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最近の私はどうもおかしい。その原因が及川にあるということだけは確実なのだけれど、打開策は見出せていないのが現状だ。
思えば、最初に出会った時から調子を狂わされてばかりだった。人の言うことを無視して話しかけてきたり連れ出したり連絡先を交換したり。しかも、なんだかんだ言って及川の思うままに事が進んでいっている。
つい先日も及川の押しの強さに負けて一緒に下校するハメになった。帰り道で青城生に出会うたびに視線を浴びたのは、及川が有名人だからだろう。
変な噂をたてられたらどうしよう、と不安になったけれど、隣を歩く及川はそんなことを気にしている様子はなかった。そもそも、そんな噂を恐れているならば私なんかと帰ったりはしないだろうけれど。
告白ちゃんと断ったからね、と。教室に帰って来るなり、及川は頼んでもいないのに報告してきた。何が、ちゃんと、なんだろう。及川が誰と付き合おうが別れようが、私には関係ない。はず、なのに。及川の言葉に安堵している自分に驚いた。
ほら、やっぱりおかしい。
練習試合の日も先日の月曜日も、私の意図しないところで変に胸が苦しくなる。こんなこと、今までなかったのに。


私はつけっぱなしのテレビをぼんやり眺めた。
ゴールデンウィークという大型連休に入り、学校は休みである。仕事が忙しい父はゴールデンウィークも家にいない。母と家でのんびり過ごすのも毎年のことで慣れてしまった。人が多いと分かっていてどこかに行きたいとも思わないし、家でのまったりした時間は好きだ。
けれども、なぜだろう。学校に行かなくて良いのは嬉しいことのはずなのに、カレンダーを見るたびに、まだ明日も休みかあ、なんて考えてしまう。


「名前、どうしたの?休みに入ってからカレンダーばっかり見てない?」
「そう?気のせいじゃない?」
「ふふ…そんなに学校、楽しいの?」
「えっ?別に…友達はできたけど、普通だよ。普通」
「ふぅーん?今まで名前がそんな顔することなかったから。お母さん、嬉しいわ」
「そんな顔ってどんな顔?」
「学校が楽しみで仕方ないって顔」
「………」


母の言葉に絶句した。
学校は確かに楽しくないわけじゃない。琴乃や和音だっているし、クラスの雰囲気も良くて居心地が良いとさえ感じる。けれど、それは今まで通ってきた他の学校でも、同じような状況があったはずだ。そこでなぜかポンと浮かんだのは及川のニコニコした笑顔で、私は小さく首を横に振った。
なんでここで及川が出てくるんだ。そういえば及川、ゴールデンウィークはバレーの強化合宿とか言ってたな。どこに行ってるんだろう。連休あけにどうせ話してくるんだろうけど。珍しくLINEしてこないところを見ると、練習がハードなのかもしれない。
そこまで考えて、私は再び首を横に振った。だから、なんで及川のことばっかり考えてるんだ。
学校が休みだと会わなくて良いから清々すると思っていたはずなのに、心の中はなぜかモヤモヤしている。矛盾だ。
1人で頭を悩ませる私を、母はなぜか楽しそうに眺めているのだった。


◇ ◇ ◇



ゴールデンウィークが終わり、少し気怠い身体を引きずって登校した。みんなも気持ちは同じなのか、どこかしら覇気がないように見える。
そんな中、いつもと変わらない人間がいた。そう、隣の席の及川だ。


「名前ちゃん、おっはよー!久し振りだね!俺に会えなくて寂しかった?」
「朝から何言ってんの…元気だね」
「そりゃー名前ちゃんに会えるんだもん!及川さん元気いっぱいだよー!」
「あっそう…」

予想していた以上にハイテンションだ。ついていけない。いや、元々ついていく気もないけれど。
そんな私のローテンションを気にすることもなく、及川は勝手に喋り続けている。合宿はつらかったとか、でも楽しかったし自分の成長に繋がったとか。生き生きと話をする及川を見て、本当にバレーが好きなんだということが伝わってきた。


「及川はバレー大好きだね」
「当ったり前でしょ!あ、バレーと同じぐらい名前ちゃんのこともす…「そういうの、良いから。黙って」
「……照れてる?」
「なんでそうなるの?」


あの月曜日の放課後のことが脳裏をよぎる。
あの時は好きだと言われて、不覚にも動揺してしまった。でも当たり前といえば当たり前の反応だったと思う。
及川は恋愛経験が豊富だからか、好き、なんて言葉を軽々しく言ってのけたけれど、生憎私は、そんな言葉は言われ慣れていないのだ。人の反応を見て喜ぶのはやめてほしい。
今日も軽いノリで言おうとしたのだろう。悪いがそんなのお断りだ。


「俺、本気なのに…」
「はいはいアリガトウ」
「信じてないでしょ!ひどい!」
「誰にでもそういうこと言ってると、本命の子に信じてもらえなくなるよ」
「………そうだね…」


あからさまに肩を落とす及川。そんなにショックを受けることだっただろうか。まるでこの世の終わりとでも言わんばかりのオーラを放たれるのは、さすがに鬱陶しい。


「及川、」
「んー…何ー……?」
「言いすぎたってば。お弁当のおかず少し分けてあげるから、その沈んだオーラどうにかして」


私の発言にぱあっと目を輝かせる及川は単純だ。こんな風に感情を露わにできたら、毎日楽しいんだろうな。
そんなことを思っていたからだろうか。ほんの少し自分の頬が緩んだことに気付かなかった。及川が私の顔を凝視していて、初めて、我に返る。


「名前ちゃん!今の顔、すごい可愛い!もう1回笑って!」
「及川うるさい!ほら、チャイム鳴ったから先生来るよ!」


隣で尚もギャーギャー喚いている及川のことは無視を決め込んだ。それにしても私、どうしちゃったんだろう。
思わず自分の頬を撫でてみたけれど、当たり前のことながら何か変化があるわけもなく。私はまるで顔を隠すみたいに、及川に背を向けた。


表情筋の崩壊


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