七夕のはなし 2016


七夕のはなし

 ウッドデッキの手すりに立てかけられた不思議な植物を見て、ヨハネスは首をかしげる。その細い枝には細長い紙が括り付けられているのもまた見慣れない光景だったのだろう。

「ユイット、なんじゃこりゃ」
「今日は、東国では『七夕』というお祭りらしいですよ」
「タナバタ?」

 七夕は、レトリア皇国にはない、東国伝統のお祭りだという。先日東国について調べていたアンリが偶然、それについての記事を見つけたらしい。星に願いを込めるなんて、なかなかロマンチストな国だ、と目を輝かせながらやってみようと提案してきた彼も、なかなかロマンチストだと思う。

「これに願い事を書くのか?子供のころは願いなんてたくさんあったけどよ、今はなんも思いつかねえぞ……」

 ヨハネスはペンを回しながらうんうん唸っている。言い出しっぺのアンリもなかなか思いつかないらしく、口元に手を当てて机の角をじっと見つめていた。一方ユイットは少し考えた後、紙を縦にして
さらさらと何かを書き始めた。

「おいユイ、俺たちが読めないのをいいことに東国語で書くなんてずるい」
「うっわおめえ何書いたんだよ!」
「ふっふっふ、秘密です」

 ヨハネスは文句を言いながらくしゃくしゃっと紙に文字を書く。これでどうだ!といいながら突きつけた紙には「ヒーローになりたい」と書かれていた。

「思いつかねえから、幼稚園の時の将来の夢でも書いてやったぜ!」
「すごくお前らしい」

 アンリとユイットはくすくすと笑った。そういうお前は、とヨハネスがアンリの紙をひったくる。

「平和な世の中になってほしい……?そんなことになったらお前仕事減るぞ」
「だからだよ。俺にもっと睡眠時間をよこせ」
「とてもアンリらしいです」
「で、結局お前は?」
「秘密」

 何度尋ねても変わらない返答にヨハネスは頭を抱える。
 そうしてその夜は、昔みたいに三人で馬鹿な話をしながら盛り上がった。昔と違うのはお酒がお供というところだろうか。
 ちなみにユイットが書いた願いは「いつまでもみんなで仲良く笑っていられますように」。昨年雅も同じような事を書いていたというのを誰も知ることはないだろう。

 

20160707 七夕のはなし

 

[ 2/3 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



Copyright (C) 2015 あじさい色の創作ばこ All Rights Reserved.
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -