×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
une jeune fille amoureuse


赤葦達との飲みの後、家に帰ってから今後どうするべきか悩みまくったが、結局答えは見つからなかった。急に前のように、黒尾ー!なんて気安く呼ぶことはできない。LINEでこちらから飲みに誘うことも考えたが、もし飲みに行くことになってしまったら、それこそ私はどういう態度を取れば良いのか分からない。
悶々と考え続けていると頭がおかしくなってきたので、とりあえずコーヒーでも淹れようと思い給茶室へ向かう。するとそこには、黒尾に告白したという噂の可愛い後輩ちゃんがいた。
この子が黒尾の彼女か…まあ可愛いよなあ…。私が羨ましそうに見ていたことに気付いたのだろうか、彼女は可愛らしく笑いながら会釈をしてきた。可愛い上に礼節もわきまえているのか。なんとハイスペックなのだろう。


「名字さん、ですよね?」
「あ、うん。ごめん、すごい見ちゃってたよね。……あれ?私、一緒に仕事したことあるっけ?名前……」
「いえ、はじめましてですよ。黒尾さんと仲良さそうだなと思って…私が個人的に知ってるだけです。ごめんなさい」
「あー…ごめん。黒尾の彼女なんだよね?気になるよね…」
「え?私、黒尾さんとは付き合ってないですよ?フラれちゃったんです」
「は?え?そうなの?」
「黒尾さん、好きな人がいるみたいで…」
「…そう、なんだ……」


この数十秒ほどの会話の間に、信じられないことが幾つも飛び出してきて頭が混乱している。
まず、黒尾は付き合っていないということ。そういえば、告白されたという噂はきいたが付き合っているらしいという噂はきかなかった。私の勘違いだったのだ。そうなると、ここ数日の私の言動はなんと滑稽だったのだろうか。穴があったら入りたい。けれども、付き合っていないときいて安心したのも事実である。
ところが、次の情報。黒尾には好きな人がいるらしい。……知らなかった。あんなに近くにいたのに、何1つ。その事実に、私の気持ちはドン底まで突き落とされた。
後輩ちゃんに名前を呼ばれて我に返ったものの、きちんと笑顔を作れていたかどうかは怪しいところだ。私は、それまでとは違う悶々とした思いを抱えたまま、淹れたてのコーヒーを啜りつつ仕事に戻るのだった。


◇ ◇ ◇



こんなにも自分が、仕事ができない人間だとは思わなかった。公私混同はしたくないと常々思っていたくせに、今の私はどうだろう。黒尾のことを考えすぎて仕事に身が入らず、残業している有様だ。こんな日がくるなんて、過去の私は想像もしていなかっただろう。
パソコンに向かいながらも、作業する手はなかなか進まない。私、仕事はできるキャラだったはずなのになあ。他の社員達が帰り、静かになった室内でそんなことを思っていると、ガチャリ。ドアが開く音。
誰か忘れ物でも取りに来たのかなーなんて呑気に振り返ると、そこには随分久し振りに見る黒尾の姿があった。え、なんで。


「なんでこんな時間まで仕事してんだよ。そんなに忙しいの?」
「いや…そうでもない、けど」
「今は逃げねーんだ?」
「…っ、それ、は…」
「お前なあ…なんで俺のこと避けてんだよ。LINEも無視しやがって。どういうつもりだよ」
「ごめん……黒尾に彼女できたと思って…勘違いしてて……迷惑、かけないようにしようと思ったの…」
「はあ?」


わけわからん、と言いたげな黒尾の視線が非常に痛い。そうだよね、意味分かんないよね。でも私だって必死だったんだから、そんな顔しないでよ。
俯いて、まともに黒尾の方を見ることができない私に呆れているのか、溜息がきこえた。胸がチクチク痛む。嫌われたかな。勝手に勘違いして変な行動取っちゃったんだから当たり前だけどさ。


「お前、ホントに馬鹿だろ。彼女なんかいねーっつーの。あー……よし、決めた。残業手伝ってやるから飯付き合え」
「え?でも、」
「何?俺に逆らう権利、名字にあると思う?」
「……ないデス」
「はい。よろしい」


有無を言わせず夜ご飯に行くことが決定してしまった。どうしよう。緊張する。でもそれ以上に嬉しい。


「黒尾、ごめんね。ありがと」
「良いからさっさと仕事終わらせろ。俺は腹へってんの」
「うん」


違うよ、黒尾。仕事のことで、ごめんねとありがとうを言ったわけじゃないんだよ。私がやらかしちゃったことに対するごめんねと、こんな私を嫌わずに今まで通りに接してくれる黒尾へのありがとうなんだよ。
黒尾とまともに話すことができなかった(自分のせいで、だけど)数日間のモヤモヤが、嘘みたいに解消されていく。やっぱり私、黒尾が好きだ。
ドキドキ高鳴る胸が、私の気持ちを物語っていた。



_ _ _ _ _ _ _ _ _ _
une jeune fille amoureuse=恋する乙女


13/40

PREV TOP NEXT