×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
battement de coeur


「おーい、きいてマスカ?」


黒尾の声で我に返った。だっていまだに信じられない。黒尾、私のこと好きって言いました?そんな馬鹿な!もしかしてこの状況でからってきたとか?
私は素直に喜ぶことができなかった。自分で言うのも悲しいけれど、私は女としての魅力がほぼない。(ムカつくけど)モテる黒尾がわざわざ選ぶ価値などないのだ。


「同情してくれたの?」
「どういう意味だよ」
「だって黒尾、ジャージで外をうろつく女は嫌だって言ってた」
「あれは!…なんつーか、こう…よく言うだろ、好きなやつほどイジメたくなるって。それだよ、それ」
「ホントに私のこと好きなの?」
「悪ぃかよ」
「悪くは、ない、けど……」
「ちょ、おまっ…!なんで泣くんだよ」
「信じられないんだもん。悔しいけど黒尾はモテるし、私なんかじゃなくても、いい人、いっぱいいるのに…っ、」
「俺は名字が良いって言ってるんですケド。まだ信じてくんねーの?」


俯いてポロポロ泣き出していた私に、そんなことを言う黒尾の声は優しすぎて、私はまた目頭が熱くなるのを感じた。泣き上戸というわけではないはずなのに、涙が止まらない。嬉しすぎて、どうしたら良いのか分からない。


「大体なぁ…お前が鈍すぎんの。言っとくけど、俺は好きでもない女と2人で飲みに行ったりしねーから」
「そ、そうなの……?」
「誰かさんが合コン行った時も、心配で様子見に行ったら案の定変なやつに捕まってたし?」
「……その節はお世話になりました」
「仕事で2人きりになったら様子おかしいし酔い潰れて告白してくるし、しかも本人は覚えてねーし?」
「ごめんなさい…」
「挙げ句の果てに彼女できたって勘違いされて避けられ続けた俺の身にもなれっつーの」
「おっしゃる通りです」


黒尾に改めて言われると、私はなんて恥ずかしいことばかりしてきたんだろう。先ほどまでの涙はどこへやら。恥ずかしさと申し訳なさで、止まってしまったようだ。


「…で、わざわざこんな店予約して告白したんですケド、お返事は?」
「えっ…それは……もう私の気持ち、知ってるんでしょ?」
「酔った勢いで言ったことだろー?ちゃんと素面の時に言ってもらわねーと」


アタフタする私を見て、黒尾は心底楽しそうだ。好きになっておいて今更だけど、性格の悪いやつだ。
面と向かって好きだなんて言えない。言ったら恥ずかしくて死ぬ。なぜ黒尾はあんなにもスムーズに言ってのけたのだろう。モテる男は告白ごときで照れないのか。


「まあ…それは今後の課題ということで…」
「オイ。逃げんな。言え。今すぐ言え」
「こういうことは強要しちゃダメでしょ!男なら待て!」
「ちょっとしおらしく泣いてたかと思えば…お前なぁ…」


分かってる、私が全面的に悪い。間違ったことを言っているとも思う。けれども、恥ずかしくて言えないのだからしょうがないじゃないか。
頑なに拒否する私を見て、黒尾は呆れている。早速嫌われたかもしれない。告白されてすぐにフラれるかもしれない危機だ。


「黒尾……その、」
「良い。分かった。言いたくないなら言わなくて良い」
「え、良いの…?」
「おう」


黒尾はあっさりと引き下がってくれた。正直、少し驚いたけれど、助かった。
ん?でも待てよ。ちゃんと返事してないってことは、私達の関係ってどうなるんだろう。やっぱりちゃんと言わなきゃダメなのかな。
私が1人で悶々と考えているのが分かったのか、黒尾が口を開く。


「付き合うってことで良いんだろ?」
「え?あ、うん」
「じゃあ飯食えよ」
「うん」


なんだ、この優しさは。痒いところに手が届くというか、私の考えていることを察知して安心させてくれる。擽ったいような心地良いような感覚。単純かもしれないけれど、私は幸せを噛み締めていた。
料理も美味しい。それまでの緊張や恥ずかしさを忘れ、私は目の前の料理を食べることに集中した。


「美味い?」
「うん、美味しい」
「名字、」
「へ、どうしたの?」


私が料理に夢中になっている間に、黒尾はなぜか私の隣に立っていて首を傾げた。何してるんだろう。
不思議に思っていると、黒尾の長い指が私の顎を持ち上げた。必然的に黒尾を見上げる形になる。


「ちょ、くろ、お…」
「いいから黙って」


キスされる。そう思って身構えるより先に、黒尾の唇が私のそれと重なった。キスなんて何年ぶりだろう。思っていたよりも柔らかい感触に脳が蕩けそうだ。
時間にしてどれぐらいなのかは分からないが、随分と口付けられていたような気がする。唇が離れてから顔を見合わせると、恥ずかしすぎて身体中が熱くなるのが分かった。


「なんで、急に、」
「んー?名前ちゃんが好きって言ってくれないから、これぐらいさせてもらわないと割に合わないじゃん?」
「な、に…それ!」
「嫌じゃなかったろ?」
「…っ、知らない!」


黒尾のことを優しいなんて思ったのはどこの誰だ。私だけど!前言撤回!黒尾はやっぱり意地悪でイヤラシイやつだ。
けれども悔しいことに、そんな黒尾のことが大好きでキスだって満更でもないと思っている自分がいる。私は恥ずかしさを掻き消すように、グラスのワインを一気に飲み干した。心臓が壊れそうなほどドクドクいってるけど、そんなの気のせいだ。



_ _ _ _ _ _ _ _ _ _
battement de coeur=心臓の鼓動


15/40

PREV TOP NEXT