ハロウィンのはなし 2016


ハロウィンのはなし


 白い布。ハリのある肌に深紅の液体でペイントをして。中身をくり抜かれたかぼちゃに、揺れるろうそくの灯火。きっと市街地では子供たちがかごを持って、ランタンのかけられた家々を回ってはしゃいでいる頃だろう。今晩は特に冷えるから、長いマフラーを首に巻いて、足元をゆるく温める小さなウィンターブーツで煉瓦敷きのストリートをぱたぱたとかけていく。静かな星空は賑やかな子どもたちの高い声を吸い込んで、よりいっそう輝きを増して見えた。可愛いかぼちゃのジャック・オ・ランタンを見つけると、子供たちは扉をたたいて、白い息をはずませて言うのだ。

「Trick or Treat!」

 ハロウィンというのは、一体いつから季節のイベントとして世界中に根付いたのだろう。もしかしたらバレンタイン同様、製菓会社の陰謀か。もともとは農村の収穫祭だったと古い文献で読んだ気がするが、何せ小さい頃だったので記憶は定かではない。今回ハロウィンパーティーをやろうと言い出したのは最年少のユウナと最年長の村長だった。また、雅はそういったものを面倒臭がるかとも思ったが、意外にも一番乗り気だったのは彼だった。どうやらお菓子に釣られたらしい。
 大人組は準備に回り、夕食をたくさん作ったり、おそらく雅が食べつくすであろう大量のお菓子も街で仕入れてきた。街に買い出しに行った組によれば、ちょうど有給を取っていたらしい副長に意味深な笑みで会釈されたという。完全に面が割れているのが怖かったが彼はそのままそばにいた女の人と何処かに行ってしまったので胸をなでおろしていたらしい。夕方になると学生組が帰ってくる。雅も今日は教授の手伝いをせずにそのまま帰ってきてくれると言った。甘味の力は強大だ。

 準備が終わる頃には日も暮れて、辺りはすっかり暗くなっていた。市街地から少し離れたルミナの村は街よりもきれいに星が見える。街の子どもたちと同じ星の下、イノセンスのこどもたちは仮装をして村のバーへとかけてゆく。雅に至っては白い布をかぶっただけという簡易的なものだがそこは特に言及しないでおく。コンコンコン、とノックをして「Trick or Treat!」と声がする。

「ようこそワンダーランドへ!」

 開いた扉の中には橙色で統一された装飾と、カウンターには「ファントム・ジ・オペラ」のごとく黒い衣装に白い仮面を身に付けた村長。周りの大人たちも黒や橙、紫の服を着て、いかにもハロウィンといった具合だ。
 村長の前にはたくさんカードが置かれていて、その一つ一つにクイズが書かれている。
「君たちにはこれらの謎を解いてもらう。答えの先には豪華な褒美を用意しているぞ!」
 ユウナたちは一つ一つカードをめくってはじっくり考えている。現役幽霊のノイズも楽しそうにカードをめくっては解けない問題に頭を抱えている。内容自体は謎解きというよりなぞなぞのようなもので比較的簡単に解けるのだが、頭をひねらないと解けないものもいくつかあり、そう言った物は雅がチョコをかじりながら解いていた。あの大量の糖分は全部頭に行っているのだろうか。

「カードの答えの頭文字を並べてごらん」

 全ての謎を解き終え、お菓子も回収しきったところで村長が言う。皆はカードが並んでいた順に答えの頭文字を並べてみる。

「H、A、P、P、Y、H、A、L、L、O、W、E、E、N……!」
「HappyHalloween!今年もいい一年になりますように!」
「村長それイベントが違う!」

 イノセンスは今日も平和で賑やかだ。
 

20151030 ハロウィンのはなし

 

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