[1] ep.06[Liar] 今日はトロイがいない。その弟のノイズも、村長もいない。 今朝学校に行く前に、「仕事が終わったら話したいことがあるので連絡がほしい」という旨のメールを父に送った。彼は仕事が忙しいから、きっと連絡が来るのは夜遅くになるだろうと。 夜の11時ごろ、ユウナの携帯が鳴った。電話の相手や内容を変に疑われたり探られたりするのが面倒で、彼と連絡を取るのは日時や場所を選んでいる。向こうもそれを承知だからそこに障害はないのが幸いだ。 電話を待っていたユウナはすぐに着信を受けた。 「ハロー、やっと仕事終わったんだね」 『ああ、最近とても忙しくて。それより、話したいことって?』 数か月ぶりに聞く声。スピーカーの向こうから聞こえる声は生の会話よりも劣るが、それでもユウナは愛する父の声を聞けて幸せだった。 「うん。ロジックの人たちが考えてる革命のはなし、やっぱりイノセンスの人たちはまだ知らないみたいだったよ。知らせるべきだと思う?」 『いいや。イノセンスの人たちは政府(こちら)にとって大きな害とはみなされていないから、治安局は今の所何も動いていなさそうだけど、実は研究棟の方がイノセンスの動向を密かに見守っているようだから、イノセンスに少しでも不審な動きがあればきっとすぐ伝わってしまう。だから彼らはまだ知るべきじゃない』 「わかった。ロジックは今どこまで情報をつかんでいるの?」 『東の法制局議長は今の政府をよく思っていない。少し臆病なのが玉にきずだけど、言いくるめれば味方につけることはできると思うし、彼の判断力とリーダーシップは強い力になる。南のアンチは少々攻撃的だけど総長は話のわかる聡明な人だ。政府への反感を利用して陽動が使えるだろうし味方にしておいて損はない。西のノワールは今はまだ動くつもりはないらしい。彼らのツテには情報屋がいるから、できればそれも欲しいんだけど……中央のサヴァンが少々厄介だね。うちのものが一度接触を試みたけど彼らはすごく排他的で、どうやら有事の際でも他の組と連携する気はないらしい。』 「そう……北の治安局副長は?あの人なら強い戦力になりそうだけど」 『正直、彼の考えは僕らにもよくわからない。ただ、治安局の人たちの話を聞く限りかなりストイックな性格で上の命令を遂行するためならどんな手段でも厭わない、って感じだな……』 「それじゃあきっと、彼の協力を仰ぐのは無理そうだね」 『そうでもないかもしれない。彼はうちの上司と深いつながりがあるらしいからあるいは……』 それでもきっと副長──ユイットのことだから、自分のために親友を切り捨てる可能性だってないとは言えない。しかし逆に彼自身も皇族に対して良い感情を持っていない可能性だってゼロではない。グレーのうちはまだ動かない方が得策だろう。 「うん、わかった。実は今イノセンスの人たちがノワールに行って連携をもちかけてるみたいだから、運が良ければ西側の人たちも味方につけることができるかもしれない」 『そうか、上手くいくといいんだけど……それと、実は今皇族側の動きがおかしいから、そちらも気をつけるんだよ』 「というのは?」 『監視の目が──特に法制局に対して、前に比べて明らかに強くなっている。たぶんうちの上司に対するものだと思うけど、こうなると僕も迂闊に動けなくなった』 「うん……わかった。パパありがとう、気をつけてね。」 十数分話していただろうか。互いに情報の共有を終え、通話を切る。 ユウナは不安でいっぱいだった。もしかしたら父の素性がばれてしまったのかもしれない。もしかしたら父たちが謀反を企ててるのがばれたのかもしれない。もしかしたら── 父なら、あの人なら上手く隠しおおせるだろうと信じてはいるものの、やはり女子は夜に少々センチメンタルになるいきもので、心臓の鼓動を落ちつけるために一つ、深呼吸をした。 [mokuji] [しおりを挟む] Copyright (C) 2015 あじさい色の創作ばこ All Rights Reserved. |