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やっとのことで部長会を終えて体育館に戻る途中、なぜか練習せずに体育館前の廊下で話し込んでいる3人が目に入った。俺がいないからってこんな大切な時期にサボるとは何事だ!と一瞬思ったけれど、よく考えたらあの岩ちゃんがサボるなんて有り得ない。ということは、何かトラブルでもあったのだろうか?妙な胸騒ぎがした俺は、足早に3人に近寄った。


「3人揃ってどうしたの?何かあった?」
「おー及川。部長会終わった?」
「終わったからここにいるんでしょ。で?何?トラブル?」
「何もねぇよ」
「え?練習せずに3人揃ってこんなところで話してたのに?」
「練習メニューのこと話してただけだから。休憩終わるし、そろそろ戻るわ」
「ふーん…」


まっつんの言う練習メニューの話をしていたんだとしても、やけに深刻そうな顔をしていたのは気のせいだろうか。違和感を覚えつつも、俺は練習に混ざった。練習中は特に変わりなかったものの、部活終わりの部室内はなぜかひどく静かでやはり何かあったな、と直感で気付く。
これは問いただすしかないな、と思いつつ何気なくスマホをいじっていると、珍しくも名前からのLINEが届いていた。なんとなく嫌な予感がして内容を見てみると、予感は的中。今日は連絡してくるなということか。
様子のおかしい3人に加えて、今日に限って俺との連絡を断とうする名前。これは完全に関連しているとしか考えられない。


「…ねぇ、3人とも、何か俺に隠してることない?」
「何かってなんだよ」
「そんなのあるわけねーだろ」
「なんで急にそんなこときくわけ?」
「名前のことで、何かあったんじゃない?」
「「「は?」」」
「ビンゴ。はい、教えて」


なんとも息の合ったチームメイトだ。おかげですぐ答えに辿り着くことができた。けれど、3人は口を開かない。恐らく名前に口止めでもされているのだろう。
俺はダメ元で名前に電話をかけてみた。当たり前のことながら出てはくれない。LINEも一応送ってみるが、返事は見込めないだろう。


「名前に何かあったってことだよね?」
「…本人にきけよ」
「俺らから言えることはねーから」
「名字さんにお願いされちゃったからな」
「……分かった」


これ以上3人にきいても俺の求めている答えは返ってこないだろうし、名前絡みのことなら名前の口からきくべきだ。そう思った俺は、無言で部室を後にした。久し振りに1人で歩く帰り道。考えるのは名前のことばかりで。その夜、寝るまでスマホを見つめていたけれど、名前からの返事はなかった。


◇ ◇ ◇



翌日の朝練終わり。俺は教室に入るなり席に座っている名前に近付くと、その細い腕を掴んで教室を出た。何事かとクラスメイトからの視線が集まるが、それどころではない。最初は抵抗していた名前も、廊下を歩いている内に無駄だと悟ったのか、屋上に着く頃には腕を掴む力を緩めても逃げることはなかった。


「…なんで俺がこんなことしてるのか、分かるよね?」
「昨日、連絡無視したのは悪かったと思ってるよ」
「そうじゃなくて。俺に、隠してることがあるんでしょ?」
「……ないよ。何も」


予想はしていたけれど、やはり名前は俺に隠している内容を言うつもりはないらしい。何もないわけがない。俺に会って目を合わせてくれないなんて、何かあったとしか考えられないからだ。


「俺に言えないことなんだ?」
「…だから、何も、ないってば」
「俺の目を見て言って」
「なんで…」
「嘘吐いてる時の名前、目を合わせてくれないから」
「…、大丈夫だから、」
「何が?」
「色々。予鈴鳴るから帰ろ、」


逃げようとする名前を引き止めて、俯いたままの顔を覗き込む。どこが、なにが、大丈夫なんだろうか。ポーカーフェイスがきいて呆れる。俺の前ではそんなの意味がないことぐらい、名前だって分かっているはずだ。今だって、綺麗な顔が歪んでいることを、名前は自覚しているのだろうか。


「お願いだから言って?俺、名前のためなら何でもするよ?」
「…徹、今、バレーで大切な時期でしょ、だから、」
「バレーと同じぐらい、名前のこと大切に思ってるよ。俺、そんなに頼りない?名前の力になれない?」
「徹は……ほんと、優しすぎるよ」


