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新装備


海に浮かぶ孤島にヴァーチェ、キュリオス、ラズグリーズの三機が宙から降下してきた。他の場所に待機していたエクシアもすでに、デュナメスがいる孤島に到着している。

宙から降下してくる三機を刹那とロックオンは見上げる。
それぞれが着陸すると、マイスターの三人はコックピットのハッチを開け、陸に足をついた。

最後にコックピットからディーアは、陸に足を付けるとヘルメットを脱ぐ。そよ風が髪を靡かせ、ヘルメットを脱いだことで開放感を感じる。


「ようディーア、久しぶりだな!」


陽気な声で背後から呼ばれる。

振り向くと、そこにいたのはプトレマイオスのクルーの一人である総合整備士のイアン・ヴァスティだった。イアンはソレスタルビーイングに参加したのが早く、組織の中でも主整備員として活動していた。ソレスタルビーイングの古株であることもあり、イアンとディーアは気心知れた仲だ。

イアンはディーアに歩み寄ると、親し気な笑顔でグシャグシャとディーアの頭を撫で繰り回した。ディーアは鬱陶しそうにしながらもそれを受け入れ、手が離れると手櫛で髪を整える。


「イアン、どうして此処に?」

「お前さんらの新装備を持ってきたんだ」


イアンにつられてディーアはデュナメスとエクシアを見る。


「デュナメスは終わって、今はエクシアに装備を付けてる。お前さんのもあるぞ」

「ラズグリーズに?」

「ああ、シールドだ。ラズグリーズが一番薄いからなあ。腕に設置させる小さめのシールドだが、展開させればもう少し大きくなる。それなら取り回しやすいだろう」


ラズグリーズは回避型の機体。そのため軽量に軽量を重ね、ガンダムの中で一番装甲が薄く、一番軽い。何よりも軽量を重視するため、武装も最低限のものしか装備していない。そこに新たなシールドという装備が加わった。

シールドくらいの重量なら、そう問題はない。小さめだと言っているし、展開型とは便利だ。重力下の戦闘なら役に立つだろう、とラズグリーズを見上げながら考える。


「エクシアが終わるまでもう少し待っとれよ」

「いいよ。ハロと一緒にやるから」

「そうか? なんかあったらすぐに呼べよ、ディーア」

「わかってるよ、イアン」


ディーアの知識は基本何処にでも通じている。整備ならイアンに習っていたこともあり、一人でもできた。

ディーアはラズグリーズに搭乗している白ハロを取り出し、整備をするためのパネルを受け取り、すぐさまシールドを取り付ける整備を始めようとする。
そんなところに、ロックオンと刹那が来た。


「よう、独房入りはどうだった?」

「退屈だったよ」


片手をあげてロックオンはそう言い、ディーアは簡潔に答える。
刹那は表情を変えることなく、じっとディーアを見つめて口を開く。


「意外だな。お前がミッションを二の次にするのは」

「おかげでティエリアにこっぴどく言われたさ」


ディーアがそう言うと、「だからあんなにピリピリしてんのか……」とロックオンはティエリアのほうを見て呟いた。
それにつられて刹那やディーアもティエリアのほうに目を向ける。ロックオンの言う通り、いつもより不機嫌そうに見える。


「ティエリアはディーアにだけ、それなりに信頼をおいてたからな」


ロックオンは活動する前のことを思いだしながら、そう言った。

確かに、ティエリアはソレスタルビーイングの一員で最も信頼しているのはディーアだ。それは誰が見ても明白だった。そして共通点もある。どちらも計画の遂行を第一とし、そのためだけに自分の行動を決める。また、ティエリアはディーアにだけ文句を言わなかった。他のマイスターたちはティエリアの小言をよく言われるが、ディーアはそれがなかった。
そんな彼の信頼をディーアは今回のミッションで裏切ってしまった。

