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キュリオスとタオツー


「ティエリア……ナドレを……」

「テッキセッキン! キュウセッキン!」

「なに? うあッ!」


ナドレに気を取られている間に、背後からカーボンネットが放たれ、まんまとそれに絡みついてしまった。ナドレに気を取られていた、ディーアの失態だ。
操縦桿を前後に動かすが、ネットが絡まって身動きができない。


「ハロ! 何とかできないの!?」

「ムリ! ムリ! ディーア、ガンバッテ!」

「頑張ってるって! うわっ!」


何とかラズグリーズに絡みついたワイヤーを切ろうとするが、きつく絡みついたそれはラズグリーズの動きを封じ、何もできないでいる。
するとコクピットに衝撃が来た。思わず身を縮めた。原因はコックピットを開けようと伸し掛かったタオツーだった。

無理やり開かれた回戦からソーマの声が響く。


『出てこいディーア! そこはお前が居るべき場所じゃない! 私ならお前を守れる!!』

「そんなこと望んでいない!! 放せ、ソーマ・ピーリス! 戦うのが私の使命だ!」

『お前は利用されている、ソレスタルビーイングに!!』

「どうして貴女が利用されていると気付かないのッ!!」

『お前こそ何故わからないッ!!』


二人は訴え、叫ぶ。
痺れを切らしたソーマは動けないラズグリーズをつかみ、連れて行こうとする。納得させられなくても、連れ戻してしまえばあとはどうにでもなる。


『お前を……連れていく!』


どんなに操縦桿を動かしても微動だにしないラズグリーズはされるがままだった。

捕まったキュリオスからの反応もなければ、ナドレからの反応もない。通信を拒絶され、ティエリアは今、計画を自ら歪めてしまった後悔の念に苛まれている。プトレマイオスもこちらに構っている余裕はないように見える。自分でどうにかするしかなかった。


「や、めて……」


このままではダメだ。

このまま敵にガンダムと太陽炉を渡すわけにはいかない。計画は始まったばかり。これ以上歪めさせるわけにはいかない。計画を遂行する事だけに、存在を許されているのだ。
同時に自分の存在も世間に知らせてはいけない。ガンダムマイスターだからではない。自分の存在のせいで超兵計画が促進された。ソーマ・ピーリスから機関の者に話されているに違いない。これ以上、犠牲を増やせない。アレルヤの存在だけでも罪悪で押しつぶされそうだったのに、ソーマ・ピーリスという存在も出てきた。

ディーア・アルカディアは、もう限界だった。


「だめ……だめ……だめッ……!!」


両手で頭を抱える。目を大きく見開かせた。
長い間だれにも話せず、言えず、貯め込んできたものが一気に爆発した。まさにJB・モレノが危惧していたのがこれだった。

脳裏に過去の映像が駆け巡る。
白い部屋。白い服。同じ年頃の、同じ顔をした少年少女。彼らの身体には、それぞれ違う場所に何かを示す番号が刻まれている。
拳銃を持つ手。引き金を引く指。鈍い音。倒れる少年少女。赤い水溜り。ねっとりとした生温かい感触。逃げ惑う大人たち。怯えた顔で命乞いをする。すべて始めたのはお前たちなのに。

一瞬だけ、違うものがながれた。ふと思いだされたのは、地球に降下する前の一時だった。
はじめて「守りたい」と言われた。自分の存在を知っても、それでも「守りたい」のだと言って、「君のせいじゃない」と差し伸べられた。
縋ってはいけない。縋っていいわけがなかった。彼らを苦しめたのは自分のせいだ。なのに……無意識に、唇が動いていた。


「た、す……け、て…………」

「(やぁっと呼んだか、ディーア)」

「――! ハレ、ルヤ……?」

『だから、遅ぇっつーんだよ!!』



「おらよぉ!」と、勢いの良い声と共に現れたのはキュリオス。タオツーとラズグリーズの間を物凄い速さで通り、確保されたラズグリーズを救出した。
絡みついていたカーボンネットが緩み、身動きが取れるようになる。だが操縦桿に手を伸ばせそうにない。キュリオスは、敵機から距離を取るようにラズグリーズを移動させた。


『よぉ』


ハレルヤは通信モニターを繋ぐと、最初は金の瞳を強く見張ったが、いつものように挑発的な鋭い瞳へと戻り、そう声をかけた。
ディーアは突然の事に頭がついていかず、目を丸くして映し出されたモニターを見た。目元に涙がたまっていたことすら、自分では気づいていなかった。


