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営巣解除


あの会話以来、アレルヤはディーアに上手く言葉をかけられなくなっていた。
何か伝えようとしても、ディーアを見ると途端に言葉を飲み込んでしまう。そんな情けない自分が嫌になった。

一方ディーアは何も気にしていないように見える。見れば見るほど、いつも通りの彼女だった。あの会話を気にしているのは、自分だけだったようだ。ハレルヤもあれ以来、表には出てこない。

営巣の入り口が機械的な音を立て、何の前触れも無く開いた。

アレルヤとディーアが顔をあげて目を向けると、入ってきたのはティエリアだった。相も変わらず赤い瞳を鋭く光らせている。


「やあ、独房入りは終わりかい?」


アレルヤは目を向けないまま、自嘲気に言葉を吐いた。


「その様子だと、とても反省をしているとは思えないな」

「そうだね」


ティエリアはその言葉が気に食わないのか、赤い瞳を釣り上げた。
次にティエリアが目を向けたのはディーアだった。


「ディーア・アルカディア、君ともあろうものが任務を放棄するとは……理解できないな」

「期待はずれだったかい?」

「ああ」


ティエリアはアレルヤの時よりも、一層強くディーアを睨みつけた。ティエリアにとって、ディーアのミッション放棄は許せるはずがなかった。それはガンダムマイスターであるからという理由とは別に、二人にしか分かり合えないものがあった。


「だから言っただろう、ミッションは続行するまでもなかったって」

「なら帰還すればよかっただろう。ガンダムの姿を見せる理由は無かった。君には失望した、ディーア・アルカディア」


ディーアは薄く笑みを浮かべながらティエリアから視線を下ろした。

アレルヤは、自分がミッション放棄し協力してもらったばかりにディーアはティエリアから信用を失ってしまったと、罪悪感がわいた。
再びティエリアの視線が自分に向けられ、アレルヤはドキリとした。


「アレルヤ・ハプティズム。君はガンダムマイスターに相応しくない」

「私には言わないのかい、ティエリア?」

「君とラズグリーズは計画遂行のために必要不可欠だ」

「……キュリオスから降ろす気かい?」

「そうだ――と、言いたい所だが、そういう訳にも行かなくなった」


ティエリアが出入り口から身体を逸らすと、戦術予報士であるスメラギが癖毛の髪を靡かせながら部屋へ入ってきた。


「また、貴方たちの力が必要なの」

「スメラギさん……」


不機嫌そうなティエリアの背後から現れたスメラギの言葉に、アレルヤは僅かに目を見張った。


「モラリア共和国大統領がAEU主要三ヶ国の代表と極秘裏に会談を行っているっていう情報が入ったわ」

「モラリア……」

「PMC」

「そうよ、ディーア」


スメラギの話を聞きながら、二人は床から腰をあげる。

モラリアは国内に多くの外国人労働者が居住しており、約4000社の民間企業を有する。そのうちの2割がPMC――民間軍事会社――であり、戦争と軍隊派遣を主産業にしている。


「これは、我々に対する挑戦と受け取って良い。ハードなミッションになるわ。私達も地上に下りて、バックアップに回ります。アレルヤとディーアの営巣入りは解除。三人共、直ちに出撃準備に取り掛かって」


「了解」と、三人の声は重なった。