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恒久和平の実現


間もなくして、人革連国家主席がニュースでこう公開した。


「セイロン島におけるソレスタルビーイングの武力介入により、我々は148名の尊い兵士達の命を失いました。紛争根絶をうたいながらも、ソレスタルビーイングが行っている行為は、国家の秩序を乱すテロリズム以外の何者でもありません。わたしたち人類革新連盟は、断固とした態度で彼らのテロ行為に挑んでいく所存です」


ソレスタルビーイングの武力介入に、行動を起こしたのは人革連だけではない。
北アイルランドのテロ組織リアルIRAは、武力によるテロ行為の完全凍結を公式に発表した。これによって、400年にわたって続いていた北アイルランド紛争が事実上なくなったと、ニュースは騒ぎ出した。


「聞いたか? アレルヤ、ディーア、リアルIRAの活動休止声明」

「ええ」


ミッション終了後、ロックオンとアレルヤ、ディーアは孤島の隠れ家に身を寄せていた。今いる部屋はキュリオスが格納されているコンテナのレストルームだ。
刹那は一人、隠れ家の一つである日本の東京に身を寄せている。

三人の前には、ガラス越しにキュリオスが調整および修理を受けている様子が見える。
ロックオンはそれを眺めながら、椅子に座り本を読んでいたアレルヤと机に腰を掛けたディーアに問いかけた。


「あの声明で、俺たちを評価する国も出ているようだが……」

「それは一時的なものにすぎない。武力介入を恐れて、先手を打っただけよ」

「ああ」

「僕たちがいなくなれば、彼らはすぐに活動を再開する……わかってますよ。紛争根絶は、そんなに簡単に達成できるものじゃない」


本から顔をあげたアレルヤが、そうロックオンに向かって言った。


「だからさ、お前らも休めるときに休んどけよ。すぐに忙しくなる」


アレルヤとディーアを交代に見てそう言ったロックオンは、そのまま部屋を出ていく。
「恒久和平の実現……そのためのガンダム」アレルヤはガラスの向こうにあるキュリオスを見て呟いた。それに続いてディーアもガンダムを見つめた。


「息が詰まる…………」

「休んできたらどうだい、ディーア?」


ディーアが無意識に零した言葉に反応したアレルヤが、ディーアを気遣ってそう答えた。
ディーアはガンダムからアレルヤに視線を移す。声に出していたことに気付かなかったディーアは少し驚いた様子を見せるが、すぐにいつもの冷静な顔つきに戻った。


「次のミッションプランが来るまで時間もある。少し、眠ってきたらどうかな」

「そこまで疲れてないわ。それに、此処じゃ休まらない」


少し目を伏せたディーアに、アレルヤは心配そうにディーアをみつめた。


「地上は嫌かい……?」

「ええ、とても息苦しいの」

「……そっか…………」


最後に小さく呟いたアレルヤの声を背に、ディーアは部屋から出ていった。

ディーアのいなくなった部屋で、アレルヤはガラスの壁を見つめた。そこには自機であるキュリオスと、ガラスに映った自分の姿が映る。ガラスに映った自分を見つめ、アレルヤは自分に語り掛けるように口を開いた。


「彼女もガンダムに乗って戦っているなんて……未だに信じられないよ、ハレルヤ」




△▽




ディーアはラズグリーズが格納されているコンテナのレストルームに戻ってきていた。
ガラスの向こうでは、ラズグリーズが調整修理されていた。

長椅子に足を下ろしたまま寝転がる体勢をとる。ディーアの長い髪が長椅子から流れ落ちる。それから大きくため息を吸い込み、吐き出す。


「ディーア、ツカレタ? ツカレタ?」


レストルームに転がっていた白ハロがコロコロ、コロコロと球体の身体を揺らし、目をピカピカ点滅させながら音声を発した。


「いいや、疲れてないよハロ。上手く息ができないだけ」

「ディーア、クルシイ? カエリタイ? カエリタイ?」

「帰りたいよ。宙にね。地球にいると、変な感じがするんだもの」


ディーアは声色は、ロックオンやアレルヤなどと話す時よりもいくらか高かった。そして口端は微かに上がっている。

別にディーアは彼らが苦手だとか、嫌いだとか言うわけではない。ただ単に人と関わるのが苦手なだけだ。これでも以前よりは解消されたほうだ。以前は人を寄せ付けずいつでも一人か白ハロと一緒にいたが、マイスターとして選出された世話焼きなロックオンに連れ出され、続いてアレルヤもディーアを気にしはじめ、なんだかんだで此処までやってきた。

口数の少ないフェルトや刹那、ティエリアとは、それなりの友好関係を気付いている。刹那やティエリアは人と慣れ合う事を好まないが、他のクルーたちと比べるとそれなりにやっている。少なくとも、フェルトとは仲が良い。

ディーアは寝転がっていた身体を起こし、壁に設置されたパネルを操作し、世間に流れているニュースを流し出した。


『ユニオンは50を超える国家の議会制を取りながら、実質は太陽エネルギー分配権を持つ米国1国の独裁体制で運営されている。太陽光発電システムは、1国家の思惑だけで運営されるべきではない! わがタリビア共和国は、ユニオンを脱退し、独自のエネルギー使用権を主張する!」』


ニュースに映されたのは、タリビア共和国の首相だった。
生中継されているそのニュースを、ディーアは膝の上に肘をつきながら耳を傾ける。


『この主張に反対し、他国から政治的、軍事的圧力が掛かった場合、わが国は軍事力をもってこれらに対抗するだろう! わが国は、劣悪なる米国支配に断固反対する!』

「タリビア、か……」


恐らく次のミッションはタリビアだろう。こんなことを発表されて、ソレスタルビーイングが黙っているはずがない。そして、戦術予報士であるスメラギ・李・ノリエガも予測しているはずだ。

それから数分後、携帯端末にプトレマイオスから暗号通信が受信された。


「さあ、ハロ。次のミッションよ」

「リョウカイ! リョウカイ!」


ディーアは長く伸びた銀の髪を手で払いのけ、少し笑みを浮かべた表情でハロを見下ろした。