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effondrement declaration


黒尾を避け続けること1週間。さすがの黒尾も諦めたのか、LINEの連絡はほとんどしてこなくなったし職場でもあまり声をかけられなくなってきた。これでいい。これでいいはずなのだけれど、離れた距離の分だけ、胸がズキズキと痛んでいた。
そんな傷心の私に、赤葦から飲みのお誘いがあった。赤葦の方から誘ってくるのは珍しいことだけれど、何かあったのだろうか。少し心配になったけれど、私にとってはグッドタイミングだ。


「赤葦ー!…と、木兎と……月島…も、いるのね」
「こっちだって好きで来てるわけじゃないんですけど」
「じゃあ帰りなよ!」
「まあまあいいじゃねーか!楽しく飲もうぜー!」


相変わらずの憎まれ口を叩く月島と、これもまた相変わらずハイテンションな木兎というオマケ付きではあるが、このメンバーは落ち着くからよしとしよう。今日はなんと言っても赤葦からのお誘いだ。たまには先輩の私が話をきいてあげようじゃないか。


「で、赤葦、どーしたの?」
「はい?俺は何もないですよ」
「へ?珍しく赤葦が誘ってきたから、てっきり何か相談でもされるのかと思ってたんだけど…」
「違いますよ。むしろ逆です」
「ん?」
「名字さん、相談あるんでしょ。早く言いなよ」
「なんで月島がそんなこと言うの!」
「いいじゃねーか。俺もきいてやるぞ」


なぜか私が悩みを抱えていることが3人にはバレているようだ。まさかエスパーなのか。納得はできないが、どうせ話をきいてもらおうと思っていた私は、運ばれてきたばかりのビールを一口飲んでから口を開いた。


「実はさあ…私、黒尾のことが好きみたいなんだよね……」
「はい、知ってます」
「それで?」
「気付いて良かったじゃねーか」
「は?ちょっと待って。なんで前から知ってましたって感じなの?そこは驚くところじゃない?」


3人は口を揃えて、前から分かってたんですけど、と言ってのけた。なぜだ。やっぱりエスパーなのか。私が愕然としている中、月島はいつもの調子で尋ねてきた。


「で、何を悩んでるんですか?」
「んー…なんていうか、うまく言えないんだけど……とにかく、今は黒尾と距離置いてるところでね、」
「ストーップ!なんで黒尾のこと好きなのに距離置いてんだよー!」
「木兎声大きい!誰か知り合いいたらどうすんの!」


木兎にしてはごもっともな発言だが、こんな誰がいるかも分からない居酒屋で人の好きな人を大声で暴露するのはやめていただきたい。木兎が素直に押し黙ったのを確認して、私は事の経緯を説明した。
2人で泊まりがけの仕事に行ったこと、お酒に酔ってやらかしてしまったこと(月島がすごく私のことを見下していた)、2人で夕日を眺めたこと、黒尾が最近告白されて彼女ができたらしいということ。


「だから、距離置いてんの」
「あー……なるほど。そういうこと」
「黒尾さんが機嫌悪い原因はそれか…」
「黒尾が何って?」
「なんでもないです。こちらの話なので気にしないでください」
「そうなの…?」


私の話をきいた赤葦と月島が、非常にすっきりした顔をしているのはなぜだろう。よく分からない。


「彼女ができたって本当なんですか?」
「直接きいたわけじゃないけど、たぶん…。私、どうしたら良いと思う?このままで良いのかなあ…」
「ダメだ!絶対ダメだ!」
「でもさあ…どうやって元の状態に戻れば良いのか分かんない」
「元には戻れないでしょ。違う方法、考えてみれば?」
「はあ?他に方法って………仕事辞めるとか?」
「名字さんって馬鹿ですよね」
「ちょっと月島、表出ようか」
「名字さん落ち着いて」


赤葦になだめられてなんとか平静を取り戻したものの、危うく月島を殴りそうになってしまった。こんなに真面目に悩んでる私に向かって馬鹿とはなんだ!先輩だぞ!
ビールをぐびぐびと飲み干して心を落ち着かせたところで、赤葦がとんでもない提案をしてきた。


「素直に自分の気持ちを伝えたら良いんじゃないですか?案外すっきりするかもしれませんよ」
「いやいや待って。それは無理。ほんとに無理。赤葦、血迷ったの?」
「俺は真剣です。そもそも、名字さんの方から黒尾さんを避ける必要はないんですよ。もし黒尾さんに彼女ができているとしても、名字さんと距離を置くべきかどうか判断するのは黒尾さんの方じゃないですか」
「……、それは…そう、かも……だけど、」
「此の期に及んで、黒尾サンの彼女に申し訳ないとか言いませんよね?そんな、人のこと考えてる余裕、ないんじゃないですか?」
「名字は黒尾が好きなんだろー?距離置いてんの辛いなら戻れば良いって」


3人がそれぞれの言葉で私を励ましてくれているのは分かる。すごく有り難いとも思う(月島の言い方はトゲがあるけど)。けれど、一度こちらから取ってしまった距離を縮めるのは難しいことだ。
今まで通り、ってどんな感じだったっけ?どんな風に喋ってどんな風に笑ってたっけ?たった1週間の間に、そんなことも忘れてしまった。


「まずは黒尾さんと話してみたら良いと思いますよ」
「その後のことは自分で考えてみたら?」
「大丈夫だ!うまくいく!」


木兎の根拠のない励ましと、月島の常套句となりつつある、自分で考えれば?発言はともかくとして、赤葦のアドバイスは確かに一理あるかもしれない。そうだ、逃げてばかりではいけない。どこかできちんとケリをつけなければ。


「んー、なんかよく分かんないけど、頑張ってみる。もう少し考えてみるわ……。今日はありがと。私、帰るね…」


3人にお礼を言ってから私は店を出た(勿論、多めにお金は置いてきた)。ビール1杯とおつまみしか口にしていないのに、お腹はすいていない。
恋って難しいなあ。
帰り道、ぐるぐる考えるのは黒尾のことばかりで、私の頭はパンクしそうだった。



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effondrement declaration=崩壊宣言


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