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無差別爆破テロ


「おーい、お前たち!」


整備士のイアン・ヴァスティが片手を上げて走ってきた。
慌てている様子に、何かがあったことを全員が悟る。五人の表情が強張った。


「大変なことになってるぞ!」

「何があった、おやっさん」


ロックオンが一歩彼に近付いて問う。


「世界の主要都市7カ所で、同時にテロが起こった!」

「何だって!?」

「多発テロ?」


驚きの声を上げたロックオンとは対照的に、落ち着いた様子で刹那が呟いた。
「被害状況は?」とアレルヤが問うとイアンは息を整えてから話し始めた。


「駅や商業施設で時限式爆弾を使ったらしい。爆発の規模はそれほどでもないらしいが、人が多く集まる所を狙われた。100人以上の人間が命を落としたそうだ」

「何てこと……」


アレルヤが呟いた直後、ロックオンの端末が鳴った。手早い動作でそれを取り、「俺だ」と言う。
通信は王留美からだった。


『ガンダムマイスターの皆さん。同時テロ実行犯から、たった今ネットワークを通じて犯行声明文が公開されました』


王留美はそのまま続ける。


『ソレスタルビーイング武力介入を中止し、武装解除を行わない限り、今後も世界中に無差別報復を行っていくと言っています』


正直、予想通りだった。一部の者がこういった動きにできるのは容易に予測できる。
同じ考えだったのか、ティエリアが「やはり目的は我々か」と口に出していた。


「この声明を出した組織は?」

『不明です。エージェントからの調査報告があるまで、マイスターは現地で待機してください』


そう言い、王留美は接続を切ったようだ。端末を仕舞いながら、ロックオンが怒気や憎悪を込めて口を開く。


「どこのどいつかわからねぇが、やってくれるじゃねぇか」

「無差別殺人による脅迫……」


ロックオンとアレルヤはどこか思いつめた表情をしている。それはイアンもそうだった。
ディーアが少し目をそらすよう横を向くと隣に居たティエリアがフ、と鼻で笑った。


「そんな事で我々が武力介入をやめると思っているのか?」

「何だとティエリア!」


そう淡々と言うティエリアにロックオンが反応をした。彼にしては珍しく苛立った様子で声を荒げていた。
ロックオンに続くようにイアンもティエリアに異を唱える。


「一般人が犠牲になっとるのに何とも思わんのか!?」

「思いません」


ロックオンとイアンの言葉に、ティエリアはきっぱりとそう言い切った。


「このような事態が起こることも計画の中には予測されているはずだ」


確かに予測されていた。
ティエリアは目線をディーアに向ける。


「君も予測していたはずだ、ディーア。僕にできて、君ができないはずがない」


その言葉には、一部信頼も込められていた。
ディーアはそれに応えず視線を逸らすだけ。それに対してアレルヤが不安げに強い戦を送る。
ロックオンが「貴様!」と叫び、ティエリアの襟元をつかんだ。珍しく感情的な行動を起こす。

ロックオンの表情はいつもの様子からは酷くかけ離れたものだった。
ティエリアは動揺した様子も無く、ロックオンを見返して「どうしたんですか?」と言った。


「いつも飄々としている貴方らしくない態度ですね」


ロックオンは激昂した様子で「うるせぇぞこの野郎...!」と声を張る。
ティエリアは真紅の瞳を少しだけ細め、口を開いた。


「そんなにテロが憎いのですか?」

「悪いか?」

「世界から見れば、我々も立派なテロリストだ」

「テロが憎くて悪いか……!!」


――テロ。
きっとこれがロックオンの戦う理由なのだろう。それが、彼の意思。私に戦う理由があるように、他のマイスターたちにも理由がある。彼らは、相当な覚悟のうえでソレスタルビーイングに参加することを決めたのだから。

刹那が口を開く。


「その組織は、テロという紛争を起こした」

「……刹那」

「ならば、その紛争に武力で介入するのがソレスタルビーイング。行動するのは、俺たちガンダムマイスターだ」


刹那は真っ直ぐな心でそう言った。
気付いたらロックオンもティエリアから手を放し、唖然とした様子で刹那を見返している。


「……一先ず、中へ入ろう。王留美からまた連絡も来るだろう」


静まり返ったなか、イアンがそう口を開き、マイスターたちは身体を休めるためにも屋内に足を進めた。