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強引ながらも名字さんと付き合うことになった俺はご機嫌だった。学校では名字さんになかなか話しかける機会がなかったそれまでとは違い、付き合うことになった今は何の理由がなくても自然と名字さんに声をかけることができる。周りから何か言われれば、付き合ってるから、と言えば良いのだ。
というわけで、俺は最近、学校で遠慮なく名字さんに話しかけまくっている。クラスメイト達は驚きと疑問でいっぱいの眼差しを向けてくるが、意外にも関係性をきいてくるやつはいない。何しろ相手は真面目な名字さんだ。なぜ俺との距離が縮まったのかなかなかツっこめずにいるようだ。


「名字さん、たまには練習見に来てよ」
「私、忙しいので」
「それは知ってるけど。1回ぐらいさあ…」
「考えておきます」
「お、マジ?いつ来る?」
「だから、考えておきますとお答えしたはずですが」


付き合ってからの名字さんの様子はというと、これが恐ろしいほど変わらない。ドライな反応にはもう慣れたので今更どうこう思うことはないけれど、少しは気を許してくれるかなーと期待していただけに、実はがっかりしていたりする。
そんな時だった。クラスメイトがついに疑問をぶつけてきたのは。


「なぁ花巻。最近お前、名字さんと仲良くね?」
「ああ、だって付き合ってるし」
「えっ!?マジで!?」
「マジで」


俺は当然のように答えた。クラスメイトはこれでもかと驚愕の表情を浮かべている。まあ、予想していた反応だ。
俺の声は周りのクラスメイト達にもきこえていたのだろう。教室内がざわざわし始めた。


「なんで名字さんなんだよ」
「ん?なんでって……可愛いから?」


しーん。ざわついていた教室が一気に静まり返った。クラスメイト中の視線が集まり、信じられないという顔をされる。
おい、ここに名字さんもいるんだぞ。その反応は失礼すぎやしないか。確かに今は三つ編み眼鏡で地味に見えるかもしんないけど、本当はすげー可愛いんだからな。お前らいつか覚えとけよ。
心の中でそう思いながらも、俺は何も言わなかった。渦中の名字さんは、表情すら変えず黙ったままだ。チャイムが鳴ったことによりその場は収束したが、クラス内の微妙な空気が払拭されることはなかった。


◇ ◇ ◇



その日の部活でも、俺は散々名字さんのことについてきかれた(主に及川から)。クラス中に知れ渡ったことだから、他のクラスにもすぐに噂が広まったのだろう。まあ、別に俺としては問題ない。


「なんでマッキー、あんな地味な子と付き合ってんの?噂ではあの子のこと可愛いって言ったらしいけど、ほんと?」
「なんでそんなことお前に言わなきゃいけねーんだよ。ほっとけ!」
「でも花巻って結構可愛い系が好きじゃん。あの子…名字さん?真面目系だし今までのタイプとはだいぶ違うよなー」
「だーかーらー。ほっとけっつーの」


及川と松川に色々きかれるが、名字さんの見た目が本当は俺のすげータイプだということは誰にも言えないので、はぐらかすことしかできない。クラスメイト同様に、信じられない、と言いたげなのは分かっている。


「いいじゃねぇか。花巻がそうしたいと思ったんだろ。俺達がどうこう言う問題じゃねぇよ」
「「「岩泉(岩ちゃん)、イケメン」」」


岩泉のイケメン発言によって先ほどまでより和やかになった部室内。そんな時、俺のスマホが鳴った。LINEの通知音だ。誰かなーと何の気なしにスマホを確認すると、なんと名字さんからではないか。
俺から送ることはあっても名字さんから送られてきたのは初めてだ。俺は意気揚々と内容を見る。


“あまり学校で私に関わらないでください。今日のようなことになるのは困ります。”


非常に端的で名字さんらしい文面だった。LINEが送られてきたことを喜んでいた数秒前の自分がアホらしい。
今日の出来事を振り返れば、彼女の言い分はもっともだと思う。けれど、仮にも付き合ってるのに関わらないでって…そりゃないだろ、とも思ってしまう。あー…付き合ってるって言わなきゃ良かったのかな。でも嘘吐く必要ねーし。
後悔してももう遅い。起こってしまった出来事は、取り返しがつかないのだ。


“今日はごめん。全く関わらないのは無理だけど、今度から気をつける。”


既読にはなったが、やはりと言うべきか返事はこなかった。
俺の一方的な気持ちで付き合い始めたわけだから、こんなの当たり前だ。そう自分に言い聞かせてみたが、思っていたよりもダメージが大きかった俺は、ただヘコみまくることしかできなかった。


空回りだ



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