい力が入ってしまった」


名前が厚い胸板をポンポンと叩いて抗議すると、牛島は少し抱き寄せる力を緩めたものの、離す気はないらしい。1年前の名前なら恥ずかしさから顔を真っ赤にさせて必死で離れようとしていただろうが、この1年間で耐性がついてしまったのか、もはやそんな無駄な抵抗はしない。他の部員達も、またやってるよ…ぐらいの反応である。
しかし、この光景を初めて目の当たりにした新入部員達は、ただただ驚くばかりだ。あの雑誌で見る牛島が登場したことだけでも驚きなのに、その牛島が女子生徒を抱き寄せている。こんなに驚愕の展開はない。


「若利君、練習…、」
「休憩中だ」
「話、きいてたの?」
「きこえただけだ。きいていたわけではない」
「そろそろ離れようよ…」
「嫌なのか」
「そういうわけじゃなくて…若利君、私、何度も言ってると思うんだけど、こういうことは公衆の面前でしないものなんだよ」
「そうだったか?忘れたな」


どうにもピンク色の空気が払拭できないやり取りに、1年生達は呆然と釘付けになっている。そこへやって来たのは野次馬根性丸出しの天童で、名前は嫌な予感がした。こういう状況で助けてくれるようなタイプではないことぐらい、この1年で学んでいるのだ。


「相変わらずラブラブだねぇー!ヒューヒュー!」
「天童君、うるさい」
「1年生が可愛いマネージャーの名前ちゃんを狙っちゃうかもしれないから、若利君だって気が気じゃないんだよネ?」
「まあ、そうだな」
「でももう安心!だって若利君の彼女に手を出したらバレー部でやってけないもん…ねぇ……?」


牛島とはまた違う威圧感を放った天童に、1年生達は恐怖を覚えている。なんということだろう。これでは入部早々、退部者が現れるかもしれない。名前は慌てて牛島を引き剥がすと、天童の頭をぺしっと叩いた。暴走する部員を止めるのも、マネージャーの立派な仕事のひとつだ。


「こら!1年生怯えてるでしょう…!ただでさえ妖怪みたいなんだから大人しくしてて」
「……名前ちゃん、昔はもっと優しかったのに…俺は悲しい…」
「天童、また怒られてやんの」
「おい2人とも、そろそろ練習始まるからこっち来い」


瀬見と大平が漸く2人の回収に来てくれて、名前はホッと胸を撫で下ろす。が、1人取り残された状況になって、1年生達の視線が自分に集中していることに気付いた名前は頭を抱えた。いつかはこんなやり取りを見られることになってしまうだろうとは思っていたが、まさか入部初日にその機会が訪れるとは思ってもみなかったのだ。
なんだか先輩として示しがつかないような気がして、これからどうオリエンテーションを進めていこうかと考えていると、1年生の1人が落ち着いた声音で発言してきた。


「今日は練習に混ざれないんですか」
「え?えーと…監督にきいてみるけど、やる気があるなら入れる…かも、」
「確認お願いします」


これが後に白布賢二郎という一般入試で入学してきたツワモノだと知ることになるのは、そう遠い未来ではない。名前はこの時から、この子は大物になるな、と密かに思っていた。そしてこの日、もう1人気になる後輩がいた。


「名字先輩にはあんまり話しかけない方が良いんですかね?」
「そんなことはないよ」
「でもほら、名字センパイ、彼氏さんに随分大切にされてるみたいなんで」


二ヘラと笑いながらそんなことを言ってきた川西太一という後輩は、名前が先輩だということも気にせずそんな風にからかってきたのだ。ある意味、この子も大物になりそうだな…と、名前は思った。
何はともあれ、1年生の入部早々、牛島と名前の関係は公のものとなり、慌ただしくもまた新しい1年が幕を開けたのだった。



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