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decouragement


結局、赤葦達からは何のアドバイスも得られなかった。自分で考えろと言われたけれど、考えても分からないから相談したってこと分かってないのかな。
私は悶々と悩み続けている頭をリセットするべく、自分の頬を軽く叩いた。ダメダメ、仕事に集中しなきゃ。
今日から新しいプロジェクトが始動する。なんと光栄なことに、私はそのプロジェクトチームのメンバーに選んでもらったのだ。余計なことを考えて足を引っ張るわけにはいかない。
企画会議室に足を踏み入れると、そこには黒尾の姿もあった。少し驚いたけれど、よく考えてみれば黒尾は仕事ができる奴だから、何ら不思議はない。
企画会議は今後の役割分担や仕事内容の確認で、先輩の司会によってスムーズに進行した。私は予算管理とかすれば良いわけね。1人で資料をパラパラ捲りながら今後のことを考えていると、突然名前を呼ばれた。


「というわけで、名字は明日から黒尾と現地視察に行ってくれ」
「はい…?」
「会議は以上だ。それぞれ仕事に取りかかってくれ」
「えっ、ちょっ、」


何が、というわけ、なのか全く分からない。みんな何の疑問も抱かずに各々の仕事に取りかかっているけれど、私と黒尾で行って大丈夫なんですか?
ていうか、なんでよりにもよって黒尾と2人で現地視察なんか行かなきゃいけないの?このタイミングで?あの先輩、私に何か恨みがあるわけ?公私混同するなと言われればそれまでなのだが、それにしたってひどすぎる。
悲観的な感情が渦巻く中、私の中の真面目ちゃんが必死にエールを送っている。そうだ…これは仕事だ。割り切ろう。そう自分に言いきかせている時だった。


「名字ー。明日何時に迎え行けばいい?」
「え?黒尾が迎えに来るの?」
「会社の車で行くんだから俺か名字が運転するしかねーだろ。名字、運転すんの?」
「いや…ペーパードライバーだから無理…」
「だろー?で?何時にする?」


当たり前のことながらいつもと何ら変わりない様子で話しかけてくる黒尾に、胸がチクリと痛んだ。現地視察に泊まりがけで行くことに、黒尾は何の疑問も抱かないのだろうか。仮にも男と女だぞ。
そう思ったところで、今までのことを振り返る。散々2人きりで飲みに行ってるくせに今更何を言ってるんだ。私と黒尾に万が一も何もあるわけないじゃん。変に意識しちゃってるの、私だけで馬鹿みたい。
口を噤んでしまった私を見て不思議そうな表情の黒尾。分かってる。こんな態度をとるのはおかしい。けれど、頭が働いてくれないのだ。


「今日やけに大人しいじゃん。なんか変なもんでも食ったか?」
「食べてないし」
「んー?悩みがあるなら優しい黒尾サンに相談してみれば?」


相談できたら苦労してないよ馬鹿野郎。黒尾は何も悪くない。憎たらしい笑みだっていつものことだ。それなのに私ときたら、いい、と短く返事をして会議室を後にしてしまったではないか。我ながら、らしくない言動だったと思う。
こんなことになるのが嫌だったから昨日相談したのに。薄情な奴らめ。八つ当たりだとは分かっていたが、昨日の飲み会の席にいた3人に怒りをぶつけるほかに対処のしようがない。
私は何にイライラしてるんだろう。黒尾と2人きりで現地視察に行かせる上司に?そのことになんの疑問も抱かない黒尾に?私の相談にちゃんと答えてくれなかった3人に?
違う。私がイライラしているのは自分自身にだ。
勝手に意識して、黒尾がいつも通りなことにがっかりして変な態度をとって。仕事だからきちんとやろうと決めたはずなのに、こんなにも容易く揺らぐ自分自身が、1番イライラする。
私は会議室に戻ると黒尾に声をかけた。


「ごめん、なんか私、どうかしてたわ」
「は?」
「明日、7時半にしよ。迎えに来てくれるんでしょ?」
「お、おう…」
「仕事頑張ろうね」


大丈夫、ちゃんと今まで通りにできる。私は努めて明るく振る舞った。恐らく、それもまた黒尾にとってはおかしな行動として捉えられただろうけれど、何もツっこんでこないあたり無駄に優しいからムカつく。私はその優しさに振り回されてるんだぞ。
黒尾は私の言葉に、早く仕事終わらせて観光しようぜー、などとふざけた返事をして、いつもみたいに笑った。いつも通りなのが嬉しくて、けれど、悲しかった。もう私、自分の心が分かりません。



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decouragement=落胆


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