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デートに行って、名字さんとの距離が少し縮まった。そう思いたい。はたから見たらどうかは分からないが、個人的には順調に付き合っていると思う。俺はいつも通り部活に精を出しながら名字さんのことを考えていた。


「マッキー、委員長さんとまだ続いてるのー?」
「まぁな」
「本気なんだな」
「まぁな」
「部活、見に来てんだな」
「まぁ……な?え?どこ?」


及川、松川の発言に淡々と答えていた俺だったが、岩泉の発言には動きを止めてしまった。レシーブしきれなかったボールが体育館の出入り口の方へコロコロと転がっていく。そのボールを拾ってくれたのは名字さんだった。
え、何?デート効果?来るなら教えてほしかったんだけど!


「練習中ごめんなさい」
「いや、嬉しいけど…見学?」
「先生に頼まれて今日提出締め切りの数学のプリントを取りに来ました」
「あー…そういうこと……部室のカバンの中にあるから取りに行く。ついて来てよ」


やっぱり見学じゃなかったけど、少しは俺がバレーしているところを見てくれただろうか。及川に冷やかされながら(うるさいやつだ)俺は名字さんとともに部室棟へ向かう。
プリントを探すべく、部室に入りカバンを漁るが見当たらない。入れたのは覚えているから忘れたはずはない。俺がゴソゴソしているのを、名字さんは部室の外から眺めている。


「入れば?汚いけど」
「でも、」
「プリント見つかんないから探すの手伝って」
「…分かりました…お邪魔します」


別にそんなこと言わなくても良いのに、と思ったが名字さんらしいから何も指摘はしない。
俺はいくつか持って来たファイルを渡して目的のファイルがないか確認してもらう。一応、科目ごとにファイルに分けてたつもりなんだけどな。


「花巻君、やっぱりバレー上手なんですね」
「ん?ああ…少しは見てくれた?」
「はい。少しだけですが」
「プリント取りに来ただけなんだろうけどさ、来てくれて嬉しかった」
「…そう、ですか…」


プリントを探す手を休めることなく会話する。名字さんが俺のバレーを褒めてくれたことに嬉しくなって少しニヤけてしまったけれど、当の名字さんは気付いていないようだ。


「また来てよ。今度はちゃんと、俺を見に来て」
「……」


返事はない。なるほど、見に来る気はないということか。そりゃそうだよなあ…バイトあるし。
微妙な沈黙が嫌で、冗談だよ、と言おうとした時だった。


「バイトがあるので…」
「うん、知ってる。だから…」
「バイトがない時に、気が向いたら……行きます」
「え、」


最近、名字さんは予想外に嬉しいことを言ってくれるようになった。しかも、今日に至っては少し照れた表情まで見せてくれるオマケ付きだ。なんだよ可愛すぎるんですけど。
俺は思わず、名字さんを抱き締めてしまった。急に抱き締められた名字さんの方は硬直している。


「ごめん、照れた顔が可愛くてつい…」
「……いえ、」


我に返った俺は名字さんを解放する。温もりが離れて妙な喪失感を覚える中、カサリとプリントがファイルの中から出てきた。お目当ての数学のプリントだ。


「あった。プリント」
「ああ…良かったですね」
「うん。じゃあこれ、よろしく」
「はい」


なんとなく気まずくてさっさとプリントを渡すと、俺は散乱したファイルやらファイルの中から出てきた他のプリント類を適当にカバンの中に押し込んだ。
衝動的とは言え、断りもなく、しかもそんな雰囲気でもなく抱き締めてしまって、名字さんに引かれたかもしれない。そんな不安がムクムクと湧き上がる。


「俺、部活戻るわ」
「はい」
「じゃあ…」
「花巻君」
「……何?」
「部活、頑張ってくださいね」
「え?あ、うん…どーも」


てっきり何か言われるかと思ったのに、名字さんはそれだけ言うと部室から出て行った。拍子抜けと言えばそうだが、何も言われなくて良かったとも思う。
拒絶されなかったということは、受け入れてもらえたということなんだろうか。それとも何とも思われなかったのだろうか。名字さんの思いは全く分からない。
先ほどのことを思い出す。そりゃあ何人かと付き合ったことがあるわけだから、女の子を抱き締めるのなんて初めてじゃない。けれど、あんなにドキドキするものだっただろうか。俺は純情少年かよ。
名字さんといると狂わされっぱなしである。ただ、願わくばもう一度あの小さな身体を抱き締めたいと思うのは、俺の我儘なんだろうか。


もっと、もっと、



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