×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -





忌わしい機関


プトレマイオスにナドレやキュリオスやラズグリーズが回収され、5機のガンダムはプトレマイオスに格納された。
ナドレはパイルダーオンされて、いつものヴァーチェに戻った。キュリオスや損傷のあるラズグリーズは先に修理されている。デュナメスの脚部も取り付けられ、エクシアも整備されている。

コックピットから早くに出たのはティエリアだった。その表情は不機嫌そうで、それに続いて刹那とロックオンがコックピットから顔を出す。しばらくしてコックピットを開けたアレルヤとディーアも、彼らの後を続く。
ノーマルスーツから私服に着替え終えると、ティエリアとロックオンはブリッジへ。刹那、アレルヤ、ディーアはブリッジには向かわず、それぞれ別の場所へ進んでいった。


ブリッジでは、ティエリアが赤い瞳を細めてスメラギを見下ろしていた。


「今回の人革連による軍事作戦、キュリオスとラズグリーズを鹵獲寸前まで追い込まれ、ナドレの姿を敵に露呈してしまった。スメラギ・李・ノリエガ。全ては作戦の指揮者である貴女の責任です」


キュリオスはハレルヤが目覚めなければ、確実に捕獲されていた。エウディルもキュリオスが救出しなければ、あのまま敵に奪われていただろう。
ティエリアの横に立つロックオンは少しだけ瞳を細めた。


「ごめんね。でもね、わたしも人間なの。時には失敗もあるわよ」

「そんな問題では済まされない。計画にどれだけ支障が出たか」


いきり立つティエリアにロックオンが口を挟む。


「ナドレを敵にさらしたのはお前だろ?」

「そうしなければやられていた」

「そうだとしても、お前にも責任はある。ミス・スメラギばっか責めるなよ」


「命があっただけでもめっけもんだ」ロックオンは肩を竦める。
ロックオンの言葉にティエリアは少しだけ口を閉じた後、苛立った様子で動き出した。


「今後はヴェーダからの作戦指示を優先する」


「失礼」と、短くそれだけを言ってブリッジを後にした。
操縦席に座っていたリヒテンダールが大きく息を吐いた。


「緊張した・・・・・・」

「あんなこと、みんなの前で言わなくたっていいのに・・・・・・」


不満げに唇を尖らせるクリスに、ロックオンが「まあ」と言う。


「可愛いよな、生真面目で・・・・・・他人に八つ当たり何かしてさ」




△▽




アレルヤは一人で展望室にいた。
窓の外に広がる宙を眺めているが、アレルヤの瞳には映らない。目の前のものをみず、上の空で先ほどの事を考えていた。


「(あの機体・・・・・・ティエレンの高機動超兵仕様。間違いない。あれに乗っていたパイロットは僕と同じ存在。まさか、続いて・・・・・・あの忌まわしい研究が) 」


窓に触れていた手に力がこもる。
超兵機関。そこはアレルヤがいた機関だ。あの忌まわしき場所に、アレルヤの過去が詰まっている。そして少なからずディーアの過去も絡み合っていた。

シュッと音を立てて扉が開いた。
窓に反射して開いた扉に気付きアレルヤが振り返ると、そこには瞳を伏せて扉のところで立ち尽くすディーアがいた。展望室には入らず、アレルヤを見ようともしない。


「どうしかした、ディーア?」


アレルヤが声をかける。ディーアは口を開かず、微動だにしない。口を噤んだままで一向に進まず数分が過ぎた。
展望室はディーアがよくいる場所だが、彼女が自分を探しに来て此処に来たのは明白だった。ディーアの様子を見ればわかる。


