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ep.05[Expand] 

 外に出たころにはあたりはすっかり暗くなっており、夜の冷たい空気を払うように身体を震わせる。今日は久しぶりによく晴れていて、済んだ夜空にはチョコレートケーキにまぶされた粉砂糖のように、大小さまざまな星がきらきらと輝いている。

「まさか一日で用事が住むとは思わなかったなあ」

 村長は白い息を吐きながらつぶやく。
『もしそれが本当やったら、この国が完全独裁体制になる日も遠くないで。その前に研究棟と治安局による大虐殺が必ず起こる。もし何かあればここに連絡してや、イノセンスには全面協力することを約束するで』
 トロイはポケットに入れたメモ──ユージンから受け取った連絡先の書かれたもの──に触れながら、彼の言ったことを反芻する。国外との関りを断って権力が暴走した国の末路を、歴史は語っている。それよりも近い未来に確実に訪れるであろう「狩り」を今彼らは何よりも恐れ心配しているのだ。近くのお店で夕食を取り宿に着いた三人は、知らない町をたくさん歩いた疲れからか、ベッドに横になるとすぐに眠りについた。

 翌朝の食事は二階のレストランにてビュッフェを。ビジネス用の安いホテルながら、メニューの品目はなかなか豊富で豪華に見える。鶏肉のピカタや白エビのオーロラサラダ、クリームパスタにジャガイモのスープ、黒糖ロールパンなど、それぞれ好きなものを好きな分だけ小皿に取って席へ戻る。
 ふいに村長がパンをちぎりながら「あー」と気の抜けた声を出した。

「昨日聞くの完全に忘れてたんだけどさあ、トロイお前なんで人口能力者のこと知ってるわけ?情報屋に何を話したんだ?」
「ひみつー」とトロイはあしらうように、空になったコップに水を注ぐ。カランと氷が小さく音を立てた。

「まさかお前────政府の回し者じゃないだろうな」
 謎の間を開け的外れなことを犯人を突き止めた探偵気取りで訪ねる村長に、トロイは思わず吹き出してしまう。

「ぷっ、はははっ、村長面白いこと言うね!そう見えます?」
「いや、ないな。俺はお前を中学生のころから知ってる」
「ほんははえはら?」

 そんな前から、とノイズが食べ物を口いっぱいにほおばりながら尋ねた。

「うん、ノイズが死んでから少ししたころ。あと食べ物は飲みこんでから喋ろうね」
「ふぁい」

 ノイズはトロイに指摘され、食べていたものをきちんと飲み込んだ後、村長に尋ねた。

「そういえば、結局黒服について詳しく聞いてなかったっすよね」
「そういえばそうだったな。黒服っつうのは、昨日行ったノワールの、諜報員だったり暗殺者だったり、普段は完全に一般人として過ごしている者たちのことだ。誰が呼び始めたのか知らねえけど、『影の者』という意味で黒服って呼ばれてる」
「へえ……へえ?」

 いまいち理解が追い付いていないノイズはあいまいな返事をしながら首をかしげる。

「まあ、関わると厄介なのは、イノセンスがノワールからよく思われてないからっていうのもあるけどな、あいつらは特に『気配』を隠すのが得意なんだ」
「気配?」
「気配、はまあ、ほかに呼び方がないから勝手にそう呼んでるだけなんだが。ミュータント同士だと、『こいつ俺と同じだな』っていうのがなんとなくわかるだろ?それのことだ」
「なるほど」

 『気配』はぼんやりと感じる人がほとんどだが、稀に色のあるオーラとして可視できる者もいるという。
「ああ、レット兄さんもそんなこと言ってたっけ」
「トロイは紫色だっていってたな。本当なのかは知らねえが……」
 人には見えないものが見える、ということに関連してノイズは以前見た治安局の青年のことが気にかかった。もしかしたらあの人も──と考えたが、ノイズの拙い頭ではそれが大変なことにつながるということには気が付かなかっただろう。

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