ソレスタルビーイング
現在ニュースで、テロを未然に防いだ組織について報道されている。その時キャスターが慌ただしく動いたかと思えば新たにテロップが流れる。謎の組織からの犯行声明が届いたということで、映像に一人の老人が映し出された。
『……地球で生まれ育った全ての人類に報告させていただきます。私たちはソレスタルビーイング』
威厳に満ちた声で老人は続ける。老人の眼孔は鋭く、真っ直ぐと画面越しの人類を見据えていた。
地球で生まれ育った全ての人類に報告させていただきます。
私たちはソレスタルビーイング。
機動兵器ガンダムを所有する、私設武装組織です。
私たちソレスタルビーイングの活動目的は、この世界から戦争行為を根絶することにあります。
私たちは自らの利益のために行動しません。
戦争根絶という大きな目的のために、私たちは立ち上がったのです。
ただ今をもって、全ての人類に向けて宣言します。
領土・宗教・エネルギー。
どのような理由があろうとも、私たちは全ての戦争行為に対して武力による介入を開始します。
戦争を幇助する国、組織、企業なども、我々の武力介入の対象となります。
私たちはソレスタルビーイング。
この世から戦争を根絶させるために創設された武装組織です。
▽△
「ソレスタルビーイング……?」
テロを防いだのだからきっといい組織なのだと勝手に思い込んでいたのだが。彼らは武装組織と名乗った。しかも戦争をなくそうとしていると言うのに武力を行使する。
学生である沙慈・クロスロードは、ガールフレンドのルイス・ハレヴィとともに、ただただ放送される映像を見ていることしかできなかった。
一方、沙慈の姉、絹江・クロスロードも同じように映像を見上げてつぶやく。
「この人物は……」
それはジャーナリストとして真実を求めるための第一歩。
△▽
「これは傑作だ! 戦争をなくすために武力を行使するとは! ソレスタルビーイング、理念も存在も矛盾している!」
AEUの軍事演習でまさに最初の武力介入を目撃したユニオンのエースパイロット、グラハム・エーカーは笑いながら高々と言う。しかしその心の内にはパイロットとしてガンダムという機体に興味を持ったという感情からの高揚があった。
▽△
「始まったよ、リボンズ……」
グラスを片手にビルの高層階からの夜景を見つめる、アレハンドロ・コーナー。従者のリボンズ・アルマークに語りかける。
「人類の変革がね」
彼の口元が一瞬、小さく小さく微笑みを形作る。
△▽
プトレマイオスのブリッジでは各々が、動き出した組織に緊張を隠せなかった。
「始まったな」ラッセ。
「始まっちゃいましたね」リヒティ。
「やーっとはじまったんだね」クリス。
フェルトは静かに、けれどどこか覚悟を決めているように映像を見つめていた。
「ハレルヤ、世界の悪意が見えるようだよ……」
同じくブリッジで声明を見ていたキュリオスのパイロット、アレルヤ・ハプティズムはひどく憂えるような頼りない微笑みを浮かべて言葉を紡いだ。
アレルヤの背後には、同じく声明を見ていたヴァーチェのパイロット、ティエリア・アーデがいる。
「人類は、試されている」
▽△
地球で待機する三人のガンダムマイスターたちも、世界中に流れる放送を見て気を引き締める。
「始めちまった……ああ、始めちまった! もう止められない」
「トマラナイ! トマラナイ! トマラナイ!」
デュナメスのパイロット、ロックオン・ストラトスは確かめるように言うと立ち上がり、傍にいたまだ子供である二人のガンダムマイスターに振り返る。
「わかってるよな、刹那、ディーア…………俺たちは世界にケンカを売ったんだ」
最初に反応したのはラズグリーズのパイロット、ディーア・アルカディアだった。ディーアはコックピットのハッチを開け、ガンダムに腰を掛けて、ロックオン同様に携帯端末で声明を見ていた。
「理解してるよ、ロックオン」
そういって携帯端末の電源を切る。
傍らにいたエクシアのパイロット、刹那・F・セイエイはうなずいてエクシアを見上げた。
「俺たちは、ソレスタルビーイングのガンダムマイスターだ」
戦争根絶――その願いを実現させるために、ソレスタルビーイングは此処に存在する。
此処にいる三人のガンダムマイスターも、宙にいる二人のガンダムマイスターやプトレマイオスのクルーも、それを胸に行動を起こした。
すべては戦争根絶という、無茶な目的を果たすがために。
「ついに、始まったのね……200年の時を経て。そうでしょう、イオリア・シュヘンベルグ――」