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研磨と同じクラスの女子に初めて出会った日から1週間が経過した。俺はそれまでと何ら変わらない生活を続けている。ひとつ変わったことと言えば、ほんの少しだけあの女子の笑顔を思い出すことがあったことぐらいだろうか。俺の周りにいる女の中にはいないタイプだから、少し印象深かっただけかもしれない。
今日も俺は、昼休憩に研磨を探して2年3組の教室を訪れていた。朝、ミーティングをすると言っておいたはずなのに研磨がなかなか部室に来ないため、迎えに来たのだ。教室の後ろの扉から顔を覗かせ、目立つであろうプリン頭を探すがどこにも見当たらない。さては逃げたのか。
諦めて他の場所を探そうと思い振り返ったところで、俺は誰かとぶつかった。胸元に軽い衝撃があって、相手が頭をぶつけたことを悟る。悪い、と紡ごうとした言葉が口から出てくることはなく、俺はぶつかった相手の顔を見て、一瞬固まった。それが、1週間前に研磨と話していた女子だったからだ。
相手の方も、俺が研磨の知り合いだということを思い出したのだろう。少しばかり驚いた様子が見受けられる。


「大丈夫?」
「え?あ、はい。ぶつかってごめんなさい」
「いや、こっちこそごめんね」
「…孤爪君ですか?」
「そう。いなかったけど」


初めて会話をした印象は、普通の子だな、って感じ。見た目綺麗寄りだから、なんとなくクールというか、サバサバしているのではないかと想像していたが、口調から察するに性格は可愛い寄りっぽい。ギャップと言えばギャップか。


「山本と知り合いなんだって?」
「え?どうしてそれを…」
「俺、バレー部。これでも山本と研磨の先輩で主将なんだけど…聞いたことない?」
「…クロ、さん?…ですか?」


どうやら山本伝いに、俺の名前だけは知っていたらしい。俺は、正解、と言いながらにこりと笑いかける。すると目の前のその子は、なぜかびくっと身体を震わせて俺から視線を外した。初めて会った時もそうだったが、俺の笑顔はそんなに怖いだろうか。


「俺のこと、怖いの?」
「いえ…そういうわけでは…」
「山本からなんか聞いてるとか?」


その子は俺の問いかけに、うーん…と考え込む。なにかしら聞いているのは確かだが、どうやらあまり良い情報ではなさそうだ。あいつ、何吹き込みやがったんだ?


「クロさんは、バレーが上手くて、」
「おー。そりゃ嬉しい」
「彼女がいっぱいいてモテモテだって、言ってました。羨ましいって」
「……あ、そ」


モテモテは良いとして、彼女がいっぱいいるって情報はいらねーだろ。俺はここにはいない山本へ僅かながら怒りを募らす。
たぶん、この子の中の俺への評価は、結構低いだろう。彼女がいっぱいいる=女好きもしくは女遊びが激しい、に変換されているはずだから、一般的な女から見ると俺みたいな男は最低に分類されるのだ。まあ、別に良いけど。


「別に取って食やしねーから」
「分かってます。私、たぶん美味しくないですし」
「ふっ…それ、本気で言ってる?」


真面目な顔をしておかしなことを言うものだから、俺はつい噴き出してしまった。美味しくないって。本気で食うつもりねーよ。俺がなぜ笑っているのか本当に分かっていないのか、当の本人はキョトンとしている。あれか、この子は天然系なのか。
作りものの天然やぶりっ子は俺の周りにわんさかいる。しかし、本当に素で天然な女には巡り合ったことがないかもしれない。俺は俄然、この子に興味が湧いてきた。


「名前、なんてーの?」
「私ですか?」
「他に誰もいねーと思うけど」
「……名字名前です…」
「名前チャンね、覚えとくわ」


名前ちゃんは、え!名前!なんてワタワタしているが、名前で呼ぶぐらい普通だろ。天然でウブとか、今時希少価値すぎるにもほどがある。


「クロ…何やってんの」
「あ。研磨。お前呼びに来たんだっつーの」
「なんで名字さんと一緒…?」
「たまたまだよ、たまたま。な?」
「え?あ、はい、」


名前ちゃんが同意したのを見て、突然現れた研磨は渋々納得したようだ。研磨が現れたことによって名前ちゃんは教室の中に入ってしまって、会話は唐突に終わりを告げた。面白そうだしもう少し話してみても良かったのにな、とは思ったが、わざわざまた声をかけるほどでもないし、今日は潔く諦めることにする。
俺の心情を鋭く読み取ったのか、研磨はひどく怪訝そうな表情を浮かべていた。研磨のこういうところは、もの凄く厄介だ。


「クラスメイトはやめてって言ったよね?」
「大丈夫だって。まだ何もしてねーから」
「まだ?」
「何もしねーって」
「……なんで名字さんが気になるの?」


研磨からの素朴な質問に、俺は口籠る。これは気になっているというのだろうか。今までにないタイプの女だから興味があったというのは事実かもしれないが、それを気になると言ってしまっても良いものか。
俺はほんの数秒悩む素振りを見せて。


「分かんね」


たったそれだけ答えた。研磨は元々質問の答え自体にさほど興味がなかったのか、何それ、と言ったきり口を閉じてしまう。
何それ、と言われても、本当のことなのだから仕方がない。気になっているわけではなくて、たまたまぶつかられたから話してみただけだ。他に理由なんてない…と思う。
教室内の名前ちゃんをちらりと見遣る。俺と会話している時とは違って柔らかい表情を浮かべている姿に、なんとなくイラっとした。…いやいや、イラってなんだ。意味分かんねーわ。
俺は名前ちゃんから視線を外すと、部室の方へ足を向けた。ミーティングのためだ。他意はない。俺は研磨を引き摺るようにしてその場を後にする。


「クロ?どうかしたの?」
「なんでもねーよ。ミーティング、急いでんの」
「……ふーん」


無駄に察しのいい幼馴染みにツっこまれたくなくて、俺は自然と早足になる。幸いにも、研磨はその後、特に俺に対して話しかけてくることはなかった。それにホッとしたのはなぜだろう。自分でも分からない。
これは余談だが、部室で弁当を頬張る山本を見た瞬間、俺はなぜか無性に腹が立って頭を叩いてしまった。何スか!?と頭を押さえる山本に、余計なこと言った罰だ、と吐き捨てると首を傾げられたが、とりあえずこれで気が済んだということにしておいてやろう。


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