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カムフラージュ


マイスターたちがノーマルスーツから私服に着替えた後、みんな各々の思うように行動していた。
ロックオンとティエリアは別々に外へ行き、アレルヤや刹那やディーアはガンダムが収納されているコンテナのレストルームに集まる。


「私設武装組織ソレスタルビーイングによる武力介入の即時中止、及び武装解除が行われるまで、我々は報復活動を続けることとなる。これは悪ではない。我々は人々の代弁者であり、武力で世界を抑えつける者達に反抗する正義の使徒である、か……」


先程知らされたテロの声明をニュースから読み上げた、アレルヤ。それを聞きながら刹那は窓の向こうを見つめ、ディーアは長椅子に腰を下ろしてハロを膝の上にのせた。


「やってくれるよ、まったく……」


アレルヤはそう言って乱暴に壁を殴ってモニターを閉じた。こうも怒りを露わにしているアレルヤを見るのは初めてだ。それは、今ここにいないロックオンも同様だ。そんなアレルヤをディーアは、盗み見るようにして背を見た。


「無差別爆破テロ……」


刹那がポツリと呟く。
それに応答するように、膝に乗ったハロが耳のようなものをパタパタさせて発声する。


「ブリョクカイニュウ! ブリョクカイニュウ!」

「そうだね、ハロ」




△▽




「……それで、クリス? これは一体なんだ?」

「だから水着よ! みずぎ! ストレスも溜まってるだろうし、息抜きしなきゃ!」


地球におりていたスメラギやクリスティナやフェルトと、孤島にて合流した。合流すると早々、スメラギとクリスは両手に水着を持ってフェルトやディーアに見せびらかした。
エージェントによってクルーザーを用意したスメラギは、息抜きとカムフラージュを兼ねて海に出ると言う。そこで、女性陣は水着に着替えるらしい。半強制的に。


「ねえ、ディーア! ディーアはどっちがいい?」

「どちらでも。というか、できれば着たくないんだが」

「スメラギさん、ディーアにはどっちがいいですかね? 白も良いけど、たまには黒とか? 白い肌に映えそう!」

「ディーアには白でしょ。そっちのほうが男も喜ぶわ!」

「……」


クリスとスメラギが水着の話で盛り上がっているなか、ディーアとフェルトはこの空気に疲れて溜息をおとす。


「ディーア、怪我はしてない?」

「勿論、マイスターの能力はヴェーダのお墨付きよ」


ディーアの隣に来ていたフェルトが、視線を向けずにそう聞いた。
その言葉に、ディーアは普段あまり見せない優しい笑みで答えた。


「疲れてない?」

「そんな軟じゃないわ」


ディーアはそう言いながら、傍らにいるフェルトの頭を撫でる。
フェルトはその行為に嬉しそうにした。

フェルトの両親は第二世代のガンダムマイスターだった。早くに両親を亡くしたフェルトにとって、ソレスタルビーイングは家であり、トレミーのクルーたちは家族同然と言っても良い。なかでもディーアは、物心がついた時から隣にいて、フェルトにとって一番近しい存在であり、姉という存在だった。


「さあ、ディーア、フェルト! 水着に着替えるわよ!」


向こうで盛り上がっていた二人が機嫌のいい笑顔で言ってくる。隣にいるクリスの手には、恐らくディーアとフェルトに着せようとしている水着が掲げられていた。
地球におりたさい、散々クリスに振り回されたフェルトはそれを思いだして重いため息を落とす。ディーアもそれにつられて、やれやれと息を吐きだした。




△▽




「……何故、そんな格好を?」


海を走るクルーザーの上で、アレルヤが眉を下げて問う。
それは、クルーの女性陣が全員水着姿だったからだ。

フェルトはパーカーを、クリスはティーシャツを着ていたが、スメラギは肩と腰を出した露出の激しい水着だった。マイスターで唯一の女性であるディーアも水着に着替えていたが、彼女たちの背後に控えていたため、こちらからは見えなかった。


「カムフラージュよ、カムフラージュ」


スメラギがそう言って笑う。
彼女が動く度に、腰に巻かれたバレオが揺れる。「ちょっと、趣味が入ってるかも」と言って笑うクリスは可愛らしかった。


「今がどういう状況かわかってるんですか?」

「わかってるけど、今は王留美が放ったエージェントからの情報を待つしかないもの」


戸惑いがちに言うアレルヤにスメラギはそう即答した。
スメラギはそのまま自身を手で仰ぎながら、歩いて行ってしまう。


「あ〜、それにしても暑いわねぇ。冷えたビールとかないのぉ?」


そんなスメラギに、アレルヤが小さく溜め息を吐く。


「神経が太いというか何というか……」

「強がってんだよ」


アレルヤの言葉に反応したのはロックオンだった。彼はイアンや刹那居る場所の下でソファに横になりながら、ゆっくりと目を閉じた。


「こっちからエージェントに連絡できればいいのに」

「実行部隊である我々が、組織の全貌を知る必要はない」


クリスの言葉に答えたのは、後ろから来たティエリアだった。アレルヤはそれに苦笑して、「ヴェーダの采配に期待するさ」とだけ返す。
それにクリスは不安げな表情のまま、胸の前で手を組む。