「ハレルヤ……」

『お前はそこにいろ。安心しな、あとは俺がやってやるからよ』


休んでろとでもいうように、優しい声色で投げかけた。
ディーアはそれに安堵の息を漏らし、強張っていた身体の力が抜けていくのを感じる。安心して身体をシートに預けると、気を失うように瞼を下ろした。

ハレルヤはそこでモニターを切る。


『さんざん俺の脳量子波に干渉してきやがって! てめぇは同類なんだろ!? そうさ、俺と同じ……体をあちこち強化され、脳を弄くり回されて出来た化け物なんだよぉっ!』


タオツーに乗るソーマにハレルヤは叫ぶ。


『んでもって――よくもアイツを泣かしてくれたな』


最後の言葉は冷たく怒りをあらわにしていた。そうしているとタオツーがキュリオスに向かってきた。片足も無いのに、引く素振りも見せずに猪突猛進だった。


『ディーアの心を縛るな! ガンダムッ!!』

『いい度胸だなぁ! 女ぁ!!』


タオツーはキュリオスのビームライフルを避けるが、次には当てられた。
だがハレルヤは急所は狙わずに撃ち続ける。


『何・・・・・・遊んでるの・・・・・・?』

『ほらさぁ! 同類だからさぁ! 分かるんだよぉ!』


ハレルヤが楽しそうな声を出す。彼の言う通り、ソーマが避ける方向へすぐに追撃をしかけていた。


『ッ・・・・・・! ディーア、コイツらはお前を利用しているんだぞ! なぜ傷つくと分かっているのに留まる!!』

『勝手に干渉してんじゃねぇぞ女ぁ!!!』


ソーマの声はディーアには届かない。ラズグリーズと距離を取られて無理やり回線を開くことができなかった。脳量子波を通じてよびかけようにも、ディーアは半分気を失っているに近い。
脳量子波を通じてディーアへ干渉を試みるソーマに気付き、ハレルヤは攻撃をして集中を無理やり切らした。

すると別のティエレンが飛び込んできた。キュリオスの背後から接近し、取り付く。ソーマの機体は別のティエレンが引いていく。


『邪魔すんなよ、一般兵! 命あっての物種だろうがぁ!』


とっさに振り払い、シールドを変形させる。左右にぱっくり割れたシールドで相手を捕らえた。シールドの先がティエレンに突き刺さっていく。
ソーマたち数機のティエレンは作戦失敗とみなし、撤退していく。


『ああ、なんだ? 仲間見捨てて行っちまうのか?』

「やることが変わらねぇよな、人革さんはよ」と、どこか呆れた声色で言う。
接触通信で開かれた回線から、相手の声が届く。人革連の軍人は「いつか、お前たちは報いを受ける時が来る・・・・・・我々が築き上げてきた国を・・・・・・秩序を乱した罰を・・・・・・」と、途切れ途切れに言葉を紡いだ。


『そんな大層なもんじゃねぇだろ? 人を改造して兵士にするような社会にどんな秩序があるってんだ? そんでもって、俺はあの女に逃げられて少々ご立腹だ・・・・・・だからさぁ、楽には殺さねぇぞ!!』


ハレルヤはシールドの中央からニードルを出した。そのままゆっくりとティエレンのコクピットに近づける。


『どーよ? 一方的な暴力に、為す術もなく命をすり減らしていく気分は!』


きっとティエレンのコックピットに到達しているだろう。
通信越しから相手の恐怖に染まり切った悲鳴が響く。


『そいつは命乞いってやつだな! 最後はなんだ? ママか? 恋人か? 今ごろ走馬灯で子どもの頃からやり直しの最中か!?』

(やめろ・・・・・・ハレルヤ・・・・・・)


アレルヤの声が頭の中に響く。
ハレルヤは「あ?」と声をあげて「おいおい」と続けた。


『待てよアレルヤ、今良いところなんだから』

(やめてくれ・・・・・・!)

『何言ってんだよ、お前ができないから俺がやってやってんだろう?』

(やめるんだ・・・・・・!!)


アレルヤは必死にハレルヤに訴える。あまりにも何度も訴えてくるアレルヤに折れたのか、ハレルヤが「ああ、そうかい」と仕方なさげに言った。


『わかったよアレルヤ・・・・・・まったく、お前にゃかなわねぇよ』


そうハレルヤが言った瞬間、アレルヤの気配が和らいだ。
その直後。


『・・・・・・なんてな!』


ズブリ、とニードルがティエレンのコクピットを貫いた。
アレルヤの気配が一気に硬くなる。そんなアレルヤとは対照的に嬉しそうにハレルヤが笑うのだ。


『楽しいよな! アレルヤ! アレルヤァァ!!』


大破したティエレンは爆発を起こして消え去った。