七夕のはなし 2015


七夕のはなし

 東国には七夕という文化がある。小さい頃、特にまだ小学生だった頃には、新しい家族とよく小さなお祝い事なんかもしたものだった。それが雅が中学生になってからはあまりしなくなってしまった。今になってまたその事を思い出し、海を隔てた異国の地で再び七夕の真似事なんかをしてみようと思い至ったのだ。

「兄貴、七夕なんて久しぶりですね!」

 勿論それは当時彼の住んでいた和心市に限ったことではなく、焔の住んでいた比良市はもちろん、東国全域に夏の風物詩として広まっているお祭りである。

「七夕……7年ぶりになるのか……」
「タナバタ?」

 皇国にそういった祭り事はないため、もともとこの国に住むトロイやユウナたちは雅が持ってきた笹(らしきもの)を不思議そうに眺めていた。
「東国に昔から伝わる行事ですよ。この短冊に願い事を書いて括りつけておくと願いが叶うといわれています」

「願い事ねぇ、面白そう!」
「雅は何を書いたの?」

 トロイは雅の持っている短冊を覗き込む。そこには、こう書かれていた。

──この先十年二十年と、皆が笑顔で過ごせますように。

「ええ、そんなこと書くの!?俺味を感じて食事がしたいって書いちゃったよ!?」

 ノイズは、まあ皆ご存知の通り魂を具現化した、所謂幽霊のため、食事をしても味を感じることができないのだ。食べなくても大丈夫な体だというのにそれでも食べるのは皆と団欒の時間を共有したかったからなのかもしれない。

「十分いい願い事だと思うよ!」
「お、そうか?へへっ、ありがと!」

 なんだかんだ言って仲良く笑うその姿を見て、こんな日常が長く続けばいいのにな、と雅は改めて思うのだった。


Illustration:七夕のはなし
 

20150707 七夕のはなし

 

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