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名前ちゃんと付き合い始めてから1ヶ月以上経過していた。季節はいつの間にか春から初夏になっている。
俺は相変わらずバレーに明け暮れていたけれど、月曜日は必ず名前ちゃんと下校すると決めていた。名前ちゃんは自分のことは気にせずバレー部のみんなと帰ったら良いと言うけれど、実は一緒に帰るのを楽しみにしてくれていると思う。その証拠に、帰ろっか、と声をかけたらほんの少し笑ってくれる。ほんとに可愛いんだから!


「名前ちゃん、今日はお誘いがあるんだけど」
「今日は何?どこ行くの?」
「実はさぁ、俺に彼女ができたって話したら母さんが会いたいってうるさくて…夜ご飯うちで食べない?」
「え…でも……」
「迷惑とか思わないでね。こっちから誘ってるんだから」
「んー…お母さんに連絡してみる」


名前ちゃんはそう言うとスマホを取り出した。俺が急に何かをしようとかどこかに行こうとか提案するのはいつものことなので、名前ちゃんの対応能力はすこぶる良い。
名前ちゃんのお母さんからの連絡を待ちながら2人で帰り道を歩いていると、青城高生がチラチラと俺達を見ていることに気付いた。これもまあいつものことだ。俺、有名人だし。


「及川。お母さんが良いよって」
「ほんと?じゃあ決まりね!」
「急に良いの?ご飯の準備とか…」
「大丈夫!名前ちゃん連れて行くって言ったら母さん喜ぶよ」


俺も嬉しいしね、と言って笑うと、名前ちゃんはそれ以上何も言わなかった。
自分の親に彼女を紹介するのは、実は初めてだったりする。もっと言うなら、家族に彼女ができたことを自分から報告したのも初めてだった。だからこそ母親もどんな子と付き合っているのか気になったのだろう。
名前ちゃんなら絶対に気に入られる。俺は確信をもっていた。


◇ ◇ ◇



「ただいまー」
「…お邪魔します」
「いらっしゃい!待ってたのよ」


俺の声をきいた母さんはバタバタと玄関に現れて満面の笑みを見せた。なんとなくいつもより化粧に気合いが入っているところを見ると、俺の連絡を受けて急いで直したのだろう。
名前ちゃんは礼儀正しく挨拶をすると、母さんに案内されるままリビングへ行ってしまった。俺の部屋に誘うつもりだったのに。まあ仕方ない。俺は1人で部屋に上がると、荷物を置いてリビングへ向かった。
名前ちゃんと母さんの会話が聞こえてきて、俺は扉の前で息を潜める。


「綺麗な子ねぇ〜…徹には勿体ないわ。うちの子で大丈夫?」
「お……、徹さんは学校でも人気があって、私の方が勿体ないぐらいです」
「まあ!そんなことないわよ〜!バレーばっかりやってて他のことには目もくれないんだから。付き合ってるってきいた時は驚いたわぁ…あの子、そういうこと言ってこないんだもの」
「そうなんですか?」


名前ちゃんの徹さん呼びに1人で悶える。しかも自分には勿体ないって!そりゃあ彼氏の親の前だし社交辞令かもしれないけど、それにしたって嬉しすぎる。


「徹さん来ましたけどー?何の話してたの?」
「………きいてたんでしょ」
「バレちゃった?」
「ふふ、仲良いのね〜。夜ご飯もうすぐできるから待っててね」


母さんは上機嫌でキッチンへ消えていった。
2人だけになり、俺は名前ちゃんに徹さん呼び(徹でも徹くんでも可)をお願いしてみる。勿論と言うべきか全力で嫌がられた挙句、馬鹿じゃないの、と言われてしまった。
ヘコむ俺をよそに、名前ちゃんは夕方のニュース番組を見ている。たぶん、興味はない。けれども、俺と話すよりはマシだとでも思っているのだろうか。それから名前ちゃんはほとんど俺の話をきいてくれなかった。悲しい。


