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ガンダムマイスター


セイロン島への武力介入は難なく終わった。
各自が其々の帰還ルートを通り、待ち合わせ場所の人革連の軌道エレベーターへと集まる。


『天柱交通公社E237にご搭乗されるお客様は、A12番ゲートにお集まりくださるようお願い申し上げます』


軌道エレベーターのホームにアナウンスが流れる。

ディーアは私服に身を包み片手に携帯端末を開きながら、人革連の軌道エレベーターのホームに入った。
ディーアの手には携帯端末だけで、そのほかに手荷物はない。15歳ぐらいの年頃の女の子が一人で此処へ来るのはおかしいかもしれないが、誰か大人と待ち合わせているとも思えるだろう。また、作り物めいた見目をしているディーアにとって見た目の歳はそう意味をなさない。

ディーアは携帯端末の電源を切り、私服のポケットにそれをしまい込む。端末に向けていた目線を目の前に映すと、一つのテーブルに見慣れた3人が集まっていた。


「よう、ディーア」

「ディーア」


ロックオンがいち早くディーアを発見すると、片手をあげてあいさつを交わした。ロックオンに続きアレルヤもディーアの姿を見つける。
ディーアは3人のいるテーブルへ足を進め、ロックオンとアレルヤの間に立った。


「遅かったな、何かあったか?」

「なにもないよ、ティエリア」


目もくれないティエリアにそう返す。
お互い素っ気ない態度だ。


「ディーア、変わりはないかい?」

「ええ。貴方も変わりないようね」


アレルヤが心配したという意味を込めた言葉を放つと、ディーアはそう返して、背の高いアレルヤを見上げる。アレルヤはディーアの言葉を聞くと、眉尻を下げて安心した笑みを浮かべた。

そうしていると、ウェイターが来て頼んでもない飲み物がディーアの目の前に置かれた。他の三人はそれぞれコーヒーを飲んでいるようだ。


「ミルク……」

「好きだろう? それ」


そう言うロックオンは片目を瞑って笑む。
好きだと言った覚えは一度もなければ、好きな料理だってない。


「また子ども扱いを……」

「お子様だろ。少なくとも俺にとってはな」

「……」


確かに、15歳あたりのディーアはどう見ても子供の部類に入るだろう。また、ロックオンはガンダムマイスターのなかで年長者だ。年長者の彼にそういう言い方をされてしまっては、言い返すこともできない。
ディーアは不満気な顔をしながら、好きでも嫌いでもないミルクに口を付ける。


「よう、遅かったじゃないか。このきかん坊め」


ロックオンが陽気な声で現れた刹那にそう言った。刹那はアレルヤとティエリアの間に身を置くと、机に手を置く。


「死んだかと思った」


先日の武力介入で単独突っ込んでいった刹那。さらに帰島もたった1人先行した。もちろんミッションが完遂されたのでティエリアも文句を言うつもりはない。とはいえ、なぜ刹那がガンダムマイスターなのかという疑問を残すこととなった。


「何かあった?」


ティエリアが吐いた毒を流すように、アレルヤが苦笑いで刹那に問いかける。


「ヴェーダに報告書を提出した」

「後で閲覧させてもらうよ」

「……ああ」


淡々となされる会話はある意味、険悪な雰囲気をかもしだしている。それを見かねたロックオンが、「ま、まあ!全員無事で何よりってことで」と何とか場を繋ごうとしたのだが、反応してくれたのはアレルヤだけ。当の2人は視線を合わせようともしない。
肩をすくめたロックオンは気を取り直してティエリアに向き直った。


「そんじゃ、ティエリア、宇宙の方はよろしくな。俺たちは次のミッションに向かう」
「命令には従う……不安要素はあるけど」


結局、最後まできつい物言いをするティエリアにロックオンは苦笑するしかなかった。
ティエリアがリニアトレインに向かっていった後、そこへ再びウェイターがコップを持って現れた。今度は刹那へだ。


「お待たせしまた。ごゆっくりどうぞ」

「ミルク……?」


訝しげに眉を潜めた刹那に、ロックオンがニヤリと笑い人差し指を立てる。そして狙い撃つような動きを指せる。


「俺のおごりだ」


ロックオンの一言に、刹那が更に眉を潜めた。
それをはたから見ていたディーアも、少しばかり刹那と同じような顔をしていた。


「私と刹那を子ども扱いし過ぎよ」

「仕方ないよ。君と刹那はクルーの中でも最年少に近いんだから」

「それならティエリアだって当てはまるじゃない」

「うーん……でも、顔に幼さが残ってないから」


ディーアの不満げな声に、アレルヤが宥めるように答える。

実のところ、彼らはお互いの年齢を細かく把握していない。ソレスタルビーイングには秘匿義務が存在し、中でもガンダムマイスターの個人情報はトップレベルのものだ。そのため、彼らはお互いを深く語ることもなければ追求することもない。