俺の必死さが伝わったのか、名前は観念したように小さく笑うと、昨日の出来事をポツリポツリと話してくれた。朝のSHRの始まりを告げるチャイムが鳴ったけれど、そんなことはどうでも良い。最後まで話をきいた俺は、フツフツと怒りが込み上げてくるのを感じていた。
俺の大切な名前に、よくも酷いことをしてくれたものだ。俺のファンだろうが知ったことではない。とりあえず3人には部活の時にでもお礼を言うことにして、まずは女子3人組をどうにかしよう。
俺の考えを察知したのか、名前は不安そうな顔で俺の制服の裾を掴んだ。こんな時に不謹慎だとは思うけれど、弱っている名前はすごく可愛い。加護欲を掻き立てられる。


「昼休憩、ケリつけに行くから」
「あの、ごめん、迷惑かけて…」
「迷惑なんて思うわけないでしょ。むしろ、俺のせいで辛い思いさせてごめんね…痛かったでしょ?」
「ん、大丈夫…」


頬をするりと撫でれば名前は少し擽ったそうにして、けれどなんとなく幸せそうに笑った。


◇ ◇ ◇



昼休憩。俺は問題の女子達がいる4組に来ていた。名前には自分のクラスで待っていてもらうように告げている。また何か危害でも加えられようものなら、相手が女の子であっても俺は何をしでかすか分かったものではないからだ。
俺が4組の教室内に入ると、すぐさま目的の3人が近付いてきてキャピキャピと取り囲まれる。暫く何も言わず、何の反応もせず彼女達を見下ろしていると、俺のただならぬ空気をやっと感じ取ったのか、女子達が少し怯えたように距離を取った。


「昨日、名前に酷いことしてくれたみたいだね?」
「えっ…」
「あの子からきいたの?」
「告げ口なんてサイテー」
「最低なのはお前らだけどね。俺が無理やりきいただけで名前は何も悪くないよ」
「…及川くん、あんな女やめときなよ」
「そうよ。何考えてるか分かんないし、ちょっと綺麗なぐらいだし、」
「今まで別れてきた女子と変わらないってば」
「ちょっと黙ってくれる?」


誤魔化すことはできないと理解したのか、今度は3人揃って名前の悪口を言い始める。それを聞いて、俺は無意識の内に自分でも驚くほど冷たい声音で言葉を紡いでいた。女子3人が明らかにびくりと身体を強張らせている。


「お前らに名前を侮辱する権利ないよね。これ以上何かする気なら、女の子だからって容赦しないけど」
「…及川くん、どうしちゃったの?」
「今までは彼女とか、全然本気じゃなかったよね?」
「あの女に何か弱みでも握られてるの?」
「お前ら、馬鹿じゃないの。本気で好きになったから怒ってるんだけど。なんならここに名前を連れてきてハグでもキスでもしてあげようか?」


俺の発言と真面目な表情から、本気で怒っていることを悟ったらしい3人は、もう知らないから!と吐き捨てて教室を出て行こうとする。けれど、ここで釘を刺しておかなければまた名前に辛い思いをさせてしまうかもしれない。俺は教室の出入り口を塞いで3人を見下すと、これもまた自分でもぞっとするぐらい低い声で言い放った。


「次、名前に何かしたら、お前らのこと許さないから」


こんな俺は初めてで、さすがにビビったらしい3人は、俺から逃げるようにしてその場を去って行った。たぶん、ここまですれば大丈夫だろう。
なんとなく淀んだ気持ちを払拭すべく、名前の待つ教室に戻ろうと廊下に出たところで、そこに名前が立っていることに気付く。いつからいたのだろうか。彼女達の反吐が出るような発言も聞いてしまったのだとしたら、また嫌な思いをさせてしまったかもしれない。なんでここにいるの?と声をかけながら名前に近付くと、自分のことだから気になって…と、少し気まずそうに返事をされた。


「あの、ありがとう」
「もしまた何かされたらすぐ言うよーに!」
「もう大丈夫だよ」
「だめ。約束して」
「…うん、分かった」
「俺、たまにはカッコ良いところもあるでしょ?」


俺は茶化すようにそう尋ねてみる。馬鹿じゃないの、と。いつもみたいに呆れながら返してくれたら良い。そう思っていたのに、目をパチパチとさせてから暫く何かを悩んでいた名前は、俺の大好きな綺麗な笑顔を見せてとんでもない爆弾を落とした。


「私、徹のことは、いつでもカッコ良いと思ってるよ」
「えっ…え!?うそ!もう1回言って!」
「言わない」
「なんで!すごい嬉しかったのに!」


たまに不意打ちでデレるんだから、たまったものではない。すっかり通常モードに戻ってしまった名前はそれから何回お願いしても同じことは言ってくれなかったけれど。髪の隙間から覗く耳がほんのり赤く染まっているのが可愛かったから、今回は良しとしよう。


淡やかな騎士だった


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