彼女たちの隣では、フェルトがハロを抱えている。
ハロは「フェルト、ヒサシブリ! フェルト、ヒサシブリ!」と耳のようなものをパタパタさせる。

ふとクリスが、ティエリアとアレルヤから目線を逸らして背後を振り返る。クリスの背後には、一人ぽつんと立ちながら足下に転がる白ハロを見下ろしているディーアがいた。


「もう! せっかく着替えたんだから、ちゃんと見せないと!」

「え、ちょ、クリス!」

「ほらほら見て、アレルヤ! ディーアもちゃんとオシャレしたんだから!」

「え? あ…………」


クリスに手を引っ張られて、ディーアはアレルヤとティエリアの前に立たされた。
ディーアは白い水着の上に灰色のパーカーを羽織っていた。いつも露出を控えた服装を着ていたため、水着姿のディーアは普段とは違う印象を受ける。

アレルヤは目の前にいるディーアを見て頬を赤く染めていた。普段、最小限の露出しかしない彼女がこうも大胆に露出をしているのを見ると、赤くなってしまうのも仕方がない。アレルヤは思わず見惚れていたのだ。

アレルヤがディーアに見惚れている隣で、ティエリアが顔色を変えずに思ったことを口にする。


「君もそういったことをするんだな」

「まさか。クリスとスメラギさんに無理やり着せられたんだ」

「だろうな」

「もう!」


不満そうにふん、と顔を逸らして言うディーアに、ティエリアが同意する。すると今度はクリスが不満げに頬を膨らました。

クリスはオシャレが大好きな年ごろの女の子らしい女の子で、年も近く女の子同士という事でよくフェルトやディーアを巻き込むが、そう言ったことに興味のない二人に少しの不満はあるのだろう。

ティエリアは用が済んだことで日差しの当たらない屋根のある場所へ引き返し、クリスもフェルトやスメラギのいる場所へ足早に移動していった。

ディーアは着たくもない水着を着せられ少し不機嫌であった。だが、たかがそんなことで腹を立てているのも馬鹿らしく思えて、溜息と一緒に吐き出した。
先程から視線の痛いアレルヤを見上げると、アレルヤはスッと顔を逸らした。髪の隙間から、ほんのりと染まった耳が覗く。


「そんな、あからさまに目を逸らさなくたっていいじゃないか」

「ご、ごめん……その……君がそんな恰好をするとは、思わなくて……」


顔を逸らしたアレルヤに向かって不満げにそう言う。
アレルヤは目を逸らしたまま片手口元を隠して、視線を泳がせる。両手が汗ばんでいくのがよくわかった。


「そんなに似合わないか? まあ、自覚はしているけど」

「そんな、誤解だよ! すごく、似合ってるよ……ディーア」


自分の服装を見下ろしながらディーアが呟く。自分でもこんなに露出をしているのに半分驚いていた。

アレルヤは自分の行動で「似合わない」と伝えてしまった誤解を解くため、逸らした視線を戻して真正面からディーアを見下ろす。再び目に入った彼女の姿に顔を赤らめながらも、口にする。綺麗だとか、美しいとか、そんな気の利いた言葉を吐くこともできず、どこまでも愚直で正直な言葉だった。

最後に照れ隠しをするように笑みを浮かべるアレルヤ。
ディーアはそうして、時間差で来たぶわぶわ湧き上がってきた熱に戸惑いを感じた。


「そ、いうことを、言うな……慣れてないんだ。そんな、言葉……」


ディーアはそう言ってアレルヤを見上げていた顔を俯かせて、視線を逃れるようにそっと顔を逸らした。ディーアは白い肌だから一目瞭然だった。ほんのりと桃色に顔を染めて、恥ずかしそうにしていた。

そんな彼女の姿にアレルヤは笑みを零した。
その笑みは嬉しさを含んだような笑みであり、見る者が見れば男が女に向ける情を含んでいるようにも見えた。


「君でもそんな表情をするんだね」

「な、わ、わたしは至って……っわ!」


微笑むアレルヤに向かって強気に出る。逸らしていた顔をあげた途端、アレルヤの片手でそれを拒み、頭上からグッと押し込まれる。力の差や油断もあり、されるがまま頭を俯かせていると、アレルヤが顔を耳もとに寄せた。


「似合ってるぜ?」

「ッ!!」


耳もとで囁かれたことにも驚いたが、その口調と声色の変わりようにも驚いていた。突然表にでてきたハレルヤが囁いたのだ。
更に頬が熱くなっていくのを感じながら、驚いた拍子に頭を押さえていた手を振り払う。そうして目の前の男を見上げると、そこにはもうハレルヤの姿はなく、アレルヤが微笑みを浮かべているだけだった。

ディーアは熱くなってくる熱を無視し、不機嫌そうにそっぽを向いてクルーザーの柵に体重を預ける。
その隣にアレルヤも寄り添い、一時の穏やかな時間を二人は過ごした。