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※岩泉視点


最近になって幼馴染に彼女ができた。女に不自由していないアイツにとって、それ自体は珍しくもなんともない。ただいつもと明らかに違うのは、その幼馴染が彼女にベタ惚れしていることだった。
付き合い始めたという月曜日の夜、俺の家まで来てわざわざ報告したかと思えば、そのままうぜぇぐらい惚気始めるほどだ。意外かもしれないが、彼女ができたからといって家まで突撃訪問してこられたことは今まで1度もない。
そんな状態だから当たり前といえば当たり前かもしれないが、部室でもアイツは惚気まくりで花巻と松川が心底ウザがっている。俺も同感だ。名字についての話は、もう聞き飽きた。


「ね、名前ちゃん可愛いでしょ!」
「はいはい、それきいたから」
「ていうかさー、及川からの話は死ぬほどきいたけど名字さんからの話はきいたことねーから、信憑性に欠けるよな」
「あー、確かに。ラブラブとか正直信じらんねーかも」
「名字は今までの女みたいに部活見に来ねーしな」


俺の発言に、花巻と松川が頷く。
そう、俺達は及川からの惚気や名字についての自慢話は耳が腐りそうなほどきいたが、名字から及川についての話はきいたことがない。クラスが違うため詳しくは知らないが、校内で一緒にいる姿を見かけた時も、及川が名字に付き纏っているようだった。本当に付き合っているのか、はたから見ると疑わしい光景だったのでよく覚えている。


「ちょっと!3人とも酷くない!?俺達ラブラブなんだから!そんなに信じられないなら今から電話してあげる。俺達のラブラブな会話をきくがいい!」
「そこまでする必要ねぇだろ」
「いいじゃん岩泉。面白そーだし」
「名字さんの惚気とか新鮮ー。楽しみー」


どうやら俺以外の奴らは乗り気のようなので、俺は仕方なくその場に腰をおろした。後輩達は帰らせたので、部室内には俺達4人しかいない。
及川は名字に電話をかける。スピーカーになっているので、もし名字が出ればその声は俺達にも筒抜けになるだろう。
暫く呼び出し音が鳴り響き、出ないのだろうか、と思った時。もしもし?と、名字の声がきこえた。


「あ、名前ちゃん!急にごめんねー。忙しかった?」
「別に…大丈夫だけど。何?電話ってことは急用?」
「違うよ。名前ちゃんの声が聞きたくなっちゃっただけ」
「…あ、そう」
「何してたのー?」
「ご飯食べ終わって、お風呂入ろうと思ってたところ。及川は部活終わり?」
「そう!今部室!頑張ったよ!褒めて!」
「早く帰って休んだら?」
「ねぇ…俺の話、きいてる?」
「きいてるよ。頑張ったんでしょ。疲れてるだろうから早く帰りなって言ったの」
「………ありがとう」


期待を裏切らない名字の反応。俺達は笑いを堪える。これのどこがラブラブなんだ。


「そういえばさ、今度の日曜日、体育館が改修工事するから部活休みなんだー!デート行こうよ」
「デート?いいよ、別に。部活休みなんだからゆっくりすれば?」
「俺が名前ちゃんとデートに行きたいの!ダメ?」
「……どこに行くの?」
「名前ちゃんの行きたいところでいいよ!」
「何それ…私、どこでもいいし」


名字は、デートという単語にもあまり興味を示していない様子だった。花巻が小声で、及川ほんとに付き合ってんの?これラブラブ?と揶揄してきたので、首を傾げておく。
名字はなんだかんだ言って及川のことを気遣っているようだし、部活優先であることを理解していそうな対応をしている。それだけでいい彼女だとは思うのだが、及川のいうようにラブラブかときかれれば、それは少し疑問だ。
この調子では花巻や松川が期待していた会話などきけそうもない。そう思った時だった。


「及川と一緒なら、どこでも良いよ」
「へ、」
「日曜日、会えるんでしょ?」
「え?あ、うん!」
「会えるだけで嬉しいよ。ありがと。……じゃあね。早く帰りなよ」
「うん!バイバイ!名前ちゃん大好き!」
「はいはい。じゃあ切るよ」


そうして、電話は呆気なく切れた。しーんと静まり返った部室内。及川は得意げな顔をして俺達を見据えている。
名字の口から、あんなセリフが飛び出すとは思っていなかった。俺以外の2人も俺と同じ気持ちなのだろう。なんとも言えない顔をしている。


「ほらねー!名前ちゃんも俺のこと好きって分かったでしょー!」
「いやー…あの名字さんがねぇ…まさにツンデレってやつ?」
「普段が普段だけに、たまにああいうこと言われると破壊力ハンパねーな」
「おら、帰んぞ。もう気ぃ済んだろ」


及川はまだ何か話したそうにしていたが、これ以上アイツの惚気話を聞かされるのはうんざりだ。さっきの電話でお腹いっぱいである。バカップルめ…勝手にラブラブしてやがれ。


翌日、花巻がうっかり名字に昨日の電話の内容を話してしまったことで、及川との会話が筒抜けだったことを知った名字が激怒していた。それから暫く、及川は電話に出てもらえなかったらしい。ザマーミロ。


蜂蜜より甘い


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