ディーアは、ティエリアと初めて会った日のことを思いだした。その時かけられた言葉も同様に。
そしてディーアはティエリアから視線を逸らし、手元のパネルに映した。


「ただの親近感からだよ。それじゃ、私はラズグリーズの整備をするから」




△▽




「整備は終わりそうかい?」


見上げると、片手に飲み物を持ったアレルヤがいた。

ディーアは丁度そばにあった岩に腰を下ろして、延々とパネルをいじって整備を続けていた。整備を始めてから結構時間は経った。
ディーアはアレルヤから差し出された飲み物を受け取った。


「もう終わるよ」


そう言って紙コップに注がれた飲み物を飲み干し、岩場のところにちょこんと置く。手は再びパネルへと移った。
アレルヤも自分の紙コップに口を付け、飲み物を喉に通す。座っているディーアに寄り添い、目の前にあるラズグリーズを見上げていた。


「アレルヤ」


名前を呼ばれてアレルヤは傍らのディーアに目を向けた。
ディーアはパネルから目を離さないままで、続けて口を開いた。


「貴方は言ったわ。『ずっと伝えたかった』って。あれ、どういうこと?」


アレルヤは言った、ディーアを守りたいと。それに対してディーアは「理解ができない」と顔を伏せて告げた。そんなディーアに、アレルヤは続けた。「それでもいいよ。ただずっと、そう伝えたかったんだ」と。少しだけ満足そうに。

アレルヤは未だ自分を見ずにパネルの操作を続けるディーアを見下ろして、優しい声色で答えた。


「そのままの意味だよ。僕はずっと、君を守りたいって思ってた。そうだね……君と出会ってすぐにそう思ったよ」


ディーアの指先が一瞬だけ動きを止めたのに、アレルヤは気付く。

出会ってすぐに……なんてお人好しの過ぎる人なのだろうか、と出会った時のことを思い浮かべてディーアは内心で呟いた。
「でも、本当の意味で守りたいと思ったのは、もう少し後だった」アレルヤもディーアと同様にその日の事を思い出して、そう言葉を述べた。


「あの日……君から出た、あの拙い一言。僕はあの時、初めて本当の君を見たんだ」


「あめが、降ってる」あの言葉は本当のディーアから出た言葉だ。何にも縛られず、気を張ることもなく、何も着飾らないあれこそが、ディーアのありのままの心だとアレルヤは思った。


「ほんとうのわたし?」


今までパネルを見つめていたディーアが、振り返るようにアレルヤを見上げた。
その疑問は本心から出た。


「君が自分を偽っているとは思ってないよ。ただ、君の本質に触れた気がするんだ」


ディーアが自分を偽っているとは一度も思ったことは無い。
ディーアも自分を偽っているつもりはない。
ただ、あの言葉は剥き出しにした心から出たものだとアレルヤは確信していた。


「わたしのほんしつ、か…………」


視線を落としたディーアがポツリと零した。小さすぎるその言葉は、アレルヤの耳には届かなかった。

少しの沈黙が流れた。
そこでふと、アレルヤがある疑問をディーアに向けた。


「そういえば、ディーア。君、ハレルヤに何度か会ったことある?」

「ええ」

「やっぱり……僕、そんなことハレルヤから聞いたことないよ……」


アレルヤの記憶の中では、ハレルヤとディーアが出くわしたのは、あの低軌道ステーションの時と営巣入りの時だけだ。だがディーアはその時、驚いてはいたが初めてではない様子だった。

ハレルヤから一度もディーアに会ったことなど知らされていなかったアレルヤは、少々項垂れる。


「あなたたちって、仲悪いの?」

「いや、そういうわけじゃ……」

「なら嫌い?」

「うーん、そうじゃなくて……難しいな……」


項垂れたアレルヤの様子を見たディーアがそう聞くが、アレルヤはどれも曖昧。言葉にするのは難しい関係と言えた。


「……まあ、どっちも貴方だものね」

「え?」

「どっちも自分でしょ?」


首を傾げて、聞き返してきたアレルヤにディーアは不思議そうに繰り返した。

アレルヤとハレルヤは別人格。彼らは二人だが一人。表と裏、裏と表。どんなに考え方や性格、性質が変わろうと、どちらも自分自身であることは変わらない。


「そう、だね……」


アレルヤの返事は歯切れが悪かった。だがディーアは追求することは無く、再びパネルに視線を落とした。