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放課後の女子会から数日。今日は月曜日。及川と一緒に帰る約束をした日だ。土日は休みだから及川に会わずに済んだけれど、学校に来てしまえばそうはいかない。朝からいつも通りに話しかけてくる及川をできるだけ自然にあしらいつつ、1日を過ごした。
不自然ではなかっただろうか。最近気付いたことだけれど、及川は人の変化や感情を読み取ることに長けている。現に、表情や感情の変化が分かりにくいと言われる私だけれど、及川は微妙な変化でさえも見逃さなかった。そんな及川を相手にしているからこそ、自分の言動がおかしくはないか気になって仕方がない。
長いようであっという間だった1日を無事に終え、とうとう放課後。特に何の指摘もされないところを見ると、そこまで不自然な言動はしていなかったらしい。


「名前ちゃん、帰ろっか」
「ああ…うん」


自然な流れで教室を出て、さてこれから2人で何の話をしようかと考えていると、1人の女子生徒が現れた。嫌な予感はしたが、どうやら及川に話があるらしい。この男、ここ最近だけで何回告白されたら気がすむんだ。モテることは十分分かっていたつもりだけれど、まさかここまでとは思いもしなかった。
とはいえ、私に及川を止める権利はない。私のことを気にしてか渋っている及川の背中を押し、女子生徒の話に応じるよう促す。本意ではないが、気持ちを伝えようと頑張っている女の子を無下にするのはあんまりだ。
何度も待っててと言われたことに嬉しさを感じつつも、何食わぬ顔で教室に戻った私を確認して、及川は女の子とともにどこかへ行ってしまった。きっと告白スポットになっている体育館裏だろう。
私は自分の席に突っ伏した。誰もいない教室には、校庭で部活をしている生徒の声がきこえてくる。
今頃、及川は告白されてるのか…あの子、可愛かったなあ。及川のタイプだったりして。もし、付き合うことになったとか報告されたら…私、どうしたらいいんだろう。
考えれば考えるほど不安になってきた。こんなの自分らしくないとは思うのだけれど、及川に恋をしてしまった時点で、もはや私らしさなどどこにもない。
私は罪悪感を感じつつも、及川が告白されているであろう体育館裏へと足を運んでしまったのだった。


◇ ◇ ◇



体育館裏には、やはり及川と先ほどの女の子がいて、まさに告白の真っ最中だった。
気付かれないように物陰に隠れ、そっと成り行きを見守る。冷静に考えればすごく最低なことをしているのは重々承知だ。


「及川先輩のことが好きです」
「ありがとう。でも…ごめんね。気持ちには答えられないんだ」


優しく、けれどキッパリ断る及川に感心する。さすが告白され慣れているだけあって、断り方も心得ているようだ。できるだけ相手を傷付けないように、それでいて自分の気持ちを伝えるのはさぞかし大変だろう。
私も、もし告白なんてしたらあんな風に断られるのだろうか。そんなことを考えていると、目の前で信じられないことが起こった。フラれたはずの女の子が、急に及川に抱き着いたのだ。
えっ、何やってんの。フラれたんでしょ?どういうこと?及川も、そこは引き剥がすところじゃないの?
及川は呆然と立ち尽くしている。焦っている様子もない。
なぜか抱き着かれたままの及川に、モヤモヤとした感情が芽生える。なんで嫌がらないの?フったんでしょ?及川はそんな風に誰でも受け入れる奴なの?
こんな時、好きという感情は邪魔だ。その感情のせいで、私はこんなにも醜い女になってしまう。これは、嫉妬だ。及川は私のものじゃないのに。勝手に、何を考えているんだろう。
動揺した私はこれ以上2人の姿を見ていることができず、隠れていることも忘れて後退りする。ザリ。私の足音が響く。
やばいと思った時にはもう遅く、及川がこちらを向いた。及川の目が大きく見開かれ、私の顔を認識したことが見て取れた。ここにいることがバレてしまった。何してんのって思われているにきまってる。
その瞬間、私は脱兎の如く駆け出した。
どうしよう、きっと及川に嫌われた。告白現場を覗くなんて悪趣味にもほどがある。でも、どうしようもなく気になってしまったのだ。及川がどんな告白をされてどんな反応をするのか。どんな表情をするのか。及川のことが、好きだから。
こんな感情知らなかった。
人のことを好きになるって、こんなに苦しいんだ。
気付けば私はポロポロ泣き出していて、自分でも驚く。泣いたのなんて何年ぶりだろう。しかも、学校で、なんて。
誰にも見られたくなくて、やや俯きながら人気のないところを選んで走る。どこをどう走ったのか自分でも分からない。拭っても拭っても溢れてくる涙を止めることができないまま、私はただ、走り続けることしかできなかった。


涙腺の目覚め


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