「さっき」


再びアレルヤが開口しようとしたとき、黙りこくっていたディーアがとうとう口を開いた。アレルヤは口を閉ざし、ディーアの言葉に耳を傾ける。


「あなたたちが居なかったら、わたし・・・・・・ダメだった」


ディーアは瞳を伏せたまま、前で自分の手を握っていた。
今まで必要以上に何かを伝えようとしてこなかった彼女が、何かを伝えようと頑張っている。


「アレルヤが、わたしに言葉をくれていなかったら・・・・・・戻れなかった」


アレルヤは今まで、多くの言葉をディーアにかけてきた。その言葉はあの時、ディーアの救いになった。


「ハレルヤが、わたしを助けてくれなかったら・・・・・・あのまま捕まってた」


ラズグリーズを確保したタオツーを迎撃し距離をとってくれたから、ディーアは今ここにいると言って良い。
彼らのおかげで、今回ディーアは救われたことになる。

「だから……」ディーアは言葉を続ける。
前で両手を握った手に力がこもったのが見て分かった。


「――ありがとう」


ありがとう。その言葉を聞いて、アレルヤは目を見開いた。
ディーアから初めて聞いた言葉だった。目の前の彼女を見れば、いま自分のできる精一杯を込めてその言葉を絞り出したのがわかる。緊張か不安なのか、握っている手は震えているのがわかる。


「それだけ、だから」

「あ、ディーア」


ピシャリと扉が閉まる。
伝え終えるとディーアは逃げるようにしてアレルヤの前から姿を消した。

伸ばしかけた手を下ろし、アレルヤは扉に背を向け再び窓に目を向ける。
ディーアを追いかけようとは思わなかった。考えたいことがあるのもそうだし、一度もディーアが自分を見なかったという事は、つまりそういう事なのだろう。


「(ディーア・・・・・・あのパイロットは彼女を知っていた。そして・・・・・・)」


連れて行こうとしていた。ガンダムに乗るパイロットというわけでもなく、私情が入っているように感じられる。出会ったのはいつだ。もしかしたら、あの低軌道エレベーターの時、僕だけじゃなく彼女も干渉していたのかもしれない。


「(どうする、この事実を報告するか? それとも・・・・・・)」

「(やる事は一つだろ)」

「・・・・・・! ハレルヤ」


頭の中にハレルヤの声が響く。
窓にハレルヤが映る。背後に、口端をあげたハレルヤが自分を見ている。


「(あの忌々しい機関が存続していて、俺らのような存在が次々と生み出されている。そいつは戦争を幇助する行為だ)」

「叩けというのか・・・・・・仲間を、同類を」

「(お優しいアレルヤ様には出来ない相談か? なら体を俺に渡せよ。速攻で片付けてやっからさー、あの時みたいに)」


あの記憶が蘇る。
仲間と共にコロニーを脱出したはいいが、行く場所もなく、漂流を続けているうちに食料と酸素が尽きた。そこでアレルヤの生存本能ともいえるハレルヤが目覚め、生き残るために仲間たちを皆殺しにした。
この過去は、アレルヤにとって大きなトラウマとなった。

アレルヤは目を逸らすように目を閉じた。


「やめてくれ、ハレルヤ! 何も殺す事はない。彼らを保護することだって・・・・・・」


甘い考えを口にする。それを口にするアレルヤ自身にも分かっていた。だが、それを信じたくは無かったのかもしれない。
ハレルヤはそんなアレルヤを嗤う。


「(戦闘用に改造された人間にどんな未来がある。そんな事自分が良くわかっているだろ。え? ソレスタルビーイングのガンダムマイスターさんよ)」

「違う! 僕がここに来たのは・・・・・・」

「(戦う事しかできないからだ)」

「違う!」

「(それが俺らの運命だ)」

「違う! 僕はッ!」


違う、違うと悲痛な悲鳴を上げるアレルヤが、居もしない背後のハレルヤに振り返る。そこでアレルヤははっとした。目の前にいたのは刹那だった。刹那は様子のおかしいアレルヤを拭ぎそうに見上げていた。


「あ・・・・・・刹那」

「どうした?」

「いや・・・・・・なんでもないさ」


アレルヤは追求を避けるように展望室を後にした。
扉の前で拳を作り、覚悟をを決めた様子で足を進ませた。


「(ならディーアを見てみろよ、アレルヤ。アイツだって戦いの中にいる)」


頭の中に最後に響いたハレルヤの言葉は、そんな言葉だった。