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ハレルヤ・ハプティズム


アレルヤ・ハプティズムとディーア・アルカディアは、新型機の監視というミッションを放棄し、民間人を救った。それにより、エクシアとデュナメスはキュリオスとラズグリーズのサポートにまわり、結果デュナメスの地球圏からの高高度砲撃能力を早期に晒してしまった。

無論、完璧な計画遂行を望むティエリアはそれに激怒した。少なからず彼らか信用されていたディーアは、今回の一件で信用を失ったと言っても良いだろう。

アレルヤとディーアはミッションを放棄した罰として、スメラギから長期営巣入りを言い渡された。

二人は小部屋に押し入れられ、部屋の隅にそれぞれ座り込んでいた。


「ごめんよ、ディーア。僕がミッションを放棄したばかりに、君まで巻き込んで……」

「構わない。私もミッションを放棄した、貴方と同罪よ」


アレルヤは申し訳なさそうに顔を伏せながら謝罪を述べた。
ディーアも座り込んだ膝を抱え、アレルヤを見ずに応える。

二人の間に沈黙が流れる。居心地が悪いわけじゃない。アレルヤもディーアも、静寂は嫌いじゃない。


「聞いてもいいかな? どうして僕に協力してくれたのか」


膝を見つめた視線をあげ、アレルヤ見つめる。


「君は以前、計画を遂行することが全てだと言っていた。そんな君が、なぜミッションを放棄した僕に協力を……」


まだソレスタルビーイングが活動を始める前。ガンダムマイスターが集まり、本拠地ともいえる基地で日々訓練を続けていた、2年は前の事だ。
アレルヤの言う通り、以前ディーアはアレルヤにそう答えた。今でもそれは変わらない。イオリア・シュヘンベルグの計画を遂行する事は、ディーアにとって全てだ。けれど……。

アレルヤの問いかけにディーアはすぐには答えず、間を開けてからゆっくりと口を開いた。


「貴方が、見捨てられないと言ったから」

「ディーア……」

「それに、新型機は機能停止していた。だからミッションを遂行する意味がなかった。それだけ……それだけ…………」


視線を逸らしてしまったディーアを、アレルヤは見つめる。

ディーアの真意はわからない。しかしディーアが協力してくれたおかげで、早くに救助を完了できた。マイスターでありながらアレルヤは、ミッションよりも自分に力を貸してくれたことが嬉しくて、朗笑を浮かべた。


「ありがとう、ディーア」


朗笑を浮かべたアレルヤをチラリと盗み見て、すぐに逸らす。

――ああ、嫌だ。

ディーアは流れる空気を変えるために「頭痛は、平気なの?」と話題を変える。アレルヤはそれを聞くと、あの時の痛みを思いだしながら「ああ、うん。もう平気だよ」と安心させるように笑う。

パタリ、と身体を傾ける。固い床に体を横たえ、銀色の髪がふんわりと散った。


「ディーア?」

「寝るわ」


アレルヤに背を向けて横たえたディーアはそう言う。
「そっか。おやすみ、ディーア」小さな背中を向けたディーアにアレルヤは優しげな声で言った。

それを境にまた沈黙が流れる。一刻一刻と時が流れるなか、ふとアレルヤは額を片手で触れた。


「(――アレルヤ)」

「(ハレルヤ――)」


頭の中に、身体の内側から、よく知った声が響く。
アレルヤは瞳を閉じた。


「(身体をかせ、アレルヤ)」

「(ダメだ。彼女が……)」

「(その女に用がある。とっとと身体をよこせ!)」


ビクリと肩が揺れる。そろりと片手を下ろし、俯いていた顔をあげ、ゴールドの瞳は銀色の髪を捉えた。

一方ディーアは、身体を横たえただけで瞼は下ろしていなかった。眠ることは無く、伏せがちな瞳で壁の一片をみつめる。その様子は、なにか物思いにふけっているようだった。


「(あの、頭痛……感覚…………やっぱり…………)」


その時、何かが変わった。

視界に影がささる。影が覆いかぶさって暗くなったのを合図に、ディーアは両手をついて上半身を起こした。視界にブーツの足元が映る。ゆっくりと頭を持ち上げ、目の前に立つ彼を見上げた。


「アレ、ルヤ……?」


おそるおそるに彼の名前を呼ぶ声は、戸惑いの色を見せたものだった。
自分を見下ろすアレルヤは、ゴールドの瞳を光らせ、口端をあげた。そこにいたのは、アレルヤではなかった。


「あなた……っ!」


アレルヤではない。そう確信した直後、伸ばされた手に捕まり強い力に引っ張られるまま床に背中をうつ。掴まれた腕は押し付けられ、上に覆いかぶさられたことで身体を縫い止められる。ギリギリと掴まれる強い力に顔を歪めながらも、ディーアは目の前の彼を見上げた。


「よう、久しぶりじゃねえか。なあ? ”ディーア”」

「――ッ!」


好戦的な笑みを浮かべていた。いつも穏やかに、優し気に微笑んでいた彼からは想像もできない表情。声も一段と低くなった気がする。


「ハレルヤ、ハプティズム…………」


ニイと楽し気に口端が上がった。

私は彼を知っている。知っていた。まだ、ソレスタルビーイングが実行部隊として動く前。第三世代のガンダムマイスターが集ってきた、それくらいの時期だ。私は何度か彼に会ったことがある。アレルヤはそれを知らない。私と彼だけが、それを知っている。


「今日こそ話してもらうぜ、てめえが何なのか」


ドキンと心臓が跳ねる。その拍子に口が開きかけたが下唇を噛んで口を噤み、獲物を捕らえる瞳から逃げるように目をそらした。


「どうせ同類なんだろ、脳量子波が伝わってくるぜ?」

「わ、たしは…………」

「そうさ、脳をいじくられ身体を改造されて! お前もそうなんだろ?」

「(――ハレルヤ)」


頭の中にもう一つの声が響く。弱々しく響いた声は、聞きなれたアレルヤの声だった。いまアレルヤはハレルヤに主導権を握られているだけであって、意識がないわけじゃない。アレルヤもこの会話を聞いている。

ハレルヤはアレルヤの声を無視し、自分が組み敷いたディーアに言葉を続ける。


「超人機関の奴か、それとも他にもあんのか? どっちにしても、俺もお前も人じゃねえ! 戦うための道具だ!」

「(ハレルヤ! もうやめてくれ!!)」


一際強く叫ぶアレルヤの声をとうとう無視することはできなくなり、ハレルヤは鬱陶しそうな顔をして、自分の内側にいるアレルヤに言葉を投げる。


「黙れよアレルヤ。今まで問い詰めなかっただけ感謝してほしいくらいだぜ? もういいだろ?」

「(お願いだ! もう、やめてくれ…………!)」


懇願するアレルヤの声。
ハレルヤは納得はいかないも舌打ちをして、押さえつけた腕をつかむ力を弱めた。血が止まってしまいそうなくらい強くつかまれたせいで、その部分は少し赤くなった。

アレルヤの言葉に従うようにハレルヤはゆっくりと身体を起こすが、下から放たれた小さな声にその動きを止めることになる。


「――ええ、そうよ」


顎を引いて俯いたディーアをハレルヤは見下ろす。組引いた際に乱れた前髪と自分の身体が影になって、ディーアの表情は見えづらい。

ハレルヤは黙って次の言葉を待った。

引いた顎をあげ、ディーアはハレルヤを見つめる。ゴールドの瞳。隠れたダークグレーの瞳。ディーアは少しだけ口端をあげた。


「貴方になら、殺されても――よかった」