「しかし、本当にできるのかい?」アレルヤがそう言う。


「機体を軌道エレベーターで宇宙へ戻すなんて」

「心配ない。予定通り、コロニー開発用の資材に紛れ込ませた」


アレルヤの言葉にロックオンが答える。
ミルクを一口飲んだディーアが言葉を続けた。


「重量が同じで搬入さえ通ってしまえば、点検なんてないもの」

「まさしく盲点だね」


なんて守備の低いこと。
ディーアは内心そうつぶやいた。


「僕たちに弱点があるとすれば、ガンダムがないとプトレマイオスの活動時間が極端に限定されてしまうところかな」


「五つしかない太陽炉が……」と口にした所で刹那がアレルヤの肩に手を置く。それには力が込められているようで、またアレルヤを見る眼孔が鋭く、彼の言葉を止めさせた。


「秘密事項を口にするな」

「悪かったよ」


アレルヤが素直に謝ると刹那が手を放す。


「ティエリアのトレインが出るぞ」

『天柱交通公社E277は、予定時刻通り14時18分、グリニッジ標準時5時差32分の発車です』


ロックオンの言葉に四人はリニアトレインが映し出されるモニターに目を向けた。宇宙へ向かうリニアトレインの映像と共に、アナウンスも流れる。


「宇宙に続くリニアか……」


刹那がぽつりと呟く。


「(私も早く、宙へ帰りたい……)」


宇宙へ向かうリニアトレインを見つめながら、ディーアはそう思った。

重力のある地球で確かに地上に足をついているのに、地に足がついていない感覚になる。そう思ってしまうのも仕方がない、とディーアはわかっている。長いこと宇宙で過ごしてきたせいだ。だからこそ慣れてしまったのだろう。


「さぁて帰るか」


ロックオンが両腕を伸ばしつつ言う。
ロックオンの言葉に従って、アレルヤやディーアや刹那もロックオンに続き軌道エレベーターの出口へと向かう。


「少しは休暇が欲しいけどね」

「鉄は熱いうちに打つのさ。一度や二度じゃ、世界は俺たちを認めたりはしない」


ロックオンの言葉は最もだ。世界がそんなにも、あっさりと認めてくれるのならそもそもソレスタルビーイングは結成されない。そこまでする意味がないからだ。しかし世界は甘くはない。




▽△




刹那、ロックオン、アレルヤ、ディーアは再びミッションを遂行すべくガンダムに搭乗した。

今回のミッションは二つ同時に行われる。
一つは、鉱物資源の採掘権を発端とした内戦への武力介入。
一つは、タリビア共和国の麻薬畑に対しての武力介入。

タリビア共和国の麻薬畑の一掃は、キュリオスが担当する。
ディーアは今回、キュリオスの万が一の護衛にまわった。護衛をするほどの戦力が向こうにも無ければ、キュリオスも単機でもなんなくあしらえるだろう。


「30分、タッタ! 30分、タッタ!」


夜のタリビアの上空を飛ぶ、キュリオスとラズグリーズ。
二人は通信を繋げ、自分たちのミッション時間を待っていた。そしてカウントしていたハロがラズグリーズの中で通告する。


「了解、アレルヤ」

『ああ。旋回行動開始から30分経過。警告終了。キュリオス、これより作戦行動を開始する』


キュリオスは麻薬畑に爆弾を落とす。途端にタリビアの麻薬畑は燃え上がり、火の海となった。
その様をタリビアの人々は呆然と眺めている。
あっという間にミッションを終了した二人は、タリビアから帰投体勢に入る。


『目標達成率97%。ミッションコンプリート。こういうのならいつでも……やるんだけどね』

「そうも言ってられないわ、アレルヤ。きっと今回が稀よ」


苦笑交じりにそう言ったアレルヤに、冷静沈着なディーアがはっきりと告げた。


『ディーア…………君はいつも冷静だね』


アレルヤは眉尻を下げて笑む。けれどその笑みは優しい笑みのそれではなく、少し困ってるような笑みだった。
アレルヤがそう言った笑みを自分に向ける理由を、ディーアは知っている。


「……貴方が優し過ぎるだけよ」


アレルヤの瞳から逃れるように、ディーアはモニターから目をそらした。
アレルヤはそれを気にした様子はなく「そうかい?」と優しい声色で続けるだけだった。


「……ミッションを終了。帰投するわ」

『了解』


キュリオスとラズグリーズが粒子をまいて、姿を消した。