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干渉


パイロットスーツに着替え、隠されていたラズグリーズに乗り込む。
キュリオスはすでに発進していた。急いで後を追うと機体を起動させれば、通信が入る。


「ディーア・アルカディア! アレルヤ・ハプティズムがミッションを放棄されましたわ! あなたからも……」

「アレルヤ・ハプティズムのサポートにまわる。トレミーへの連絡は任せるわ」


王留美から通信だった。彼女は甲高い声をあげ、アレルヤを止めてくれと訴える。だが、ディーアは止めるどころかサポートを申し出た。王留美は目を見開いて驚いた。


「ミッションはどうするのです!」

「新型は機能停止している。続行に意味はないと判断した」

「待ちなさい! ディーア……」


新型の動きは確認済みだ。何らかの異変で動きを停止していた。

王留美の通信を強引に切り、操縦桿に手を伸ばす。ハロは耳をパタパタさせながら黙って様子をうかがっているようだった。ディーアは自分が今からとる行動に自嘲する。


「人命救助……まさか私がそんなことをするなんて。うっ……!」


ツキン、と頭に痛みが走る。また同じ痛み。
操縦桿に伸ばしていた手を元に戻し、片手で額を押さえる。


「なん、なの……さっきから……! ――ッ!」


痛みで瞑った目を開く。すると、何かに飲み込まれるような感覚に陥った。
意識が正常に働きだした時、目の前に広がる空間は現実のものではなかった。そこは真っ白で、不思議な空間。でも、よく知った空間だった。

精神世界と言葉で表せば、しっくりくるかもしれない。それとも思考空間とでもいおうか。いや、そもそもそんな空間は存在しない。自分たちの脳が、理解しやすいように想像しているに過ぎない。


「だれだ……おまえは……ッ!」

「――!」


痛みにこらえながら蹲っていた真っ白な銀髪を持つ少女は、金色の瞳を釣り上げディーアを睨みつけた。
彼女は頭痛に頭を抱える。ディーアはそれほど痛みはしないが、彼女は痛みに悶えていた。


「私に入ってくる一人はお前か!」


一人はアレルヤだ。ディーアよりも深く干渉していた。そう理解すると同時に、目の前にいる少女が脳量子波の干渉者であることを理解する。伝わってくる脳量子波も、さきほどのと全く同じだ。


「これ、貴方……? そんな、まさか……超人機関の……」

「お前も超兵か……?! いや、私以外に……」


少女は驚いた様子を見せる。そして、ありえないと思考する。

超兵一号として派遣されたのは自分一人だ。他にもいるとは聞いていない。そもそも、一号と自分についている時点で他にいるわけがない。彼女以降、派遣された者もいない。


「まさか、利用されているのか!?」


そして、その答えにたどり着いた。
何らかの理由で連れ出され、望まぬままに利用されていると。なぜそう思ったのか、彼女にも分からない。しかし、たまらなく庇護欲に掻き立てられる。


「お前を、何処かで見たことがある……そうか、お前は……!」

「そんなはずは……ッ!」


そんなはずはなかった。ディーアは彼女に会ったことは無い。彼女がいた場所に、居たこともない。その事実は紛れもない勘違いだ。

だが、少女はそう思う。何処かその姿に懐かしさを覚えた。

途端にお互いの意識が遠のいていくのが分かった。遠ざかる意識の中、思考の中、少女は叫ぶ。


「待てッ! 私は必ず、お前を……ッ!!」


次の瞬間、目の前に広がったのはラズグリーズのコックピットの中。戻ってきた。しばらくして、ディーアは思考を取り戻す。


「――! な、に……いまの……脳量子波の、干渉……?」


額からするすると手を下ろし、目を塞ぐようにする。
脳量子波の干渉。まさかあそこまで干渉するとは。


「ディーア! ダイジョウブ? ダイジョウブ?」

「――!」


ハロの声で一気に現実に引き戻される。
そうだ、アレルヤのサポートに向かわないと。今からするのは人命救助。王留美からの連絡で、トレミーにいるスメラギが上手く立ち回るだろう。

ディーアは操縦桿を前に倒し、キュリオスの後を追った。