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体育館裏に移動して、女の子と向き合う。なかなか切り出すことができずモジモジしている女の子に少しイライラしながらも無言で待っていると、漸く、その子は口を開いた。


「及川先輩のことが好きです」
「ありがとう。でも…ごめんね。気持ちには答えられないんだ」


告白を断る時の常套句。経験上、きちんと断らないとあとで面倒なことになるのは分かりきっている。
大抵の女の子はこれで納得するなり泣き出すなりするのだけれど、今回の子は違った。急に抱き着いてきたのだ。
たまにあるんだよねーこのパターン。最後の思い出とか、想いを断ち切るためとか、よく分からない理由だけれど、好きなようにしてくれたら良い。これで諦めてくれるなら安いもんだ。
そう思って呆然と立ち尽くしていると、ザリ、と音がした。誰かいる?音がした方に視線を向けると、そこには、教室で待っているはずの名前ちゃんがいて思わず目を見開く。
なんでこんなところに、と思うより先に、なんでそんな泣きそうな顔してるの、と思ってしまった。この状況を見て、そんな顔してるの?それって、さ。俺は期待しても良いのかな。
名前ちゃんは俺と目が合ったと認識した直後、走って逃げてしまった。俺はいまだに抱き着いたままの女の子を引き剥がし、ごめん、と一言残すと、一目散に名前ちゃんを追いかけた。


◇ ◇ ◇



運動部をなめてもらっては困る。どれだけ全速力で走ろうとも、名前ちゃんが俺に敵うはずはない。俺は必死に逃げる名前ちゃんの手首を掴んで引き止めた。
そこで、初めて気付く。名前ちゃんが、泣いていることに。


「名前ちゃん?」
「……、見ない、で………」
「ん。見ないから、逃げないで。俺について来てくれる?」


名前ちゃんは俯いたまま、小さく頷いた。走ったせいか呼吸が乱れていて、その口調は普段とは比べものにならないほど弱々しい。
俺は名前ちゃんの手首を掴んだまま、人気のない廊下を歩いた。沈黙の中で歩き続け、辿り着いたのは屋上だ。ここなら、誰にも邪魔されない。
俺は掴んでいた名前ちゃんの手首を解放して向き直る。


「少しは落ち着いた?」
「…うん、ごめん…」
「それは何に対して?」
「……。告白、見てたこと。最低なことしたのは分かってる」
「俺、別に見られたからって怒んないよ」


名前ちゃんの涙は止まっていて、けれどその綺麗な目は赤く腫れていた。淡々と話す姿はいつもと変わりないように見えて、動揺を隠そうとしていることが窺える。


「なんで、あそこに来たの?」
「……気になって、」
「俺が告白されるのなんて初めてじゃないでしょ。なんで、今日に限って気になったの?」
「それ、は……、」


言い淀む名前ちゃんは新鮮だ。いつもの強気でクールな雰囲気はどこへやら。今目の前にいる名前ちゃんは、どこからどう見ても可愛らしい女の子だ。


「ねぇ名前ちゃん。なんで、泣いてたの?」
「…、分かんない、」
「うそ。ほんとは分かってるんでしょ」
「なんで、そんなこときくの、」


俺はその質問には答えず、ゆっくりと名前ちゃんに近付く。
俯いた名前ちゃんの顔を下から覗き込むように見上げて視線を合わせれば、明らかに目が泳いでいる。こんなに分かりやすい反応をする名前ちゃんは初めてで、そうさせているのは俺なのだと思うと嬉しくなった。
もっと意地悪して困らせてみたいとも思うけれど、それよりも今は、違う表情が見たい。俺はできるだけ優しく、真面目に、言葉を紡いだ。


「俺、名前ちゃんのことが好きだよ」
「それ、は…、どういう好き?」
「誰にも渡したくない。俺だけのものにしたい。そういう意味の、好き」
「っ…、何、それ…、」


馬鹿じゃないの、とは言われなかった。
変わりに、


「私も、及川が好きだよ」


照れながらそんなことを言うから、可愛くてたまらなくて、俺は名前ちゃんを抱き締めた。名前ちゃんはピクリと身体を跳ねさせただけで、嫌がる素振りはない。
ぎゅう。
その感触を確かめるように、俺はすっぽりと名前ちゃんを包み込んだ。


重なる体温に沈む


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