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12月の一大イベントと言えば、やはりクリスマスだ。俺も名前との楽しいクリスマスを迎える…つもりだった。けれど、実際のところ、俺はその話を切り出せずにいる。
俺達は受験生。1月に行われるセンター試験に向けて最後の追い込みをかけているこの時期に、クリスマスにデートしようなんて浮かれたことはとてもじゃないが言える雰囲気ではない。特に俺は、既に推薦入試を終えて進学先が決まっているから、余計に軽率な発言は控えなければならないのだ。
というわけで、名前の方から誘ってくれないかなあ、なんて淡い期待を抱いていたのだけれど、まあ当たり前のことながらクリスマスのクの字も出てくることはなく、今日は23日。祝日のため、学校は休みだ。
俺はやることがないから、敷きっぱなしの布団の上でゴロゴロしている。名前、今頃勉強してるかなあ。ちょっとぐらい連絡したら駄目かなあ。…邪魔しちゃうから、やっぱり駄目だよなあ。
俺は慢性的な名前不足だ。同じクラスだし一緒に下校しているとは言え、ここ最近2人きりで過ごす時間はめっきり減ってしまった。そりゃあ、勉強に励んでいる名前を応援したい気持ちは大いにある。が、しかし。ほんの少し、息抜き程度で良いから、俺に構ってくれないだろうか。
我ながら女々しいとは思うが、名前のことが好きすぎるあまり、俺は名前と長期間離れることが辛くてたまらない。これでもし名前と遠距離になるのだとしたら一大事だろう。
でも俺は、そこについてはあまり心配していなかった。何の根拠もないし、本当になんとなくでしかないけれど、名前は俺と同じ大学を目指してくれているような気がするからだ。名前は何度きいても教えてくれないから、確証はない。が、名前は実のところ、俺のことを結構好きでいてくれると思うから、期待していたりする。
さて、話は逸れたが、今直面している問題はクリスマスだ。と言っても、明日がクリスマスイブなわけだから、チャンスは今日しかない。邪魔するなと怒られるかもしれないけれど、せめて声だけでも聞きたい。
俺がスマホで名前の連絡先を探し出し、通話ボタンを押そうとした、その時。なんというタイミングの良さだろう。スマホには、名前からの着信を知らせる画面が表示されている。まさかあの名前の方から電話をしてくれるなんて、感動ものだ。俺はウキウキしながら、すぐさま通話ボタンを押した。


「もしもし!俺も今電話しようとしてたんだけど!これって運命じゃない!?」
「……じゃあちょうど良かったね…」
「運命のところスルー!?」
「徹、ちょっと落ち着いて。うるさい」
「…ごめんなさい」


電話越しでも分かる名前の引き気味の対応に、俺は少ししゅんとしてボリュームを下げた。
だってさ、名前から電話とか、レアなんだもん。ただでさえLINEもあんまりしてくれないのに、電話だよ?興奮しない方がおかしいよ。
俺は心の中でそんなことを思いながら、耳は名前の声に集中させる。


「徹、今何してたの?」
「んー?やることないからゴロゴロ」
「いいね、暇で」
「ごめん。名前は勉強してたんだよね?」
「うん。でも集中力切れちゃって」
「俺で良かったら息抜き相手になるからいつでも連絡してよ」
「うん。気が向いたらね」


それとなく、俺はいつでも相手できますよアピールをしてみたけれど、名前からの反応は芳しくない。まあ勉強頑張らないといけない時期だもんなあ…俺なんかに連絡してる暇なんてないか。
そこまで考えて、俺は気付いた。よく考えてみたら、この電話は名前からしてくれたわけだから、何か用事があるということだろうか。


「ねぇ名前、」
「何?」
「俺に、何か話したいことがあるんじゃないの?」
「え…別に、ないよ、」
「じゃあなんでわざわざ電話してきてくれたの?」
「それは…なんとなく……気が向いたっていうか…」


それはそれで嬉しいけれど、名前はたぶん嘘を吐いている。俺に言いにくいことなのだろうか。進学先の大学のこととか?勉強のことは俺なんかに聞いてこないだろうし…。
俺は1人、様々な考えを巡らせる。けれども、電話では表情も分からないし、名前が何を考えているのかはやっぱり分からない。


「徹はさ、」
「え?あ、うん」
「その……イベントとか、あんまり興味ないんだね」
「へ?イベント?」
「ううん、何でもない、ごめん、」


名前が唐突に何の脈絡もないことを言ってくるわけがない。イベントって何だ?…え、もしかして、クリスマスのこと?
言い出しにくそうにしているのは、自分からクリスマスに誘うのが恥ずかしいからなのだろうか。もしそうだとしたら嬉しすぎるんですけど。
俺は高鳴る胸を抑えて、できるだけ平然を装った声音で恐る恐る確認してみることにした。


「あのさ、もしかしてクリスマスのこと、気にしてる?」
「別に!そういうわけじゃ…」
「俺はクリスマス、名前と一緒に過ごしたいなと思ってるよ」
「……でも、そんなこと、全然言ってこなかったよね?」
「名前、勉強頑張ってるから。この時期に俺から誘っちゃ駄目かなーと思って」


俺は自分の気持ちを素直に伝えた。もしも、名前も一緒に過ごしたいと思ってくれているなら、これほど嬉しいことはない。


「……明日、」
「うん?」
「クリスマスイブだね」
「そうだね」
「……あの、徹、明日なんだけど…」
「うん」
「どう、する?」


言い淀んで結局俺に答えを求めてくる名前はちょっとズルいと思うけど、電話の向こうで必死に言葉を選んでいるのだと思うと物凄く愛おしくなってきて、思わず笑ってしまった。俺の笑い声をきいた名前は、なんで笑ってんの、と不機嫌そうに尋ねてくるが、ちっとも怖くない。


「ごめんごめん、名前が一生懸命なのが可愛くてつい」
「意味分かんない…」
「明日、名前が良いなら俺とデートしてよ」
「それは、別に、いいけど…」
「じゃあ決まり。楽しみだなー」


素直にデートのことを喜んでくれないのは少し寂しいけど、名前の方から明日のことを話題にしてくれただけでも大収穫だ。俺は上機嫌で、じゃあまたLINEするねーと軽い調子で続けた。
しかし、電話の向こう側からの返事はない。あれ?調子に乗りすぎて引かれたかな?姿が見えるわけではないから、名前がどんなことを思って沈黙を続けているのか、俺には全く分からない。


「私も、…してる、」
「ん?何?」
「私も楽しみにしてるって言ったの!」
「へ、」
「そろそろ勉強戻るから切るね。ばいばい!」
「え、ちょ、ま、……切れちゃった」


可愛い台詞を言い逃げされ、俺はスマホを握り締めたまま項垂れた。楽しみにしてるって。あれ、絶対顔赤くさせながら言ってるやつだ。あー…見たかったな、照れてる名前の顔。
頬がだらしなく緩んでいることは自覚しているが、こればかりは仕方がない。だって、嬉しくてしょうがないんだもん。
俺はそれから、ウザいことを承知の上で名前に明日のことについてLINEしまくった。勿論というべきか、ほとんど既読スルーされて、最後に了解としか返事されなかったけれど、明日のことが楽しみすぎる俺はそんな辛辣な態度を取られてもヘコまない。
いつ渡すかは別として、名前のためにクリスマスプレゼントを用意しておいて良かった。俺は机の隅にひっそり置かれているそれへと視線を送って、口元を綻ばせるのだった。


愛詩TEL


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