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les sensations tourbillonnent


黒尾が好きだということに気付いてしまってから、私はひたすら悩み続けた。私は27歳。それなりに恋愛経験だってある。けれどもそれは、数年前の話だ。
社会人になってからは仕事に明け暮れていたから、恋愛の仕方なんてすっかり忘れている。だから、黒尾に対する気持ちにもなかなか気付けなかったのだ。私はどうしたらいいのだろう。
案1:気持ちを素直に伝える
これは最も駄目だ。黒尾とは仲が良いけれど、それは友達としての話であって、急に恋愛感情なんて持ち込んだら今までの関係が終わってしまう。黒尾と気まずくなるぐらいなら、気持ちを伝えない方がずっと良い。よって、この案は却下だ。
案2:それとなく周りから私が好意を寄せていることを伝えてもらう
例えば赤葦とか。木兎とか。月島……は無理か。しかしそうなると、彼らに黒尾のことが好きだと知られてしまう。それはなんとなく恥ずかしい。それに、結局黒尾に私の気持ちがバレてしまったら案1と同じ結果になってしまう気がする。よって案2も却下。
案3:気持ちは伝えずこのままの関係を続ける
結局、この手段しか残っていない。それに1番良い案だと思う。仲の良い友達。それだけで十分じゃないか。
私は案3を採用することに決めた。


◇ ◇ ◇



仕事では殊のほか、黒尾に自然な形で接することができていた。他の社員達もいるし、2人きりじゃなければ問題はなさそうだ。
そんなある日、噂をきいた。黒尾が、社内でも可愛いと評判の後輩から告白されたという噂だ。
私は失念していた。そう、今まで何度も確認してきたことだけれど、黒尾はモテる。そりゃあ告白だってされるだろう。私がどれだけ想いを募らせても彼は友達でしかなくて、いつかは誰かのものになってしまう。そうなれば、今の関係だって終わってしまうのだ。
だからと言って自分の気持ちを伝えるなんて勇気は微塵もない。私はただ、好きな人が誰かのものになっていく様を笑顔で祝福しなければならないのだ。我ながら、なんと可哀相な役回りなのだろうか。
きっと黒尾は可愛い後輩からの告白を喜んで受け入れただろう。暫く彼女はつくらないとか言っていたけれど、好みの女の子に告白されて付き合わない男なんているはずがない。
彼女ができたならすぐに自慢されると思っていたのに、意外にも黒尾からは何の報告もなかった。それはそれで寂しい。


「名字ー、例の案件の予算どうなった?」
「え?あ、ああ…ごめん、まだ書類印刷してない。後でデスクに置いとくから」
「いや、また取りに来る」
「いやいや良いって。置いとくから、来なくていい」


噂のことを耳にしてから、私はできるだけ黒尾と距離を置いた。今までのように親しくしていたら黒尾にも彼女にも申し訳ない。
簡単な用件ならメールでしてもらうようにお願いし、定例会議の時以外は極力話さないように努めた。飲みの誘いも全て断ったし(ていうか彼女がいるのに私を飲みに誘うなよ)、LINEでのやり取りも減らした。
しかし、そんな私の努力の甲斐も虚しく、黒尾は今まで通りのスタンスで私に接してくるから困ったものだ。少しはこっちの苦労も分かってほしい。


「なあ、今日飲み行かねぇ?」
「行かない。忙しいから」
「最近付き合い悪ぃなー」
「早く仕事戻ったら?」
「何?なんかあったの?」
「何にもないから」


何かあったのはそっちだろ、と言ってやりたい。私は自分の胸がキリキリと痛むのに気付かないフリをして、その場を立ち去った。
恐らく、不自然だったと思う。けれど、これ以上私にどうしろと言うのだろうか。もっと明確に距離を置けば良いのだろうか。考えても答えは見つからない。


翌日から、私は黒尾からのLINEを無視し、仕事でも黒尾の姿が見えたら他の場所に行くようにした。あからさまに、黒尾を避け続けた。そうでもしないと、自分がつらくて。
黒尾のためでも黒尾の彼女のためでもなく、私は私のために黒尾から距離を置いたのだ。彼女ができた黒尾の近くにいるのはつらい。いつかその口から、彼女の惚気でもきかされたらどうしよう。友達なら笑ってきいていなければならないはずだけれど、私にはそんなことできそうもない。もう、友達にも戻れない。
心臓がぐちゃぐちゃになりそうだったけれど、それを選んだのは自分だ。私はそうやって、自分の感情を押し殺した。



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les sensations tourbillonnent=渦巻く感情


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