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毒吐く独白

この広い世界には男と女しかいない。見た目は男で心は女とか、その逆のパターンの人間も中にはいるが、基本的に男は男だし女は女だと思う。つまり俺が何を言いたいかというと、男と女が求め合うのは必然ってことだ。これもまた、男同士とか女同士で惹かれ合うパターンがあることは知っているが、飽くまでも俺の中の基本理念でいくと、男である以上女を求めるのが筋なのだ。
というわけで、俺は自分の基本理念に基づいて、つい先ほど女を抱いてきたばかりである。古い校舎の使われていない空き教室は、俺だけでなく恋人達にとって恰好のセックススポットだ。実のところ俺のヤル気はそれほどなかったのだが、相手の女が誘ってきたら相手してやるしかないわけで。おかげで俺の貴重な昼休みは半分ほど削られてしまった。
相手の女とは付き合っているわけじゃない。学年は一緒だがクラスが違う、少し性格キツめで自分に自信がありそうな、まあまあ可愛いやつ。名前は…なんだったっけ。ヤってる最中に名前呼んでってうるさかったから呼んだ気はするけど、もう忘れてしまった。その程度の女だ。
そういう不特定多数の女が、俺には他にも何人かいる。自慢じゃないが守備範囲は広い方なので、上は社会人から下は中学3年生まで取り揃えていて、気が向いた時に気が向いた相手と関係を持つというのが俺の日常だ。
普通、そんなに何股もしていたら修羅場になりそうなものだが、そんな面倒なことになるのは御免なので、俺はハナから遊びで良いなら相手すると言ってある。だから今キープしている女達は、俺に他の相手がいることを承知の上で関係を持っているのだ。
結局のところ、女だって気持ち良けりゃ誰だって良いんだと思う。好きだとか愛してるとか、そんな感情は久しく抱いていなかった。遥か昔、もっと俺が純粋で汚れを知らなかった頃は、もしかしたらそんな感情を抱いていたことがあったのかもしれないが、今となってはもう思い出せない。俺はいつから、こんな人間になってしまったのだろう。
そんなくだらないことを考えている内に、俺は目的の教室に辿り着いた。2年3組。ここは俺の幼馴染み兼、音駒高校男子バレー部の大切な背骨で脳で心臓である研磨のいるクラスだ。部活前に渡しておきたいプリントがあってわざわざ主将自ら出向いてやったというのに、研磨の姿は見当たらない。と、思いきや、教室の端の席で女子と話をしているところを発見した。あの研磨が女子と話をしている。これはかなりレアなことだ。どんな子かと思い近付くと、なかなかに綺麗な顔立ちの女子で益々興味が湧く。


「お取り込み中どうも失礼します」
「…どうしたの?」
「今日の部活までに読んどけって監督から」
「うわ…めんどくさ……」
「そんなことより、研磨が女子と話してんの珍しいな?」
「あー…今日、日直だから」


研磨は興味なさそうにそんなことを言いながら、渡したばかりのプリントに目を通している。なんだ。ただの日直か。色恋沙汰だったらアドバイスしてやろうと思ったのに。
突然現れた俺に少し驚いている女子へにこやかな笑みを向けながら、俺は、邪魔してごめんな?と話しかけてみる。するとその女子は、いえ…とだけ呟くように言ってどこかへ行ってしまった。


「俺、なんかした?」
「クロのその笑顔が胡散臭かったんじゃない?」
「つーか、あの子、名前は?」
「………ダメだよ」
「あ、バレた?」
「最近遊びすぎ」
「いーじゃん。若気の至りってやつ?」
「クラスメイトはやめて…色々めんどくさそうだから…」


長年の付き合いのせいか、研磨は俺の考えに気付いたようで怪訝そうな顔をしている。ちょっとぐらい遊んでもいーじゃん、と言おうとしたけれど、研磨を怒らせると部活にも支障を来しかねないので、俺はそれ以上ツっこまなかった。
あの程度の子なら他にいくらでもいるだろうし、あの子にこだわる必要もない。だからもういいや。そう思ったところで、研磨が興味深いことを言った。


「それにあの子、確か虎の知り合い」
「……へー。アイツも隅に置けねーなぁ」
「そういうのじゃないと思うけど」


女と話すだけでド緊張の山本に、まさか女の知り合いがいるとは思わなかった。こうなると薄れていた興味が一気に蘇ってきて、どんな子だろうかと知りたくなる。人のものほど欲しくなるというが、それに似た感覚なのだろうか。俺は先ほどまでここにいた女子に、それとなく視線を向けてみる。
友達と談笑している姿は、まあ普通だ。ぱっと見、そこそこ綺麗めではあるが特別目を引くってわけでもないし、スタイル抜群って感じでもない。が、何を話していたのか、急にその子がぱあっと笑った瞬間、俺はなぜかぞくりと全身が震えるような感覚に見舞われた。
どちらかというと綺麗な顔立ちだったそれが一気に幼くなって、可愛らしいものへと変貌を遂げる。それに、うっかり魅力されたとでもいうのだろうか。…いや、ないない。俺は心の中で首を振る。
先ほども述べたように、俺は好きだとか、そういう感情をどこかに置き去りにしてきてしまった。俺の座右の銘は、来るもの拒まず去るもの追わず。だから、自分から誰かを追いかけることはまずあり得ないのだ。そこまで女に執着なんかしない。


「クロ?昼休憩、そろそろ終わるよ」
「あー、そうだな」


気付けばもうそんな時間になっていた。俺は研磨に別れを告げると、自分の教室を目指して歩き出す。教室に着くまでの間で俺の脳裏に過ったのは、下品に喘ぐ女のことではなく、花が咲いたみたいに笑うあの女子のことで。俺は言いようのない不思議な感覚に首を傾げながら教室に入ったのだった。


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