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練習試合の後、名前ちゃんが待っていてくれるとばかり思っていた俺は、スマホを見て愕然とした。初めてLINEでメッセージをくれたのは嬉しかったけど、内容が内容だっただけに喜べるはずもなく。あまりの俺の落ち込みように驚いたのか、あの3人が珍しく慰めてくれたのは貴重な体験だった。
そんな週末を終えて、今日は月曜日。俺は登校するなり隣の席の名前ちゃんに声をかけた。


「ねぇ名前ちゃん。なんで練習試合の後、待っててくれなかったの?」
「…私、待ってるなんて返事してないでしょ。それにちゃんとLINEもした」
「LINEくれたのは嬉しかったけど!その後、返事くれなかったじゃん」


頬を膨らませて怒ってるアピールをしてみたけれど、可愛くない、とバッサリ切り捨てられてしまった。いつものことだけど、悲しい。
それからはいつも通り名前ちゃんに話しかけ続けては冷たい態度を取られ、笑いかけては無表情で返される、というお決まりのパターンを繰り返して1日を過ごした。
けれど、俺の気のせいだろうか。最初の頃に比べて、ほんの少し名前ちゃんの表情が和らいできたような、変化が見られるようになったと感じるのは。
じーっと相変わらず綺麗な名前ちゃんの顔を見つめていると、何?と嫌そうな顔をされた。ほら、なんとなく感情が読み取りやすくなってる!分かりやすいのは負の感情ばっかりだけど!


「なんか名前ちゃん、最近少し分かりやすくなったよね」
「え?何が?」
「表情。前より分かりやすい」
「…気のせいでしょ」


ふいっと俺から視線を外すのは、きっと自分の表情を読み取られたくないからだ。今まではそんなことしなかったんだよ、名前ちゃん。
俺が1人でほくそ笑んでいると、及川ー、とクラスの男子に呼ばれた。


「お前、今日部活ないんだろ?もう帰る?」
「うん。名前ちゃんと帰るけど」
「きいてないし!」
「あー…なんか、たぶん後輩?の女の子が体育館裏に来てくださいって。伝言頼まれてさー…行ってやってくんない?」
「えー。んー…名前ちゃん、ちょっと待っててくれる?」
「だから、私一緒に帰るとか言ってない。待たない」


せっかく部活がない月曜日。絶対に名前ちゃんと帰ろうと思っていたのに、なんというタイミングの悪さだろうか。
どうせ告白されるのだろう。そんなことは分かっている。そして俺がその告白を断るということも決まりきっていることだ。
けれども、呼び出されて行かないというのは、頑張って気持ちを伝えようとしてくれている女の子達が可哀想でできない。どうにかして名前ちゃんを引き止める方法はないものか。
帰り支度をしている名前ちゃんの様子を窺っていると、どうもいつもと様子が違うような気がする。動きがぎこちないというか、動作が緩慢というか。……え?もしかして、俺のこと少しでも待とうとしてくれてる、とか?


「もしかして、なんだけどさ。名前ちゃん、俺のこと待とうとしてくれてたりする?」
「そんなわけ、ないでしょ」
「ほんとに?」
「良いから、体育館裏行ってくれば?女の子、きっと待ってる」
「名前ちゃん。今度こそ、待ってて。すぐに帰ってくるから!ね?お願い!」


顔の前で手をパチンと合わせ、お願いしてみる。名前ちゃんは待っててくれる。わけもなく、そう確信していた。けれど。


「…嫌。なんで及川が告白されるの待ってなきゃいけないの」
「告白じゃなかったら待ってくれる?」
「なっ…、何、言ってんの…」
「もしかして俺が告白されるの、嫌とか?」
「……馬鹿じゃないの」


言葉とは裏腹に名前ちゃんの瞳は僅かに揺らいでいた。うそ、まさか、図星?何それ、嬉しすぎるんだけど!だってそれって、嫉妬してくれてるってことだよね?そうだよね?1人で舞い上がっていく気持ちを収拾する術が見つからない。
放課後の教室は段々人がまばらになっていき、俺達を含め残りはあと数人だ。俺は名前ちゃんにそっと近付くと耳元で囁いてみた。


「俺が好きなのは名前ちゃんだけだから、安心して?」
「〜っ!急に何言ってんの!」
「動揺してくれてる?」
「びっくりしただけ!馬鹿なこと言ってないで早く行って!」


好意を寄せていることは散々アピールしてきたけど、言葉で直接的に好きだと伝えたのは、たぶん初めてだった。今までの彼女からは考えられない動揺が見て取れて、嬉しくなる。
俺の言葉で、表情を変えてくれた。その事実がこんなにも嬉しい。よく見るとその頬は薄っすらとピンク色に染まっているようにも見える。


「ちゃんと告白、断ってくるよ。だから、一緒に帰ろ?待ってて。…ね?」
「…分かったから、早く行きなよ」


根負けした名前ちゃんは、どうやら帰るのを諦めて待っていてくれるようだ。でもさ、名前ちゃん。実は俺と帰るの、そんなに嫌じゃないよね?だって、ほんの少し、ほんの少しだけど、嬉しそうだもん。


染まった頬が嘯く


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