強引ながらも名字さんと付き合うことになった俺はご機嫌だった。学校では名字さんになかなか話しかける機会がなかったそれまでとは違い、付き合うことになった今は何の理由がなくても自然と名字さんに声をかけることができる。周りから何か言われれば、付き合ってるから、と言えば良いのだ。
というわけで、俺は最近、学校で遠慮なく名字さんに話しかけまくっている。クラスメイト達は驚きと疑問でいっぱいの眼差しを向けてくるが、意外にも関係性をきいてくるやつはいない。何しろ相手は真面目な名字さんだ。なぜ俺との距離が縮まったのかなかなかツっこめずにいるようだ。
「名字さん、たまには練習見に来てよ」
「私、忙しいので」
「それは知ってるけど。1回ぐらいさあ…」
「考えておきます」
「お、マジ?いつ来る?」
「だから、考えておきますとお答えしたはずですが」
付き合ってからの名字さんの様子はというと、これが恐ろしいほど変わらない。ドライな反応にはもう慣れたので今更どうこう思うことはないけれど、少しは気を許してくれるかなーと期待していただけに、実はがっかりしていたりする。
そんな時だった。クラスメイトがついに疑問をぶつけてきたのは。
「なぁ花巻。最近お前、名字さんと仲良くね?」
「ああ、だって付き合ってるし」
「えっ!?マジで!?」
「マジで」
俺は当然のように答えた。クラスメイトはこれでもかと驚愕の表情を浮かべている。まあ、予想していた反応だ。
俺の声は周りのクラスメイト達にもきこえていたのだろう。教室内がざわざわし始めた。
「なんで名字さんなんだよ」
「ん?なんでって……可愛いから?」
しーん。ざわついていた教室が一気に静まり返った。クラスメイト中の視線が集まり、信じられないという顔をされる。
おい、ここに名字さんもいるんだぞ。その反応は失礼すぎやしないか。確かに今は三つ編み眼鏡で地味に見えるかもしんないけど、本当はすげー可愛いんだからな。お前らいつか覚えとけよ。
心の中でそう思いながらも、俺は何も言わなかった。渦中の名字さんは、表情すら変えず黙ったままだ。チャイムが鳴ったことによりその場は収束したが、クラス内の微妙な空気が払拭されることはなかった。