×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
j'ai fait un reve


黒尾に手伝ってもらったおかげで、残業は瞬く間に終わった。帰り支度をして、久し振りに2人で飲みに行く。少し緊張してはいるものの、お酒の力を借りればきっとどうにかなるだろう。
そう思っていた数分前の私よ、今日はどうやらそんな雰囲気じゃありません。なぜなら黒尾に連れて来られたお店はいつものような居酒屋ではなく、どこからどう見てもオシャレなレストランだったからだ。こんなところでヘラヘラお酒を飲めるはずがない。


「ちょっと、店間違えてない?」
「今日はここ。予約してる」
「え?いつの間に…」
「残業手伝い始める前に電話しといた。入るぞ」
「え、うそ、本当に入るの?場違いじゃない?」
「置いてくぞー」


全く展開についていけないが、どうやら黒尾は本当に予約していたらしく、物腰柔らかそうなウェイターさんが個室へと案内してくれた。意味が分からない。ていうか、これって完全に2人きりじゃん。どういうつもりだ黒尾。私を殺したいのか。
なかば睨むような視線を送ってみたけれど、目の前に座っている黒尾はメニューに意識が集中しているらしく見向きもしない。何の意図があってこんな店を選んだのか分からないが、こうなったら一刻も早く食事を済ませてこの状況を打破しなければならない。


「名字、さっきからすげー変な顔してっけど、まさか緊張してんの?」
「ま、まさか!黒尾でもこんな店知ってんだなーってびっくりしてただけだし!」
「あっそうですか。で?何食いたい?」
「え?いや…な、何でもいいよ。私そんなにお金持ってないし」
「ふーん」


ニタニタ笑っているところを見ると、黒尾は何か企んでいるのだろうか。そんな笑みにさえもドキドキしてしまう自分を呪いたい。1人で舞い上がって馬鹿みたいだ。
それから黒尾は、本当にいつもと変わらない様子でお酒と料理を注文してくれた。なんでそんなに変わらないんだろう。こういう店にも来慣れているのだろうか。誰と?……彼女、とか?沈黙が続いているせいで、私はまた余計なことを考え出してしまう。こんな時に限って黒尾は何も喋ってくれないし、私から声をかけようにも話題が見つからない。
長い長い沈黙を破ったのはウェイターさんで、お高そうな白ワインを注ぎに来てくれた。とりあえず乾杯して、それを飲む。ワインは普段飲まないけれど、こういうお店のワインは悪酔いしそうにないし美味しい。


「なあ、名字」
「ん?何?」
「最近のお前おかしかったけど、なんかあったの?」
「えっ……それは、だから、黒尾に彼女できたって勘違いしてたから……」
「ほんとにそれだけ?」
「そう、だよ」
「へぇ…じゃあ単刀直入にきくけどさ。お前、俺のことどう思ってんの?」


黒尾の問いかけに、私は思わず黙り込んだ。これは、言うべきなのだろうか。黒尾が好きだ、と。いやいや、駄目だ。きっとそういう意味できいてきたわけじゃない。いつも通り答えれば問題ないはず。


「黒尾はムカつくけど良いやつだと思ってるよ。一緒にいて楽だし。良い男友達……だよ、」
「友達、ねぇ……」
「うん…」
「なんでそんな泣きそうな顔して言ってんだよ」


指摘されて初めて気付く。私、うまく笑えてない。少し前までは笑って言えていたことだったのに、いつの間にか黒尾のことが好きになりすぎて、自分の口から友達だと言うことさえも辛くなっていた。
泣きそうな顔なんかしてないし。
とりあえず強がって言ってみたけれど、自分でも分かるぐらい、情けないほど声が震えていたような気がする。私は俯いた。本当に泣きそうだったから。


「お前、嘘吐くのヘタすぎ。素直じゃねーなぁ」
「黒尾に何が分かんのよ」
「俺、とっくに知ってるけど」
「……何を?」
「名字が俺のこと、好きだってコト」
「は?」


黒尾の言葉をきいて、咄嗟に顔を上げてしまった。泣きそうだったことも忘れるほど衝撃的なことを言われたような気がするのだが空耳だろうか。それとも夢?
パニック状態の私だったが、黒尾の心底楽しそうな顔を見て、先ほどの発言は現実のものだったことを悟る。何それ。知ってたっていつから?私1人で、すごい恥ずかしいことしてたじゃん!
ここ最近の言動を振り返って、顔から火が出そうなほどの羞恥心でいっぱいになる。ていうか知ってたなら言ってよ!悩みまくってた私の時間を返せ!


「泊まりがけで仕事行った時、お前、酔い潰れたじゃん?記憶ねーと思うけど、そこでバッチリ告白されましたよ?」
「〜っ!なんで教えてくれなかったの!私がテンパってるところ見て楽しんでたの!?悪趣味!」
「酔ってたし本気か分かんなかったんだから仕方ねーだろ」


そりゃそうかもしれないけど。元はと言えば私が飲み過ぎたのがいけないんだけど。でも、でも!言葉では言い表せない感情が溢れてきて、私は口を噤む。とりあえず帰って良いですか。ダメージ大きすぎて死にそうなんですが。
無言で落ち込む私を見る黒尾の眼差しは、なんとなく優しい。ちくしょう、こんな時までカッコいいのか。ずるい。


「で、俺から言いたいことがあるんだけど」
「…いいよ、分かってる」
「たぶん分かってねーよ」
「直接言われたら泣きそうだから言わないで」
「それは無理なお願いかなー」


なんだ、こんなにダメージ食らってる私に追い打ちをかけたいのか。どうせ、お前のこと女として見たことねーし。とか言われるんでしょ。分かってるし。
私の願いも虚しく、黒尾は口を開いた。


「俺もお前のこと好きなんだけど」
「…………は、」
「な?分かってなかったろ?」


そう言って得意気に笑う黒尾は、まるで悪戯が成功した子どもみたいで。なんなのこれ、夢じゃないの?黒尾のセリフが頭の中をぐるぐる回っているけれど、私は完全にフリーズしてしまった。



_ _ _ _ _ _ _ _ _ _
j'ai fait un reve=夢を見た


14/40

PREV TOP NEXT