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今日は月曜日。俺は再び、隣町のケーキ屋さんに向かっていた。お目当ては勿論、名字さん。と、シュークリーム。
授業中にこっそりLINEで、今日お店行くから、と連絡してみたら、案の定、休憩時間になって、来ないでください、と返事をされた。ついでに、授業中にLINEしないでください、と注意までされてしまった。ごもっともな指摘である。
仮にもシュークリームを買いに来たお客さんである俺を追い返すようなマネを彼女がするとは思えないので、そんな真面目さにつけこんで、もらった返事を無視してまでも来てしまった。いらっしゃいませー、という彼女の声に、どーも、と挨拶を返す。あ、すげー嫌そうな顔された。


「来ないでくださいと返事をしたと思いますが」
「シュークリーム買いに来ちゃダメなの?お客さんですケド?」
「……、何個ですか。お持ち帰りでよろしいでしょうか」


強引に帰そうとしているのだろう。疑問形ではなく、まるでそうしろと言わんばかりの口調でテイクアウトか確認されたので、俺はにっこり笑って、ここで食べます、と返事をした。あ、また嫌そうな顔。
たとえ相手が俺であろうと仕事をソツなくこなす彼女は、シュークリームをお皿に1つのせて俺に渡してきた。
俺は会計を済ませ、イートインスペースへ移動する。彼女の働きっぷりがよく見えるテーブル席に腰かけてシュークリームを齧れば、甘いホイップクリームが口いっぱいに広がった。俺がこのお店に来る目的は彼女に会うためだけれど、このシュークリームだってお店に通う立派な理由になる。
ゆっくりと味わいながら咀嚼していると、お店の奥からおばさんが出てきた。彼女の話によると、このおばさんが親戚にあたるらしい。


「あら?この前も来てくれた子よね?」
「そうです。ここのシュークリーム美味しくて」
「嬉しいわー!いつでもいらっしゃいね」


にこやかにそう言うおばさんは、とても愛想が良い。言われなくても、いつでも来ますけどね。心の中でそんなことを思っていると、ふと、おばさんが声をひそめてきいてきた。


「名前ちゃんの彼氏なの?」
「え?あー…そう見えます?」


その質問に少なからず驚いたものの、客観的に見たら俺達はどういう関係なのだろうかとも思い、問いかけで返してみる。
おばさんは少し悩んでいるようだ。


「名前ちゃん、そういう話してくれないから分からないのよねぇ…」
「でしょうね。なんとなく分かります」
「学校でもあんな感じなのかしら?」
「んー…もっと真面目かも」


見た目を含めて、学校での彼女はお手本のような優等生だ。お店で働いている時の方が、まだ垢抜けているような気がする。
俺の言葉に、これ以上真面目なの?と驚きを隠せないでいるおばさん。そりゃそうだろう。お店での姿だって十分すぎるほど真面目なのだから。


「それで…結局、キミは彼氏?」
「ああ、違いますよ。ただのクラスメイトです」
「あらぁ…残念」
「今は、ですけどね」


一瞬落胆したおばさんだったけれど、俺の含みのある発言をきいて嬉しそうに顔を綻ばせる。何これ、もしかしておばさんからは好かれてる感じ?


「良いわねぇ、若いって」
「そうですか?」
「頑張ってね!おばさん応援してるわ」


これは心強い味方ができた。俺と彼女の仲を取り持つには最適なポジションにいるであろうおばさんが、応援してくれるというのだ。
俺は、どーも、と小さく頭を下げて、最後の一口となったシュークリームを口に放り込んだ。


「ちょっとおばさん。何を話してるんですか?」
「ふふ、内緒よ。ねー?」
「そうそうナイショ」
「…なんなんですか……気持ち悪い…」


結構傷付くことを言われてしまったけれど、言えるような内容ではないのだから仕方がない。
シュークリーム食べ終わったなら帰ってください、と冷たく業務的な言葉を浴びせられ、俺は店を追い出されてしまった。店内ではおばさんが俺に口パクで、またきてね、と言っている。
そりゃーまた来ますよ。本当はもう少し粘るつもりだったけれど、今日は大人しく帰ろう。
まさかの強力な助っ人を得ることができた俺は、先ほど彼女に言われたセリフのことも忘れて、上機嫌でお店を後にした。


これからが本番です



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