理解不可能
個室に戻ったディーアは早々とパイロットスーツに着替えていた。長い髪を払いのけると、低重力中のなかふわふわと銀糸が舞う。傍らに置いてあるヘルメットを掴んで、ガンダムのある格納庫へ向かうため部屋を出ようとする。
機械的な音を立てて扉がスライドする。スライドした出口から部屋を出ようと一歩足を踏み出した時、部屋の前に立っている人物に気付いた。
部屋の前にいたアレルヤは、部屋から出てくるのを待っていたようだ。
「ディーア」
腕にヘルメットを抱えたアレルヤが、静かな声で名前を呼んだ。
「君に伝えたいことがあるんだ」と続けるアレルヤに、ディーアは静かにアレルヤを見上げながら言葉を待った。
「僕は、僕たちは――君を守りたい」
アレルヤは自分の胸に手を当てて、そう言った。
自分だけでなく、自分の中にいるもう一人の人格も思いは一緒だと。アレルヤは伝えた。
ディーアはその言葉を聞いて目を見開いた。そして苛立ちが沸き上がる。
「どうして……あの話を聞いていなかったの?」
語尾を強くして言い放つ。
アレルヤは真直ぐな瞳で続けた。
「聞いていたさ。でも、僕には君を恨めない。恨むことなんてできない」
なんてお人好しな人だろうと、ディーアは呆れていた。
そんなことを言うアレルヤに言い返そうと口を開くが、見計らったかのようにアレルヤが言葉をかぶせる。
「君も僕たちと同じだ。君も同じ、歪んだ世界の被害者だ、ディーア。そんな君を、僕は恨めない」
アレルヤはどうあっても、恨んではくれないらしい。元凶であると言うのに、それすらも”ただの被害者だ”と言い放つ。
「なん、で……」ディーアにはわからない。
そんなディーアに、アレルヤは優しい声色で今まで彼女に抱いていた想いを打ち明ける。
「僕はずっと、君を守りたいと思ってた。それは今でも変わらない。変わらず君を守りたいって思う。だからね、ディーア。僕に、僕たちに、君を守らせてほしい」
ただ守りたい、それだけ。
たった一人で宇宙を見つめて、寂し気な背中を向けて佇んでいたディーア。その小さな身体に、脆い腕の中に、一人では到底抱えきれないほどの罪悪感に蝕まれていた。
そんな彼女を守りたい一心だった。
「理解できないわ……」
床に視線を落として、ディーアはぽつりとつぶやく。
「それでもいいよ。ただずっと、そう伝えたかったんだ」
アレルヤはそう言って、微笑みを浮かべた。