それから暫くして夜ご飯が出来上がった。名前ちゃんはお客さんなのに食器を並べたり料理を運んだりしていて、本当にデキる子だ。母さんも嬉しそう。
隣に名前ちゃんが座って一緒にご飯を食べているのがすごく新鮮で、俺はニヤニヤが止まらない。何これ、幸せすぎる。


「とっても美味しいです」
「本当?良かったわ〜!たくさん食べてね」


名前ちゃんと母さんはなんとなく仲良くなっている。楽しく会話をしながら夜ご飯を食べていると途中で父さんも帰ってきて食卓に加わった。名前ちゃんはまたもやご丁寧に挨拶をしている。


「そうか、徹の……こんなこと初めてじゃないか」
「そうね。初めてよ」
「そうなんですか?」
「だって名前ちゃんは特別だもん」


俺の言葉に名前ちゃんは押し黙って俯きながらご飯を食べていた。あ、これは照れてるな。可愛い。
父さんと母さんは突然静かになった名前ちゃんを見て不思議そうだったけど、俺は1人で上機嫌だった。名前ちゃんの心情を読み取るのは俺の特権だもんね。


楽しい食事を終え、しなくて良いと言ったにもかかわらず後片付けを手伝っている名前ちゃんをリビングで待つ。父さんに、遅いから送って行ってやりなさい、と言われたけど、最初からそのつもりだ。
後片付けが終わったらしくリビングに来た名前ちゃんに、送るよ、と声をかける。断られそうになったけど、そこは父さんの説得もあり了承してくれた。


「またいつでも遊びに来てね」
「ご馳走様でした。失礼します」
「じゃあ送ってくるねー」


名残惜しそうな母さんに別れを告げて家を出る。名前ちゃんの家まではうちから10分ほどだろうか。それほど遠くはないが、近いとも言えない距離をのんびり歩く。


「今日はありがとね。母さんうるさくてごめん」
「良いよ。楽しかったし。さすが及川の家系だね。お父さんお母さんどっちも整った顔してる」
「え?それは俺がイケメンって褒められてるってことで良い?」
「なんで及川はそんなに腹立つこと言えるの?」


うちにいた時はもっと優しい口調だったのに、通常モードの名前ちゃんはやっぱり辛辣だ。もう慣れたけどさ。


「今度は泊まりにおいでよ。あ、その前に名前ちゃんちにも遊びに行ってみたいなー!」
「母さんに言ってみる。ご馳走になってばっかりじゃ悪いし」
「え?良いの?」
「驚くところ?」
「だってさ、親に彼氏紹介するってそれなりにハードル高くない?」
「今まで紹介なんかしたことないよ。でも、及川なら良いかなって思ってる」


俺は立ち止まってしまった。だって今の発言、俺のことちゃんと彼氏として認めてくれてるってことだよね?真剣に付き合ってるって意味だよね?そんなの嬉しすぎるんだけど!
いきなり立ち止まった俺を不思議に思ったらしい名前ちゃんが近付いて来て、俺の顔を覗き込む。俺は後で怒られることを承知の上で、その唇にキスを落とした。
暗くてはっきりとは分からないけれど、名前ちゃんの顔は赤くなっていると思う。きちんと確認できないのが残念だ。


「急に何やってんの!ここ道端!誰か来たらどうすんの!」
「だって名前ちゃんが嬉しいこと言ってくれるから我慢できなかったんだもん」
「意味分かんない!もう1人で帰るから付いて来ないで!」
「駄目だよ。可愛い彼女を送り届けるのが彼氏の務めですから」
「及川の馬鹿!」


照れた名前ちゃんは、馬鹿、しか言わない。照れ隠しだって分かってるよ。可愛いなあ、もう。そういうところが堪らなく好きだって分かってないんだろうな。
なんだかんだ言っても俺が繋いだ手を振りほどかずに隣を歩く名前ちゃん。たぶん、いや、絶対に俺のこと好きだよね?


アンドロメダの秘密


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