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毎週月曜日にあのお店に行くのは習慣になっていた。初めて話した時以来、おばさんとも仲良くなり、顔を出すたびに嬉しそうに微笑んでくれる。名字さんも少しは笑ってくれたらいいのだが、こちらは俺の顔を見るたびに迷惑そうな表情を浮かべていて、正直毎回心が折れそうだ。
今日もいつものシュークリームをイートインスペースで食べていると、おばさんがやって来た。


「ねぇ花巻君、お願いがあるんだけど」
「なんですか?」
「最近、物騒でしょ。不審者も多いみたいだし…良ければ名前ちゃんを家まで送ってあげてくれない?」


思ってもないお願いだった。名字さんと2人で帰れるのだから、俺は大喜びだ。おばさんのお願いを快く了承したところで、名字さんが現れた。


「おばさん、勝手にそんなこと決めないでください」
「前から心配だったのよ。名前ちゃんは年頃の女の子だし、何かあったら大変でしょう?花巻君はクラスメイトなんだし、いいじゃない」
「そうそう。俺は全然迷惑じゃないし」
「…今までだって大丈夫だったんですから、1人で平気です」
「名前ちゃん、何かあってからじゃ遅いのよ。お母さんだっていつも心配してるんだから」
「それは…そうですけど……」


おばさんの説得の結果、名字さんは俺と帰ってくれることになった。心の中でガッツポーズをする。持つべきものは協力的なおばさんである。
19時過ぎ、名字さんは学校の時と同じ三つ編み眼鏡姿で店の前に現れた。帰るだけなんだからそのままの姿で良いのに、とは思ったが、誰かに会ってツっこまれるのは嫌なんだろう。俺達はとぼとぼと歩き始めた。
1番最初に帰った時は、途中で買い物があるからと名字さんがスーパーに寄ってしまったので、家まで送り届けるのは初めてだ。住所をきくと俺の家からさほど距離はなかった。


「毎週月曜日、一緒に帰れるね」
「別に1人で良いです」
「おばさんもお母さんも心配するじゃん?」
「心配しすぎなんですよ…子どもじゃないんですから」


俺と帰るのは、やはりというべきかあまり気が進まないようだ。結構アプローチしてるつもりなんだけど…遊びだと思われてんのかな。
どうやったら好意を抱いていることを本気だと信じてもらえるだろうか。考えを巡らせている時に、ふと、思いつく。名字さんは俺がバレー部だということは恐らく知っていると思うけれど(それすらも知られていなかったら泣くかもしれない)、バレーしている姿自体は見たことがないはずだ。バレーをしている俺は、少なくとも普段の俺より真面目だと思うし、少しは見直してくれるかもしれない。


「ねぇねぇ名字さん、土曜日ってバイト?」
「…なぜそんなことをきくんですか?」
「実はさー、土曜日練習試合があるんだよね。良かったら見に来てよ」
「なぜ私が?」
「名字さんに応援してもらったら、頑張れそうだから」
「私の応援がなくても頑張るでしょう?花巻君、バレーは頑張っているとききますし」


意外だった。俺が真面目に頑張っていることを知っているなんて。まあバレー部は有名だし、そこそこ噂はきくだろうけれど、それでも嬉しかった。初めて名字さんに肯定的に捉えられた気がする。


「そうだけどさ、真面目な俺の姿も見てほしいなーと思って」
「なぜ?」
「……もう少し俺に興味もってもらうため?」
「はあ…そうですか」


結局、名字さんから行くという返事はもらえないまま、家についてしまった。なんだかんだで律儀な名字さんは、ありがとうございました、とお礼だけ言って家の中に入って行く。
まあそうだよな、ダメ元で誘ったわけだし。でも、ここまで脈なしだとなあ…ヘコむなあ…。名字さんを送り届けた後の帰り道、俺は思考を巡らせる。
今まで、そこまで女性関係で悩んだり困ったりした経験はない。バレー部にいるとなんとなくモテるし、及川ほどじゃないにしてもそこそこ告白はされてきた。好きになった子にアプローチすればほぼ100%好きになってもらえたし、告白して断られたこともない。
けれど、名字さんはどうだろう。付き合う云々の前に、そもそも俺への興味がないように見える。確かに、俺が名字さんを好きになったのはケーキ屋さんで可愛い容姿を見たのがきっかけだったし、見た目で選ぶなと言われればぐうの音も出ない。けれど、きっかけはどうあれ、そこから彼女を知ろうと努力してここまで距離をつめることに成功したのだ(おばさんの多大なる協力の賜物ではあるけれど)。せめて、もう少し俺を見てくれても良いんじゃないだろうか。
そんなことを考えたところで、名字さんはきっと練習試合には来てくれない。


“土曜日の練習試合、待ってるね。”


帰りながら、健気にLINEをしてみる。我ながら女々しい。既読にはなったが返事がないところを見ると、やはり来てくれる見込みはないようだ。また、ヘコむ。まあ仕方ない。今回は諦めて、また今度誘ってみよう。
俺は暗い夜道をとぼとぼ帰るのだった。


こっち向いてよ



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