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je me suis enfin rendue compte


朝―――ふかふかのベッドの上で目を覚ました私は、おもむろにスマホで時間を確認する。5時半…早いな。2度寝しようと布団に潜り込んだところで、ふと、昨晩のことを思い出す。あれ?私、どうやってここまで帰ってきたんだろう?
プロジェクトの一環で黒尾と現地視察に来て、夜はホテル近くの居酒屋で飲んでいた。そこまでは記憶がある。けれど、飲み始めて気持ち良くなってきて、その後の記憶がすっぽり抜け落ちていた。勿論、ここまでどうやって帰ってきたかも憶えていない。
そこまで考えが至ったところで、私は漸く覚醒した。思わずベッドの上で正座をする。大変なことをしてしまった。恐らく、というか絶対、ここまで運んでくれたのは黒尾だ。さぞかし重かっただろう。いや、問題はそこじゃない。
今までお酒で失敗したことは1度もなかったというのに、なぜよりにもよって黒尾と2人で飲みに行った時に記憶を振っ飛ばすほど飲んでしまったのか。昨日の自分を呪う。何かおかしなことは言っていないだろうか。変なことはしなかっただろうか。不安になったところで記憶が戻ってくるわけもなく、私は項垂れる。
とりあえずシャワーを浴びてゆっくり支度をしよう。そして黒尾に謝ろう。
重たい身体を引きずって、私は浴室へと向かった。


◇ ◇ ◇



「お、おはよう…」
「おう。二日酔いじゃねーの?」
「うん…大丈夫」


ホテルのロビーで黒尾と待ち合わせ、朝食を取るべく大広間へ移動する。黒尾の言動に目立った不自然さはなく、私が見る限り普段通りだ。少しホッとする。


「あの、ごめん…昨日、私寝ちゃったんだよね…?」
「あー…ビビったわ。だから飲みすぎだっつったのに」
「はい、すみませんでした」
「いいえー」
「それで…あの、私…変なこと言ったりしてない?よね?」
「は?」
「実は飲んでる途中から記憶なくて…何かやらかしてたらごめん」
「お前、記憶ねーの?マジで?」
「えっ、もしかして何かヤバいことしてた?言ってた?」


黒尾の驚きように不安が募る。もしも迷惑をかけたのなら(ホテルまで運んでもらった時点で既に迷惑かけまくりだけど)、それ相応の謝罪をしなければならない。身構える私をよそに、黒尾は遠くを見つめている。何?私、そんなに言いにくいようなことやらかしたの?


「いや…別に、何もしてねーよ」
「ウソでしょ。いいよ、言ってよ」
「ホントに寝てただけだって。運ぶの重かったぐらい」
「……スミマセンデシタ」


黒尾はそれから、私を咎めることもからかうこともせず、朝食のバイキングへ向かって行った。そうか…重かったのか…だから言いにくそうにしてたわけね。ダイエットでもしようかな…。美味しそうな食事が並ぶバイキングを眺めながら、私はそんなことを考えた。


◇ ◇ ◇



朝食後、午前中の内に再び取引先の人と打ち合わせをしてからホテルを出発した。途中で遅めの昼食を取り帰路につく車内では、またもや沈黙が続く。昨晩やらかしてしまったこともあって、どうにも喋りにくい。
すると、突然黒尾が口を開いた。


「寄り道していい?」
「へ?ああ…いいけど。どこ行くの?」
「んー、俺がちょっと行きたいとこ」


それ以上、黒尾は答えてくれなかった。どこに行くんだろう。地理に疎い私には今どこを走っているのかも分からないので、行き先の見当などつくはずもない。私は黙って面白くもない景色を眺めることしかできなかった。


◇ ◇ ◇



いつの間にか高速をおりていて、着いたところは高台だった。駐車場に車を停めて暫く歩くと広場になっているスペースがあり、そこから街の景色が一望できる。時刻はちょうど夕暮れ時で、街はオレンジ色に染まっていた。


「すごーい!きれーい!」
「おー、ほんとだ。予想以上」
「黒尾が来たかったのってここ?」
「ネットで見て、時間帯がちょうど良さそうだったから」


なんだよ黒尾、こんな景色見せてくれるとかイケメンかよ。あ、イケメンだった。
隣でぼーっと景色を眺める黒尾を見て、キュンとする。え?待って待って、キュンってなんだ。少女漫画じゃあるまいし。これじゃあまるで、私が黒尾に恋してるみたいじゃないか。…恋、してる、みたい…?
自分で思ったことに自分でツっこむ。最近のドキドキも胸の苦しさもキュンとするのも、私が黒尾のこと好きだから?確かに、そうだとすれば納得できるけれど、でも。1人でパニック状態になっている私の心中など知る由もない黒尾は、そろそろ行くかー、とのんびり言った。
どうしよう。気付いてしまった。私、黒尾のことが好きになってたんだ。
帰りの車内、それまでの比じゃないぐらい心臓がバクバクして死ぬかと思った。意識しないようにと考えれば考えるほどドキドキして息苦しくて、いっそのこと死んだ方が楽じゃないかとさえ思った。
神様、私、どうしたら良いですか。



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je me suis enfin rendue compte=漸く気付いた



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