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教室での一件以来、俺と名字さんはなんとなく気まずい。恐らく気まずいと感じているのは俺だけなのだけれど、このなんとも言えない空気をどうにかしたい。
クラスメイト達は、あれ以来、あえて俺達の関係を言及してこなかった。そりゃあ、微妙な雰囲気になったのはお前らのせいなんだから、少しは自粛してもらわねーと困るけどな!
そして今日は月曜日。バレー部の3人(と言ってもほぼ及川)に最近付き合いが悪いと言われたが、月曜日はデートだからと適当にあしらっておいた。それに、デートというのもあながち間違いではない。
そこで俺は思い立った。そうだ。名字さんとデートに行こう。付き合い始めたわけだし、2人でどこかに行けばなんとなくこの関係も修復できるような気がする。
俺はいつもの店に入ると、綺麗なショーケースの前で名字さんに声をかけた。


「名字さん、今度の土曜日ってバイト?」
「土日はできるだけバイトを入れるようにしています」
「そっかー…」
「今日は何にしますか?またシュークリームですか?」
「今日はショートケーキにするわ」


シュークリームは大好物だが、この店に通い始めてからは他の商品にもちょこちょこ手を出している。シュークリーム以外のものも全て美味しいから毎回食べるのが楽しみだ。
さて、そんなことより、デートに行くのは難しそうな雰囲気だということが判明した。元々俺はバレー漬けであまり休みがないし、名字さんの方もわりとバイトに出ているから、休みがなかなか合わないのだ。
どうしたもんかなあ…。お会計を済ませ、ショートケーキののった皿を持ちいつもの席に座りながら、俺は考える。すると、おばさんが声をかけてきた。


「花巻君、いらっしゃい。今日はショートケーキなのね」
「ここの何でも美味いんで」
「ありがとう。主人もきっと喜ぶわ。……名前ちゃんと、最近どうなの?」


おばさんは色々話すようになってから、俺達の関係を気にかけてくれていた。そういえば付き合い始めたことを伝えていなかったと思い出し、おばさんに報告する。


「実は最近付き合い始めたんですよー」
「あら!そうなの!良かったわねぇ!」
「でもまあ…なかなか上手くいかなくて」
「名前ちゃん、そういうことには消極的そうだもんねぇ…」


さすがおばさん、よく分かっている。俺は話の流れでデートにもなかなか行けないことを相談した。


「今度の土曜日?名前ちゃんが休んでも大丈夫よ!」
「え、マジですか」
「いつも働きすぎなぐらいだもの。デートぐらい行かせてあげたいわ」
「あー…でも、名字さんはあんまり乗り気じゃないっぽいんで」
「いいからいいから。とりあえずお休みにしておいてあげる。頑張って」


そう言うとおばさんはお店の奥へ入って行った。なんと頼もしい援護だろうか。名字さんとの距離を縮められるよう一緒に帰ることを提案してくれたのもおばさんだったし、これは何かお礼をしなくてはならない。
せっかくおばさんが与えてくれたチャンスだ。俺はどうやって彼女を再びデートに誘おうか思考を巡らせた。


◇ ◇ ◇



バイトが終わり、いつもの帰り道。俺は早速、名字さんに声をかける。


「あのさ、今度の土曜日なんだけど」
「はい?」
「デート。行かない?」
「…バイトがあります」
「おばさんが休んで良いって言ってたんだけど」
「花巻君がお願いしたんですか?」
「違うって。おばさんが、名字さん頑張りすぎだから息抜きしてほしいって言ってたの」


疑いの眼差しを向けられているが、嘘は吐いていない。多少ニュアンスは違うかもしれないが、それらしいことは言っていたはずだ。
名字さんは暫く黙ったまま考えていた。すごく難しそうな顔をしている。


「嫌なら、無理しなくていいから。俺が勝手に行きたいなーって思ってるだけだし」
「……、」
「無理してデート行っても名字さんがつまんないなら意味ないし」


沈黙に耐え兼ねた俺は、無理強いしていないことを付け加えた。そりゃあデートはしたい。でも、隣でつまらなそうにする名字さんと歩くのは、さぞかしつらいだろう。
俺の言葉をきいて再び悩み始めた名字さん。やっぱり無理かあ…なんて考えていた時、名字さんが口を開いた。


「分かりました」
「ん?どういうこと?」
「土曜日、どこに行けばいいですか?」
「え?は?良いの?」
「なんで花巻君はいつも自分から言ってきて私が受け入れると驚くんですか」
「だって乗り気じゃなさそうだったし…いつもダメ元で言ってるから」
「断った方が良かったですか?土曜日のお誘いも……お付き合いに関しても」
「なんでそういうこと言うかなあ…俺、名字さんが受け入れてくれてすげー嬉しいんだけど」


なんだかほんの少し捻くれている名字さんに苦笑しつつ、俺は本音を言う。ダメ元で言って受け入れてもらえるのは本当に嬉しいことだ。自分のことを、認められているような気持ちになるから。


「午前中は少し練習あるから、13時に駅前で良い?昼飯食ってシャワー浴びたらすぐ行く」
「…分かりました」


すんなりと頷いてくれたことに驚きと喜びが募る。まさか本当に名字さんとデートできる日が来るとは思わなかった。
自分で言うのもなんだけれど、俺の一方的な想いで付き合い始めたわけだから名字さんの方は俺に興味がなくても仕方ない。けれど、なんだかんだ言って、名字さんはいつも、俺の気持ちを汲み取ってくれているような気がする。それは、前進していると捉えて良いのだろうか。


「土曜日、楽しみにしてる」
「……、今日もありがとうございました。おやすみなさい」


相変わらず律儀にお礼を言って家に入る名字さん。どうせなら、私も楽しみにしてます、とか言ってほしかったなー。それはさすがに無理かー。
名字さんの家に背を向けて自分の家へと歩き出して数分後。珍しく名字さんからLINEがきた。


“私も少し楽しみです。おやすみなさい。”


何なのこれ。可愛すぎかよ。
スマホを握り締めて思わず道で蹲る。面と向かって言うのは恥ずかしいからLINEで、とか、そういうこと?急にデレるのは心臓に悪いからやめてほしい…いや、すげー嬉しいけど。
初恋でもなければ初めての彼女でもない。それなのにLINEのメッセージ1つで、自分の顔がほんのり熱くなるぐらい照れてしまうほど、俺は名字さんのことが好きらしい。


爆弾投下にご注意を



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